15 辺境伯とのご対面です
馬の速度に合わせて森を抜けた私達は、アゾニ村で辺境伯家の馬車に乗り換えて、ストーニアを目指した。
村を去る際に挨拶に行くと、かなりギルドマスターから残念がられた。
その辺は、辺境伯家がしっかりと兵士を派遣するので安心して欲しいとリーズディシア嬢が言っていたので、まぁ、村の安全に関しては問題ないだろう。
そして。
馬車の中で、私はリーズディシア嬢と、地球時代の事も含めて、色々と話をした。
その結果。
最初に会った頃から思っていたが、リーズディシア嬢は物腰も穏やかで、ゲームで悪役令嬢になるとは思えない娘さんだった。
思いの外普通で、良い娘だった。
「転生前は女子高生でしたし、普段から気を付けていますからね」
なんでも、破滅ルートにならないように、色々と努力をしているらしい。
それでも、王太子の心を掴めているという確証は無いらしいのだが。
「その辺りは、ゲームの強制力とかが関係しているのかもしれないわね」
「ゲームの強制力?」
「ええ」
「例えばどんな事があったのですか?」
聞くに、王太子と他の女性が話していたりすると、必ずその女性に悪い事が起こって、リーズディシア嬢が何かしているのではないかと噂が立ったり、そんな事が度々あったとか。結果、王太子がリーズディシア嬢を叱責する場面もあった。
「濡れ衣なんだけどね」
なるほど。
それで王太子との仲はこじれているという訳か。
でも、この顔。
この悲しそうな顔。
リーズディシア嬢は、王太子を諦める事が出来ていないという事か。
「ほぼ、あの方の心が私に向くという事は無いと思っているのだけど、つい、幼い頃の思い出に縋ってしまうの」
そうか。
小さい頃から彼女は王太子を男として見ており、小さい頃から破滅ルートに乗る事を避けるよう努力してきたのか。
それが報われないのか。
「運命って、あるのかもしれないわね」
「運命、ね」
一番嫌いな言葉だ。
ストーニアに向かう馬車の中、私は外に目を向けて、リーズディシア嬢に気付かれないように眉を顰めた。
※
ストーニアに到着するまで、リーズディシア嬢から色んな情報が聞けた。
例えば、ストーン辺境伯の養女となった場合、王都にある王立魔法学園に通う事になるという話など。そこに通う為にはある程度の教養が必要なので、学院が休みの間、リーズディシア嬢の姉に教養を叩きこまれる事になるだろうと。
リーズディシア嬢のお付きとして、同級生として編入する事になるのだそうだ。
などなど。
必要な情報を聞く事が出来た。
そして。
ストーニアに到着した馬車は、貴族街を抜けて、真っ直ぐに城塞都市の中心部である城へと向かっていった。
城門をパスして、城の中へと入っていく。
門を潜った先では、恐らく騎士であろう鎧をまとった剣士たちが私達を列となって出迎えてくれた。
あんまり歓迎しない方向で。
「ねぇ、リズ」
「なに?」
「私の事を、ストーン辺境伯様に何と言って連れてくると伝えたんですか?」
私の疑問を聞いて、リーズディシア嬢は口角を上げた。
にっこりと。
「この辺境伯家の誰よりも強い逸材を連れてきます、とお伝えしているわ」
ああ。
これは、プライドを潰された騎士たちの怨嗟の視線だったか。
リーズディシア嬢、何気に、悪役令嬢じゃないか。
まぁ、良いだろう。
ついてくると決めたのは私だ。
何が起きるのかは大体分かったから、それに従おうかね。
さて、試練だ。
「リーズディシア様、お帰りなさいませ」
出迎えた執事さんも、私に鋭い視線を与えてくる。
「ただいま、セバス」
「旦那様がお待ちですので、謁見の間までお越しください」
しかし、執事さんもレベル532か。
うちのホムンクルス娘達と同じ位には強いのか。
さて、騎士は。
ざっと見渡したところ、レベル的には強いのから弱いのまで居るけど。
「お連れの方も、こちらへ」
「武器は、預からなくて良いのですか?」
「辺境伯様の周りには、私共の精鋭が控えております。ご心配には及びません」
なるほど。
自信あり、って事か。
じゃぁ、ご厚意に甘えよう。
私はリーズディシア嬢に続いて、執事さんの案内に従った。
そして謁見の間に到着する。
そこには。
三十五歳くらいの男性と、三十路に入るか入らないかくらいのリーズディシア嬢に似た美しい女性が居て。
「戻ったか、リズ」
破願して、私達の方へと歩いてきた。
鑑定をしてみると、この男性が辺境伯のようだ。
名前はロイド・フォン・エルミナ・ストーン。
レベルも611とずば抜けて高い。
が。
横に控える女性の方が、レベル的には高かった。
なんと、初めて見る800台だ。
護衛、というよりは、奥方のようだが。
名前もアイリーン・シクル・エル・ストーンと、姓が一緒だし。
さて。
「戻りました。お義兄様、お姉様」
「首尾は、上手くいったようだね」
ストーン辺境伯様は私を見ながら、
「相当な使い手の様だ」
と、リーズディシア嬢に向かってそう言った。
私は入口の辺りで足を止める。
わざとだ。
「ん?どうしたのかね?もっと近くに寄っても良いんだよ?」
「素性も知らない相手に喉元を見せるのは、いかがなものかと」
と、挑発する。
入口でのお礼だ。
これ以上近付くと、執事さんや騎士さんでも止められないという、意思表示だ。
それに対して、騎士さんの一人が声を上げた。
「愚弄する気か!?」
「愚弄?」
現実的に、貴方達が私を数秒止める事が出来る距離感なのだが。
この人は分からないのかな。
さて。
この意味が分かる人は。
と。
二十人中、五人、か。
その中には辺境伯様と奥方も含まれている。
ホムンクルス達は普通に感じていたみたいだから流していたけど、相手の力量を測れる人って、意外と少ないのかもしれないな。
そんな私を見て、
「大分、不快な思いをさせたのかもしれないね。うちの騎士たちが失礼な事をしたようだ、済まないね」
辺境伯様はにこやかにそう言ってきた。
「うちの騎士たちは、皆自分の力に自信を持っていてね、君のような可愛らしいお嬢さんに敵わないと言われると、腹を立てようってものさ」
「事実ですが」
「そうだね。アイリーンでも無理そうだ」
と、辺境伯様は隣の奥方をちらりと見た。
「セバス」
「はっ」
「アイリ嬢に不服があるというものを集めなさい。全員で良いわ」
奥方、アイリーン様と呼ばれていた方が、セバスさんにそう言う。
わたしに相手をさせようという気か?
「悪いね、アイリ嬢。うちの騎士たちは頭が筋肉で出来ていてね、実際に力の差を味わってみないと解らないんだよ」
手合わせを受けてくれるね、と辺境伯様はそう言った。
まぁ、そうなるだろうとは聞かされていたし、こちらとしては問題ないけど。
「怪我人、出ますよ?」
私のその台詞に、その場に居た大半の騎士が顔を赤くした。
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