14 リーズディシア嬢との会話です
「とはいえ」
リーズディシア嬢は、出されたお茶に口を付けながら、
「私が貴女に提示できる条件は、そんなに良いものではないわ」
そう言って、ティーカップをソーサーに置いた。
「給金は月に金貨十枚。ホムンクルスと合わせると、金貨にして六十枚。それ以上は私には許されない金額なの」
それは意外と少ない金額なのかもしれないな。
公爵家のご令嬢ともなれば、湯水のようにお金を使えるものだと思っていた。
「服も食べ物も、父に言えば何でも出て来るわ。ただ、私兵となると話は別。言えば騎士を貸してくれるけれど、私個人の兵士を雇うのは許されていないの」
なるほど、そんなものか。
となると、彼女は全財産を私にかけると言っている訳か。
その意気は良い。
私に全幅の信頼を置いてくれているのは、こちらとしても嬉しいものだ。
「あとは、貴女を貴族待遇で迎える準備も整ったの」
「ほう・・・・・・」
それは、どうやって?
「お義兄様とお姉さまに貴女を迎えたいという話をしたら、条件付きではあるけれど、養女として迎えてくれるという言質を取ったわ」
「条件?」
「まずは貴女の武力を二人に示す事。そして、西の王国と戦争になった場合は貴女の力を貸して欲しいという事。条件はこの二つね」
なるほど。
貴族になるメリットがどれ程の物かはわからないが、リーズディシア嬢に言わせると好待遇になるらしい。
と、ここで私は控えるメルト・プルを見た。
メルト・プルが一つ頷く。
これは破格の条件提示のようだ。
まぁ、封建政治の世の中で身分というのは重要だろう。
だが、一つだけ、私の中にしこりが残っていた。
それは、
「リーズディシア嬢。そこまでして頂けるのであれば、その条件で飲むのは吝かではないのですが、一つだけ、足りていないものがあります」
そこで初めて、リーズディシア嬢の笑みに罅が入った。
「何でしょう?」
「私は、貴女の為人を知りません」
「身分を持ち出しても乗ってきませんか」
「はい」
「では・・・・・」
と、リーズディシア嬢はその細い指を顎に当て、
「お友達、ではいかがでしょうか?」
と言ってきた。
友達。
友達、か。
お友達から始めよう、と。
この娘。
相当切羽詰まっているな。
身分も格下、出会って二度目、おまけに出向いてきている。そこまでして私を欲しがるくらい、彼女は切羽詰まっているのだ。
状況は悪いと言っても良いだろう。
だが。
ここでリーズディシア嬢を見捨てるか?
この、懇願とも言えるお願いをしてくる、娘くらいの歳のお嬢さんを、見捨てるか?
敵も出来るだろう。
敵の中にはリーズディシア嬢の様に懇願して来る者も居るかもしれない。
だが。
「わかりました」
私には、彼女を見捨てるという選択肢は見つけられそうになかった。
「リーズディシア嬢に同行しましょう」
「ありがとうございます、アイリ」
「まずはお友達から」
「まずはお友達から」
「メルト・プル。皆に念話しておいてください。私はここを出て、リーズディシア嬢を手伝う事にします」
「承知いたしました。我々もリーズディシア様についていきます」
「悪いね、勝手に決めて」
「我々はアイリ様に付き従う事が喜びですので、お気になさらないで下さい」
「という事で、リーズディシア嬢」
「はい」
「私は、貴女についていく事に決めました」
「はい」
「が」
「が?」
「このままでは芸がありません」
「それで?」
「三顧の礼というのをご存じで?」
「あぁ・・・・・」
リーズディシア嬢はやっと得心がいったようで、
「では次回、しっかりと用意をしてお伺いしますね」
そう言って席を立った。
私も席を立って、リーズディシア嬢に握手を求める。
「友人として、これからよろしくお願いします」
「ええ、友人として」
そうして手を離し、リーズディシア嬢は部屋を出て、私達は彼女を見送る。
「次で三度目。しっかりと芸を以て貴女をお迎えに参りますね」
そう言ってリーズディシア嬢は騎士に囲まれて去って行った。
※
人が欲しくば三顧の礼を見せよ、という言葉がある。
一に理想を語り。
二に勧誘をし。
三に大々的に迎える。
後にこの世界でも語られる三顧の礼という言葉は、こうやって生まれる事になった。
まぁ、それは私がリーズディシア嬢を決して裏切らず、常に味方であり続けたからこそ出来上がった格言なのだが、これは後世で語られた逸話だそうだ。
かくして。
私は百人にも上る騎士が居並ぶ中を、リーズディシア嬢に手を取られて陣営に加わる事になった。
森の邸宅もアイテムボックスに入れて、準備は万端に整っている。
今はたった七人の陣営だが、必ずリーズディシア嬢を勝利に導いて見せると私は決めている。
とりあえずは、
「まずは、お義兄様とお姉さまに、貴女の武勇を見せつけてあげる所から始めないといけないわね」
上機嫌のリーズディシア嬢に恥をかかせないようにしないといけない。
「どうやって見せつけるのですか」
「ストーニアから少し離れたところにワイバーンの巣があるらしいから、それを一掃してくれという話が出てきそうね」
魔物狩りか。
ワイバーン程度なら、大して苦労もせずに成し遂げる事が出来るだろう。
「あと、予想できるのは、ストーニアの騎士と立ち会うとか?」
対人戦なら得意だ。
「まぁ、難しくないお題を出さないと、養女なんて無理でしょうしね」
「貴女なら出来るでしょう?アイリ」
「まぁ、出来るだけの事はやりますよ、リーズディシア嬢」
「あ、その呼び方はやめて」
「何がです?」
「親しい人は私の事をリズと呼ぶの。貴女は私のお友達になったのだから、ぜひそう呼んで欲しいわね」
「オーケー、リズ」
「さぁ、行きましょうか」
「ですね」
私は馬に跨ったリーズディシア嬢を見上げながら、そう返事をした。
「馬は?乗らないの?」
「準備をして頂いた所悪いんだけど、私もホムンクルス達も、自分の脚で走った方が速いんですよね。だから、馬はいらないんです」
「本当に、規格外よね」
「そういう人材が欲しかったのでしょう?」
「まあ、それはそうなんだけど」
少し不服そうなリーズディシア嬢が、とても可愛かった。
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