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謁見と作戦会議



訓練場では、エイレンが木剣を握りしめ、騎士たちに混じってぎこちない動きながらも一生懸命に剣術の訓練をしていた。周囲から時折クスクスと笑い声が漏れるものの、その真剣な様子に少しずつ温かい視線が集まっていた。


そこに、フィルとログがやってきた。


「こんなところにいたのね!」フィルがエイレンを見つけて声をかけると、エイレンは振り返り、少し照れたように笑った。


「お嬢様…こんな僕を探していただけるなんて、恐縮です…」


「さっきから見てたが、なかなかの剣さばきだったぞ?」ログが肩越しにエイレンを見ながら軽口を叩く。


エイレンは恥ずかしそうに頭をかきながら答えた。「はは、もうクタクタですよ。でも、少しでもお嬢様を守れるようにならないと…!」


その会話を聞いていた訓練場の中央に立つロウェン・ヴァルター団長が、ふとログに目を向けた。そして、ログの腰に差してある剣に気づくと、静かに口を開いた。


「勇者殿も、なかなか立派な剣をお持ちのようだ。その腕前…ぜひこの場で拝見させていただきたい。」


その言葉に、訓練場が一気にざわついた。


「団長が勇者様と手合わせするのか!?」

「どれだけすごい剣技が見られるんだろう!」


フィルは驚いた顔でログを見た。「どうするの、ログ?」


ログは団長の言葉を受け流すように肩をすくめたが、すぐに腰の剣に手を伸ばした。「仕方ないな。剣士として挑まれたなら応じないわけにはいかないだろう。」


団長は微かに口元を上げ、ゆっくりと自らの剣を抜き放った。「お手柔らかに願いたい。」


「手加減は苦手なんだけどな」ログは淡々と答えながら剣を抜き、団長と向き合った。



団長が鋭い構えを見せると、周囲の騎士たちは息を呑み、静寂が場を包んだ。ログもまた剣を構えるが、その姿はどこか余裕が漂っている。


「参る!」団長の声とともに、一気に間合いを詰める。剣が空を切り裂く音が響き、団長の鋭い斬撃がログを襲う――が、ログはまるで風のようにその一撃をかわし、軽やかに動く。


団長の連撃が続くが、ログはまるで遊ぶようにそれらをいなし続ける。


「さすが…勇者様…!」周囲の騎士たちが感嘆の声を上げる中、団長は眉間にしわを寄せながらさらに力強い一撃を繰り出した。その一撃がログをかすめた瞬間――


「カキンッ!」


鋭い金属音が響き、団長の剣が大きく弾かれた。そしてログはまったくの無傷で立っていた。



カラン…カラン…


弾かれ地面に落ちた剣の金属音が静寂に溶け込むように響き渡り、その場にいた騎士たちは息を飲んだ。



「…どういうことだ…」団長は驚き、目を見開いた。


ログは剣を納めながら、気だるげに答えた。「…僕には物理攻撃は効かないんだ。」


その一言で訓練場全体がざわつき、フィルとエイレンも目を丸くする。


「えっ、それ初耳なんだけど!」フィルが声を上げた。


「そ、そんな特性が…」エイレンも驚愕の表情を浮かべる。


ログはめんどくさそうに答えた。「聞かれなかったから言わなかっただけだよ」


「じゃあ、魔法はどうなの?」フィルがさらに問い詰める。


「効くのと効かないのがある…たぶん。」


「適当すぎる!」フィルが思わず叫ぶと、ログは「僕だって全部わかってるわけじゃないんだよ」と呆れたように答えた。




一連のやり取りを見ていたロウェンは、剣を拾い収め、悔しそうに息をつきながらも微笑みを浮かべた。


「勇者殿、あなたの力には驚かされるばかりだ。ますます目が離せない。」


ログはその言葉に軽く頷き、「まぁ、お前らも自分で強くなっておけよ。」と軽く言い放つ。


その態度に団長は一瞬苦笑したが、すぐに真剣な表情で言葉を続けた。「ですが、万が一の時は、頼らせていただきます。」


ログはそれに対して特に答えることなく、ふらりと訓練場を後にした。



ログの背中を見送りながら、フィルは呆れたように呟いた。「本当に頼れるのかしら、あの勇者様…」


エイレンは剣を握りしめ、真剣な表情で言う。「でも、僕たちももっと強くならないといけませんね。」


フィルはその言葉に頷き、「ええ、次はちゃんと戦えるようにしないと!」と前を向いた。


騎士たちの間に驚きと尊敬の視線を残しつつ、一行は訓練場を後にした。






お城の客間で、一行は久しぶりのフカフカのベッドで体を休めた。旅の疲れが癒され、フィルもエイレンも久々の贅沢に少しだけ心が浮き立つ。だが、翌朝、状況は一変した。




広大で豪華な王座の間に通されたフィルたち。天井は高く、金の装飾が施された壁や、目も眩むような豪華な絨毯が敷かれている。その場には重厚な甲冑を身にまとった騎士たちが整然と並び、緊張感を漂わせていた。


玉座には、この国の王が鎮座している。威厳ある風貌で、彼の存在そのものが場を圧倒していた。ログ、フィル、エイレンの三人に向けられる王の鋭い視線は、彼らの言葉を封じ込めるかのようだった。


王は重々しい声で言葉を紡いだ。「よくぞ参った。我が国が置かれている窮状を理解してもらいたい。勇者よ――そしてその従者たちよ、お前たちには姫奪還作戦に協力してもらいたい。そしてこれは、命令である。」


その場の空気が一瞬にして重くなる。フィルは思わず息を飲み、「姫奪還…作戦…?」と呟く。彼女の心の中で不安が膨れ上がり、エイレンも横目でログを見つめ、次に何が起こるのかを恐れているようだった。


だが、そんな重圧の中でもログだけは肩の力を抜き、相変わらず気だるそうな表情を浮かべている。彼は玉座の王をじっと見据えた後、軽く肩をすくめた。「命令、ねぇ…。それはいいけど、何か見返りはあるんですか?」


「ちょ、ちょっとログ!」フィルは慌ててログの袖を引っ張るが、ログは意に介さず続ける。「こういうのは持ちつ持たれつだろ?」


王はその大胆な返答に少し驚いたようだが、すぐに表情を穏やかに戻し、興味深そうに尋ねた。「ふむ…何を望む?」


ログはにやりと微笑み、淡々と答えた。「城の全ての資料へのアクセス権。それと、自由に国交を行き来できる許可がほしい。」


フィルとエイレンは目を見開いた。彼がこんな要求を出すとは思わなかったのだ。フィルが「そんなこと思いつくなんて…」と呟くと、ログはちらりとエイレンを見やった。その視線に気づいたエイレンは少し照れたように目をそらす。


実は前日の夜、エイレンがこっそりログに耳打ちしていたのだ。「お嬢様を守るためには、何よりも情報を集めることが大切です。城にはきっと重要な資料があるはずですから、それを閲覧できる権利をもらってください。」


ログはそれをしっかり覚えており、あたかも自分が考えたかのように提案したのだった。


王は少しの間考え込んだ後、満足げに頷いた。「なかなか賢い考えだな。よかろう。その条件を受け入れよう。」


ログは薄く笑い、「それじゃ、協力してやるよ。」と気軽に応じた。フィルはそのやり取りに半ば呆れながらも、「やるじゃない…」とつぶやく。ログはそれを聞いて余裕の表情を浮かべながら、わずかにエイレンに向かってウインクした。エイレンは恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、その頼もしさにほっとした表情を浮かべている。


王の一声で、姫奪還作戦は正式に始動することとなった。だが、これがただの「作戦」では終わらないことを、一行はまだ知らない。姫を救うために挑む道のりには、数々の困難が待ち受けているのだった――。








王城の作戦室には、フィル、ログ、エイレン、ロウェン団長、姫の専属近衛兵であるマルセル、そして冒険者リーダーのバルド・ストームハートが集まっていた。広げられた地図には、姫が幽閉されているという海辺の塔へ向かうルートが描かれ、赤い印がいくつもつけられている。険しい山道と谷、そしてその先に待ち受けるドラゴンの存在が、作戦の難易度を物語っていた。


ロウェン団長が地図を指し示しながら説明を始めた。「偵察部隊の報告によれば、姫君が幽閉されている塔へ続く谷には強力な結界が張られ、その周囲を魔物たちが守っている。そして、最も厄介なのは…塔にいるドラゴンだ。」


その言葉に、一同の表情が一気に引き締まる。セリーナ姫の専属近衛兵であり、幼い頃から彼女を守ってきたマルセルが口を開いた。「姫様がなぜドラゴンに攫われたのか、その理由がわからない以上、下手に手を出すのは危険です。ドラゴンは人間にとって未知の存在。むやみに攻撃すれば、取り返しのつかない事態になりかねません。」


彼の真剣な声には、姫への強い想いと覚悟が込められていた。その横で冒険者リーダーのバルドが腕を組みながら豪快に笑った。「ドラゴンねぇ!そんな大物相手なんて、冒険者冥利に尽きるってもんだ!」


バルドの豪胆な発言に、エイレンが小声で「楽観的すぎますよ…」と呟いたが、バルドは全く気にする様子もなく、続けて言った。「俺たち冒険者は、報酬があれば何でもやる。それが命懸けの仕事だとしてもな。だが…勇者様がいれば、今回は案外楽勝なんじゃないか?」


彼の言葉に、冒険者たちは一斉に声を上げて賛同した。「その通りだ!」「勇者様がいりゃ、何とかなるさ!」


そんな騒ぎをよそに、ログは壁にもたれかかって目を閉じていた。ロウェンが軽く咳払いして場を静めると、真剣な表情で地図を指し示した。「まずは山を越え、谷に進む。この谷では、冒険者部隊がモンスターを引きつける。混乱の中で、勇者殿には結界を破壊する方法を見つけていただきたい。そして最終的に、塔へ向かい姫君を救出する。」


その計画に、フィルが口を挟む。「でも、ドラゴンにどう対応するの?結界を破ったとしても、ドラゴンが立ちはだかるなら…」


ロウェンは険しい表情で首を振った。「ドラゴンが姫を攫った理由がわからない以上、下手に手を出すのは危険だ。まずは状況を見極め、可能ならば交渉する。そのためにも、勇者殿の存在が必要だ。」


その言葉を聞いたログが、ゆっくりと目を開けた。「ドラゴンか…僕がなんとかするよ。」


「えっ!?なんとかするって…できるの?」

驚いたフィルがログに詰め寄る。エイレンやマルセルも彼の言葉に耳をそばだてた。


ログは答える。「たぶん…できるんじゃないか?わからないけど」


「たぶんって…!」フィルが呆れた声を上げる一方で、ロウェンはログをじっと見つめた。「勇者殿、あなたがドラゴンと対峙できるというのか?」


ログは少しだけ考え込むように目を伏せ、「まあ、僕の力で何とかなる可能性は高い。でも、その理由までは保証できない。」とあいまいに答えた。


その言葉に、フィルやエイレンは期待半分、不安半分の表情を浮かべた。マルセルは真剣な目でログを見つめ、「勇者様、どうか姫様をお救いください。」と静かに頭を下げた。


「ずいぶん気合が入ってるね。」ログはマルセルをちらりと見て笑った。「でもまあ、僕も一応頑張るよ。」


「一応って!」フィルがツッコミを入れると、バルドが豪快に笑った。「いいじゃねえか!ドラゴンだろうが何だろうが、勇者様がついてるんだ。俺たちはそれを信じるだけだ!」


ロウェンは改めて地図を指し示しながら、慎重に話を続けた。「まずは山を越え、谷に進む。その間に冒険者部隊がモンスターを引きつけ、勇者殿が結界を破る。そして塔に進み、ドラゴンの様子を見て最善の行動を取る。姫君を救出することが最優先だが、ドラゴンに下手な手出しはできない。」


エイレンは緊張した表情で頷きながら、「つまり、ログ様の力が結界突破とドラゴンとの対話にかかっているということですね。」と確認した。


「そうだ。」ロウェンは重々しく頷き、フィルに視線を向けた。「フィル殿、あなたの知恵と判断力も必要になる。どうか力を貸してほしい。」


「わかりました。」フィルは少し不安そうな表情を浮かべながらも、力強く頷いた。「私たちの目的は、姫様を救うこと…そして、ログの解放です。全力を尽くします。」


こうして、姫奪還作戦の全容が決まり、一行はそれぞれ準備に取り掛かった。




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