生殖権
村田野芳治が自殺してからというもの、私は読む本に困っていた。私は彼のweb小説ばかり読んでいたからである。
「生殖促進法が施行され、本日より生殖拒否権が否定されることとなります。ご留意下さい。」
惰性でつけていたテレビのニュースが言う。
なんだそれ?
私は聞いたことがなかった。
私は午後からのバイトに行く。
脱衣所で着替えていると
「河合ちゃん、ぼくとおまんこしようよ。」
バイトの店長がカーテン越しに言う。いつものセクハラか。
「え?」
私はバイトの店長を威圧するために敢えて聞き返す。間髪入れずにバイトの店長は言う。
「え?じゃないよ。生殖拒否権はもうないんだ。生殖を申し込まれたら断れないんだよ。尤も妊娠していたら話は別みたいだけどね。知らなかったでは済まされない。それが法律というものだろう?」
「はあ?意味わからないんですけど?警察呼びますよ!!」
私は怒鳴る。顔が怒りで紅潮するのを感じる。
「警察の世話になるのは果たしてどちらだろうね?もし拒絶したら死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処するらしいよ。国は良い仕事するね。」
バイトの店長の声が笑う。
「それじゃあ刑法199条殺人と同じだ!」
私は、何かの本で読んでいたので、それだけは知っていた。
「生殖しないことで、人を誕生させないことは殺人に等しいという解釈なんだそうだ。流石にどうかと思うけどね。」
「そんなのおかしいよ!」
「そんなこと言って良いのかな?拒絶すれば、わかってるよね。」
バイトの店長が脱衣所のカーテンに手を掛ける。
(助けて!村田野芳治!)
終