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絶望の闇に包まれた城


隠し通路を抜けたフィルたちがたどり着いたのは、埃まみれの古びた物置だった。壊れた椅子や机、使い古された装飾品が乱雑に積まれ、空気にはかすかなカビの匂いが漂っている。


フィルは辺りを見渡しながら呟いた。「ここは…物置?もうお城の中に入ったのよね。なんだか嫌な気配がするわ。」


エイレンは魔法の光を掲げ、慎重に歩を進めた。「お嬢様、気をつけてください。何か潜んでいるかもしれません。」


その時だった。


「ちょっとちょっと、あんたたち、私を置いていくなんてひどいじゃない!」


どこからともなく、陽気な声が響き渡った。薄暗い空間の中でふわりと浮かぶのは、魔法の本マリアだった。


「やーねえ、こんな埃っぽいところで置き去りにされるなんて、私、ひどい扱いを受けた気分だわ~!」マリアはページをパタパタと揺らしながら、文句を言いつつフィルたちの前に漂い出た。


「マリア!」フィルは思わず笑みを浮かべた。「ついてきてくれてたのね。」


「当然よ!」マリアは得意げにページを広げ、「ほら、頼れるお姉さんって言ったでしょ?」と誇らしげに返した。


そのやり取りを見たレオンとフェリシアは、目を丸くして本能的に身構えた。


「な、なんだこいつ!?喋る本だと!?」レオンが剣に手をかけながら叫ぶ。


フェリシアも一歩後ずさりながら、マリアを凝視した。「本が浮いて喋るなんて…どういうこと?」


マリアは軽くため息をつき、「ちょっと、失礼しちゃうわね。私はただの本じゃないの。マジカル・ミセス・マリア、魔法の知識が詰まった天才本よ!」と自己紹介を始めた。


「…天才本?」レオンは半信半疑のまま眉をひそめる。「そんなふざけた名前の本が本当に役に立つのか?」


「ふざけた名前ですって!?」マリアはぷんと怒ったようにページを閉じる仕草を見せる。「剣しか振れない無骨な人間に知恵を貸してあげてるんだから、感謝しなさい!」


フェリシアは冷静な表情でため息をつき、「まあ、喧嘩している暇はないわね。少なくともこの状況じゃ、本当に役に立つのかもしれない。」


フィルが微笑みながら二人に向き直り、「マリアは本当に頼れる仲間よ。私たちを何度も助けてくれたわ。」


レオンはしぶしぶ剣を収め、「…分かったよ。俺はレオン、イゼリス王国の騎士だ。妹のフェリシアと一緒に城を守ってたんだ。」


「私はフェリシア。兄の無茶ぶりにはいつも困らされてるけど、よろしく。」


「よろしく~!これからよろしく頼むわね!」マリアは陽気に返事をしながら、ページを軽く揺らした。





物置を抜けた一行が進んだ先は、闇に包まれた広い廊下だった。闇の中には、人々がところどころに倒れ込んでいる。


彼らの多くは目を閉じたまま、呻き声や悲鳴を上げていた。その中には貴族らしき衣服を身にまとった者もいれば、使用人と思われる姿の者も混じっていた。


「やめてくれ…来るな!」

「助けて…私を置いていかないで…!」


フィルは震える声を聞きつけ、一人の男性に駆け寄った。彼は地面を這うようにして何かに怯えた目をしている。


「大丈夫ですか?私たちが助けます!」フィルが必死に声をかけるが、男性の目にはフィルの姿が見えていないようだった。


「ううっ…許してくれ…俺が悪かった…!」


その様子に、フィルは無力感を覚えたように呟いた。「どうして…こんなに苦しんでいるのに…!」


エイレンが手を引いてフィルを立たせながら、ログを振り返った。「勇者様、彼らを助けることはできないんですか?」


ログは冷静に首を振り、「無理だ。これは姫の闇の力が見せる幻覚だ。それぞれの心に潜む最も深い恐怖を引き出している。奴を止めなければ、この闇は消せない。」


「つまり、姫を倒すしかないのね。」フェリシアが険しい表情で呟いた。


レオンは剣を握り締めながら、悔しげに言った。「ちくしょう、こんなことをして、姫は一体何がしたいんだ…!」




レオンとフェリシアは顔を見合わせ、決意したように言った。「ここからは俺たちに任せてくれ!」


「任せるって?」フィルが振り返ると、レオンは胸を叩いて笑った。「俺たちは城門を開けに行く。ソルディアの援軍を呼ばなきゃな!」


「でも、危険よ!」フィルが止めようとしたが、フェリシアが冷静に続けた。「大丈夫。城の中は私たちが一番詳しいから。援軍が来れば脱出路も確保できるわ。」


「わかったわ、気をつけて!」フィルが見送ると、双子はすばやく闇の中へと消えていった。




フィルたちは双子と別れ、ログが示した方向へ進む。重厚な扉の前にたどり着いた時、冷たい闇の圧力が体を押し付けるように感じられた。


「ここが玉座の間ね…」フィルは震える声で呟き、扉に手をかけた。


「お嬢様、僕が開けます。」エイレンが前に出て扉を押し開けると、そこには渦巻く闇に支配された広間が広がっていた――。










玉座の間の扉を開けた瞬間、冷たい闇の波がフィルたちを包み込んだ。空気は重く、胸が押しつぶされるような圧迫感が全身を襲う。渦巻く闇のエネルギーが空間全体を支配し、その中心に玉座が浮かび上がるように見えた。



玉座にはセリーナ姫が座っていた。その姿はかつての気高い美しさを保ちながらも、全身から邪悪なオーラが立ち上っている。彼女の冷たい瞳は、闇の奥底に渦巻く憎悪と狂気を映し出していた。その傍らには、イゼリス王国の王子カイエンが立ち、姫の肩に手を置きながら戸惑った表情を浮かべている。


「姫様…!」フィルが緊張した面持ちで声をかけると、セリーナ姫はその声に反応し、玉座からゆっくりと顔を上げた。


「誰かと思えば…あなたたち。私を追ってここまで来たのね。」

その声は冷たく淡々としていて、闇が深く染みついたような響きだった。


カイエン王子がぎこちない動きで姫に向き直り、懇願するように言った。「セリーナ…もう、これ以上はやめよう。こんなことをしても、何も変わらない…!」


しかし、セリーナは冷ややかな目で王子を見下ろし、嘲るように薄く笑った。「私を裏切ったあなたが何を言うの?あなたの言葉なんて、今さら何の意味もないわ。」


その言葉にカイエンは傷ついたように目を伏せ、声を失った。


エイレンはフィルの隣で剣の柄を握りしめ、姫の姿に圧倒されながらも「お嬢様…ご注意を」と低く囁いた。


「分かってるわ。」フィルは深く息を吸い込み、気を引き締めて一歩前に出た。「でも、まずは話をしないといけないわ。」


その時、ログが静かに前に進み出て姫を見据えた。「おい、お前…僕のことを覚えているか?」


セリーナは一瞬だけ目を細め、そして狂気の混じった微笑を浮かべた。「あら…私の鎖を解いてくれた勇者様じゃない。生きていたのね。」


「お前はどうしてこんなことをしている?」ログは冷静な口調で問いかける。「闇に取り憑かれて、一体何を企んでいるんだ。」


セリーナは立ち上がり、玉座から降りながら黒いオーラを膨れ上がらせた。「何を企んでいる…?あなたには関係のないことよ。でも、せっかくだから助けてくれたお礼をしなくちゃね。」


その瞬間、彼女の手から黒い刃が形を成し、ログに向かって鋭く飛び出した。


「危ない!」フィルが叫ぶよりも早く、ログは光の盾を素早く展開し、闇の刃を弾き返した。「今度はやられないぜ。」ログの鋭い目が姫を捉える。


セリーナは苛立ちを隠せない様子で、さらに闇のオーラを膨れ上がらせた。「あなたたち全員、絶望を味わいなさい!」


姫が叫ぶと同時に、闇の波がフィルたちを飲み込もうと襲いかかってきた。


「くそっ…!みんな、守りを固めろ!」ログが鋭い声で指示を出し、フィルとエイレンが急いで防御の魔法を展開する。


「姫様!お願いだから、目を覚まして!」フィルの必死な叫びが闇の中に響く。


その声はわずかにセリーナの耳に届いたのか、彼女の目がほんの一瞬揺らいだように見えた。しかし、その動揺はすぐに冷たい表情に覆い隠され、「無駄よ…誰も私を救うことはできない。」


その時、扉が開く音が鳴り響き、駆け込んできたのはレオンとフェリシアだった。


「門を開けたぞ!これで退路は確保した!」レオンが声を張り上げる。


フェリシアは姫に目を向け、冷静に言った。「でも、この闇を何とかしない限り、何も解決しないわ。」


フィルはログと目を合わせ、力強く頷いた。「みんなで力を合わせて、この絶望を打ち払うのよ!」


ログは険しい表情で剣を構え、「分かった。全力でいくぞ。」


レオンが剣を抜き、「俺の剣でこの闇を切り裂いてやる!」と叫ぶと、フェリシアも「私たちも全力で援護するわ!」と剣を構えた。


フィルたちは心を一つにし、セリーナ姫の闇の力に立ち向かうため、最後の決戦に挑む覚悟を決めた――。



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