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絶望の舞踏会〜導かれた先に



ここはソルディア王国の東、魔法と知識の国として知られるイゼリス王国――。その中心にそびえる城では、王子カイエンと幼馴染のリリシアの婚約パーティーが盛大に開かれていた。


煌びやかな装飾が施された大広間には、豪華なドレスに身を包んだ貴族たちが集い、贅を尽くした料理と酒が振る舞われている。高らかに響く音楽と祝福の笑い声が夜の静寂を破り、会場全体が幸福のムードに包まれていた。


「今日は私たち二人にとって、最も幸せな日です。」

壇上に立つカイエン王子が誇らしげに微笑みながら言葉を紡ぐ。その手には、白銀のドレスをまとった美しいリリシアの手が握られていた。彼女は柔らかな微笑みを浮かべ、輝く瞳で彼を見つめている。


その言葉に、会場の人々はさらに沸き立ち、拍手と歓声が鳴り響く。だが、その幸福の空気を切り裂くように、重々しい音が響き渡った。


――ガンッ。


会場の扉が力強く押し開けられる音だった。


視線が一斉に入り口へ向けられる。そこに立っていたのは、一人の女性――セリーナ姫だった。


彼女の姿は異様だった。黒いドレスはまるで夜の闇そのもののように艶やかに光り、その裾がゆっくりと揺れるたびに床に影が落ちる。彼女の瞳には冷たく鋭い光が宿り、唇に浮かんだ微笑みは、その美しさに反してどこか狂気を感じさせるものだった。


「セ、セリーナ姫…?」会場の誰かが震える声で呟く。


「き、君…なぜここに…?」

壇上のカイエン王子も驚愕に目を見開いたが、その表情はすぐに冷静なものへと戻った。


セリーナは答えることなく、ゆっくりと大広間へ歩みを進めた。足音が静寂を切り裂き、会場に集う貴族たちを圧倒していく。


「パーティーへの招待、ありがとう。」

その声は甘く響いたが、不穏な響きが隠し切れていなかった。


「私もプレゼントを持ってきたわ。」

セリーナが小さく手を振ると、彼女の体から黒いオーラが立ち上り始めた。その不吉な力に、貴族たちのざわめきが恐怖の悲鳴に変わる。


「やめろ、セリーナ!」

カイエンの声が広間に響く。彼はリリシアの手を軽く離し、堂々とセリーナの前に立ちはだかった。その目はセリーナの闇を恐れるどころか、その奥に宿る何かを見極めようとしているようだった。


「何が君をここまで駆り立てたのかは知らないが、こんなことをしても、君自身の傷は癒えない!」

カイエンの声には威厳があり、広間全体に響き渡る。


しかし、セリーナはその言葉に小さく笑みを浮かべた。「癒すつもりなんてないわ。私は傷を誇りに変えるの。あなたにその意味が分かるかしら?」


「セリーナ…!」カイエンは拳を握りしめるが、セリーナの黒いオーラがさらに広がり、彼の周囲に重苦しい空気を作り出していく。


「カイエン、あなたに拒絶された私は、ただ静かに消え去るべきだと思っていた?」セリーナの声は冷たく響く。「いいえ。私は私のやり方で生き残った。そして、あなたにその報いを与えるの。」


セリーナの手が再び掲げられると、黒いオーラが波のように広がり、大広間全体を覆い尽くす。壁の明かりが次々にかき消され、温かな光が冷たく暗い闇に呑まれていく。


人々の視界には、それぞれが最も恐れる幻が現れ始めた。「いやだ!」「助けて!」恐怖に震える悲鳴があちこちから上がり、貴族たちは次々と膝をつき、涙を流し始める。


「こんなはずじゃ…なかった…!」

カイエンは闇に抗おうと剣を引き抜き、セリーナに向けて構えた。「止める…君を、ここで!」


だが、その剣の輝きも、セリーナの闇の力にかき消されていく。カイエンの動きが鈍り、ついには膝をつく。その姿を見下ろしながら、セリーナは狂気じみた笑みを浮かべた。「これが私の復讐よ。」


会場全体が絶望の闇に包まれたその時、リリシアが震えながら立ち上がる。

「セリーナ姫…お願いです、やめてください…!」


だが、その声は闇の中にかき消され、セリーナは冷たく微笑んだだけだった。

「お願い?私に向かって?」


彼女が再び手を掲げると、闇の力がさらに強まり、会場の空間はまるで異世界のように歪み始める。


「さあ、絶望に沈むのよ。」


彼女の言葉が広間全体に響く中、人々の叫び声がこだまする。祝福のムードに包まれていた婚約パーティーは、今や絶望の宴と化していた――。










隣国との国境付近では、魔物が増えているとの報告が相次いでいた。その知らせを受け、フィル、エイレン、そして冒険者たちや騎士団の精鋭たちは、一晩の準備を経て凛とした朝の空気の中、一斉に隣国へ向けて出発した。



先頭には騎士団長が立ち、力強い号令とともに行軍が始まる。鎧が擦れる音、馬の蹄の響きが規則的に続き、一行の緊張感をさらに高めていた。冒険者たちはそれぞれ武器を確認し合いながら、興奮と不安の入り混じった表情を浮かべている。その後ろには、フィルとエイレン、そして騎士の列に加わったマルセルの姿もあった。


「エイレン、準備はいい?」

フィルは自分に言い聞かせるように小さく呟きながら、隣のエイレンに声をかけた。


エイレンは荷物を肩に掛けながら、「お嬢様、少し緊張してるんじゃないですか?」と心配そうに尋ねる。


「少しだけね。でも…今は進むしかないわ。」

フィルの声には覚悟が滲んでいた。それを聞いたエイレンは頷き、二人はぎこちないながらも馬の手綱を握り、行軍に加わった。


冒険者たちのリーダーであるバルドも、列の中で鋭い目を光らせていた。彼の背中には巨大な剣が収められており、その異名「嵐を呼ぶ豪剣」の通り、ただ立っているだけで周囲に独特の威圧感を漂わせている。


「おい、お前ら!」バルドが冒険者たちを振り返り、声を張り上げる。「ビビるんじゃねえぞ!俺たちはあの姫を取り戻して報酬を山分けするんだ。乗り掛かった船だ、どんな嵐が来ても抜け出せねえんだからな!」


冒険者たちはそれに応じて声を上げた。「あんたがいりゃ安心だ、バルド!」


彼らの士気が上がる中、フィルの左手に嵌められた指輪が突然、眩い光を放ち始めた。その光は一筋の道となり、遠くの古びた教会を指し示している。


「これは…?」

フィルは驚き、目を見開いて光の行方を見つめた。


エイレンも表情を強張らせ、「指輪が…何かを示しているんですね」と呟く。


「きっと重要なことがあるのよ。」

フィルは光を追う決意を固めると、エイレンと顔を見合わせた。


「お嬢様、騎士団長に状況を説明しておきます。」

エイレンが素早く騎士団長に事情を伝えると、二人は光が導く方向へと急ぎ足で向かい始めた。


その様子を見たバルドが少し驚いた表情で声をかける。「おい、どこに行くつもりだ?」


「光が私たちを導いているんです!」フィルが振り返りざまに答えたが、その言葉にバルドは渋い顔をして手を振った。「好きにしろ。ただし、無茶はするなよ。」


その言葉に小さく頷き、フィルとエイレンは隊列から離れ、森の奥へと進んでいった。



森を抜けると、視界に現れたのは古びた教会だった。



古びた教会にたどり着いたフィルとエイレンは、静寂と神秘的な空気に包まれた中を慎重に足を進めた。苔むした石壁やひび割れたステンドグラスから漏れる光が、朽ちた木製のベンチや祭壇をぼんやりと照らしている。年月を重ねた教会には、どこか荘厳でありながら儚さを感じさせる雰囲気が漂っていた。


教会の中央では、一人の若い女性がひざまずいて祈りを捧げている。その白い衣服が薄暗い空間の中で清らかに輝き、長い金髪が背中に柔らかく流れていた。


フィルが足を止め、声をかけようとしたその時、女性のそばで静かに座る二匹の赤毛の猫が目を開けた。まるで彼女を守るように佇むその姿は、ただの猫とは思えない威厳を漂わせている。


「…あの人は?」フィルが小声でエイレンに尋ねると、彼は首をかしげながら警戒を怠らずに周囲を見回した。


教会内の静けさはそのまま、二人をさらに奥へと誘うように、時間だけが静かに流れていった――。




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