第二十九射 殺意と皇女と探し物と
「探せ!まだ近くにいるはずだ!」
「どこ行きやがったあの二人!隈なく探せよ、ちっせー方がそこら辺に隠れてるかもしれんぞ!」
…………息を殺す。
銃と言う圧倒的な火力も、数を前にしては無力だ。連戦に次ぐ連戦を抜けたと思えば、更に増援が来るのだからキリがない。それに、今の俺には手に余る荷物があった。
「…………師匠、大丈夫ですか?」
「…………ん」
彼女の得物である長大な狙撃銃すら持たず、着の身着のまま、普段の格好からは考えられない、フリルの付いた可愛らしいドレスを纏った、ミル・ラガン・ドラグノフが俺の目の前にいるはずである。暗くて見えないが。
「……やっぱ、やめとけば良かった」
「何言ってるんですか、国からの依頼なんですからどうせ断れませんよ」
「他の七色でも出来る」
「それはそうですけど……」
国は何かと家の師匠を重宝して(良いように使っているとも言う)おり、事ある毎に依頼を出してくる。今回の依頼は、とあるパーティーへの潜入任務だった。とある人物が裏取引を行うとの情報が入ってきたらしく、その監視が任務である。
しかしこの任務、これまた奇怪な内容で、実在しない富豪の令嬢として師匠が参加させられていたのだ。俺はその召使い的な役割を充てられていた。しかも実在しない富豪なのに、国が秘密裏に運営を行っているため、他所の富豪も「あぁ、○○さんとこの!」と言った反応を見せるのだ。取引の話とか色々斡旋してくれないかとか言われてもそんなこと知るわけが無く、ドンドンボロが出ていき今の状況を招いている。
国がどうしてこんな依頼をしてきたのか全くもって分からない。もしかしたらただ師匠のドレス姿を見たいお偉いさんが居ただけかもしれない。もし居たなら今度殴りに行こう。
「……ねぇ」
「……どうしました?」
「…………なんか、体が熱い」
「……そりゃこんな狭いとこに閉じ込められてますから」
現在俺たちが隠れているのは、無造作に積まれていた大量のダンボールの中の内の一つである。流石にこの量全てを探すとも思えなかったので隠れたが、師匠の体の大きさから割り出されるとまずいので、早めに脱出せねば……
「…………」
ふと、師匠が体重を預けてくる。そして、そのまま腕を回してきて……
「ちょ、な、何してんですか!?」
「し……静かに、して」
そのまま眠りにつくかのように顔を腹に埋め、ほぅと息を吐く。
「……えへ」
暗闇の中、狭い空間に、男女二人。何も起きないはずがなく……
「はよ出てこんかい!おどれら、どうなるか分かってんねやろな!」
「アニキ!見つかりやせん!」
「バカ、ちゃんと探したんか!?そこのダンボールとかぁどうなんや!?」
やべ。
「見落としてやした!今すぐ探してきやす!」
「ったくおめぇは大事なとこが抜けてんだから……全部ひっくり返してこい!」
まずいな……兄貴分と下っ端以外にもかなりの人数がいるようで、ガヤガヤ言いながらダンボールを物色し始めた。このままでは、見つかるのも時間の問題か……
「……命の危機、だね」
「そうですね、今日死ぬかもですね」
「……それも、良いかも」
「俺はあんまり良くないですけどね」
「そう?じゃ、良くないかも」
「どっちなんですか?」
目の前に死が迫り来る中、ふざけた会話を続ける。極限の緊張の中ではあった。死も覚悟していた。この厳しすぎる世界に飛ばされ、しばらくの時間を過ごし、人の命が脆く儚いものであることも知っている。でも、これはこれで。
こんな終わり方も、アリかもなと…………
その瞬間。
世界の温度が、著しい上昇を見せる。空気が、人が、物質が……この世界を構成する、分子や原子が、途方もないエネルギーを与えられ、急激に運動を始め、発火する。酸素と言う酸素を食らいつくし、周囲全てを灰燼へと帰す。
そんな世界でただ一人、この状況を作り出した元凶が高らかに笑っていた。
「あっはっはっはっはっ!よく燃えるじゃない!なんか燃やしすぎた気もするけど……ミルー!なななーん!燃えてないわよね!?」
「燃えてはないけどあっついわ!確認してから燃やせよ!」
「けほっ……熱い……臭い……」
暴力的な熱量は綺麗に追っ手のみを焼き焦がし、端の方にあったダンボールが消し炭になった位で俺たちは無事であった。
「燃えてないならいいじゃない……どうせ燃えるほど熱くイチャついてたんでしょ?」
「…………んなこたねえよ」
「ん、イチャついてた」
「師匠!?」
「ふふっ、ミルも見違えて素直になったわね!なななんも見習いなさい!」
師匠ほどなのもどうかと思うが。
先ほどまでは間違いなく人間であった、今はもう炭でしかない物体を踏み砕きながらこちらへと歩み寄る少女。身長は俺より少し低いくらいで、ティゼには劣るがかなりのプロポーションの持ち主であり、少女と呼ぶより女性と呼ぶ方が適している。深紅の髪を後ろで一つにまとめており、同じく深紅の瞳が特徴的。緊急の呼び出しだったのか依頼を忘れていたのか、かなりラフな寝巻のような服装である。
彼女の名は、フレイヤ・アストラル・ヤマト。
「ったく、私を呼びつけておいてこの程度の仕事なわけぇ?ま、どうせ暇だったからいいけど」
大大和帝国の第一皇女である。
◇
『君たち、ようやくこの日がやってきたね。長らく準備に勤しんできた、その成果を発揮してくれることを楽しみにしているよ…………あまり前置きが長くてもいけないし、さっそく始めようか。それでは…………これより!第五回、ヴェルメイユ祭を開催する!!!』
ヘイムダルの宣言とともに、開会式会場は雄叫びと熱狂に包まれる。
ここはヴェルメイユ・ファミリアが誇る巨大体育館。この部屋だけでも東京ドームが四つ以上入るだろう敷地面積を持ち、校舎を除けば最大の建造物である。
全校生徒約一万名、教師陣やマスコミ等全員を収容してあまりある広さは、俺の今までの建物の常識を破壊した。なにせ柱も壁もないのだから。ヘイムダル曰く魔法や科学発展の副産物らしい。地震が怖すぎる。言っておくとここは並行世界の日本であり、もちろん地震大国である。
「ようやく本番だな…………なんかすげえ時間が経った気がするぜ」
喧噪の中、バルデがぼやく。無理もない、ここ最近は練習詰めだったし。
「だ、大丈夫かなぁ…………セリフはしっかり覚えてるし、立ち位置も覚えてる、後は、後は…………」
「そんだけ覚えてて何を恐れてんだよ…………」
「い、色々だよぉ…………!」
ユートが顔を青くしながらおびえているのを、バルデが呆れながらフォローする。
「あら月下さん、私と共にあれだけの練習を重ねたじゃありませんの。それをそのまま、もう一度行うだけですわ」
こんな時でもレイサは、マイペースに縦ロールをいじりながら胸を張って堂々としている。
「そうだぞユート、レイサみたいに…………とは言わんが、今までの練習を信じて、堂々と胸張ってればいいんだ」
たまには教師っぽいことも言っとかないとね。
「せ、先生…………!はい、まだ不安はあるけど、頑張ります!」
素晴らしい。
『この度は…………ありがとうございます…………皆さんの…………』
お偉いさんの話の最中なことを完全に忘れて話していたので、何も聞いていなかったがまあいいだろう。
『以上、来賓の皆様からのお言葉でした。それではこれにて、閉式となります。皆さん、羽目を外しすぎず、楽しんできてください!!』
こうして、波乱のヴェルメイユ祭が幕を開けた。
◇
ヴェルメイユ祭は二日間に渡って開催される予定で、俺たちのクラスが劇を披露するのは、今日の午後である。すでに多くの生徒は準備に取り掛かり始め、一つ前のクラスが劇を披露している間に最後のリハーサルを行うことになっていた。
しかし…………
「先生、ミル先生の姿が見あたらないのですが…………何かご存じですか?」
無類のギャンブル好きであることを除けばまじめな博が報告に来てくれた。
最近峰岸先生と色々あって師匠を避けていたこともあり、前と違って登校もバラバラの時間に行っているため、今朝は間違いなく家にいたということしか分からない。
「すまん、俺も知らないな…………ちょっと探してくるから、時間になっても戻らなかったら、俺たち抜きでリハーサルを始めててくれ」
「分かりました、僕も見つからない方に賭けておきますので、早めに戻ってきてくださいね」
これほど頼れる言葉もこの世界には存在しないのではなかろうか。それはそれとして、こいつもしやなんでも思うとおりに世界をあやつれるのか?
流石にそんなことはないだろう…………と、思いたい。
とりあえず、師匠を探しに行くことにした。
しかしこの校舎はあほみたいに広い。がむしゃらに探しても見つかるわけがないので、まずは聞き込みからだ。早速職員室へ向かう。
そこにいたのは。
「やぁ、ちょうどいいところに来たね。君も、彼と会うのは久方ぶりじゃないかい?」
万能、月影・フォーサー・ヘイムダルと。
「そうねぇ…………半年ぶりってとこかしら。久しぶりねなななん、ミルは一緒じゃないの?」
フレイヤ・アストラル・ヤマトその人であった。
燃え盛る烈火の如き深紅を湛えた、見ているだけで活力の波動を感じる立ち居姿は、普段のこの部屋の気の抜け具合からは考えられない物であった。
「久しぶり……師匠とはちょっと、色々あってな。それはそれとして、何でここにいんの?」
彼女とは旧知の仲であり、この国の皇女様を前にしてタメ口が許されているのも彼女からの要請あってのものである。
大大和帝国……俺たちが住まうこの国は、時にこう呼ばれる。
『炎の帝国』
ファーストコンタクトでは、数多くの人々が異能を得た。それは国家上層部も例外ではない。しかし、この国は特殊な事例であった。
皇族は、皆何かしら炎に関する異能を手に入れたのだ。
もちろん、それ以外に炎の異能を手に入れた者も沢山いた。しかし、皇族はその出力が桁違いであった。
口から火を吹く、と言う行為一つをとっても、一般の異能者の眼前に残るのは焦げた物体である一方、彼らの眼前に残る物など塵一つない。
その中でもフレイヤは別格であった。
魔力と呼ばれる、気力や体力との密接な関係が確認されている『異能を行使するために必要なエネルギー』の総量が多いことに加え、先に述べたように皇族であるため、出力が桁違いなのだ。そして産まれながらのずば抜けた戦闘センス、恵まれた体格から、皇族の中でも最強だと言われている。
ここまで聞けば想像がつくであろうが、彼女は七色の一員でもある。
つまり……
「うん、今回の催し……以前説明しただろう?あれに彼女も参加してもらうことになったんだ」
「どんなのがいるのかしら?楽しみで仕方ないわ!」
やはりか……
「えっと……頭おかしいんですか?」
「いやだな、僕は万能だよ?実際に彼女を……七色を生徒たちにぶつける訳ないだろ?実は面白いものを借りてきたんだよね」
と言ってヘイムダルは、一冊の冊子を取り出した。 そこには『拡張現実戦闘訓練機』と書かれており、どうやら俗に言うVRというやつらしい。
「なるほど、考えましたね」
「だろ?これなら七色が本気を出そうが相手が死ぬこともない。皆が全開で実力を発揮出来るという訳だ」
「でもこういうのって結構慣れが必要なんじゃ……」
「大丈夫、既にミルとフレイヤには体験してもらったよ。あとは峯岸先生と、参加希望の生徒たちだけだね」
あ、そうだ。
「そういえば師匠が今どこにいるか知りませんか?今からリハーサルなんですけど」
当初の目標を今更思い出し、ヘイムダル達に問いかける。
「さぁ……どこに行ったかは知らないけど、間違いなく構内にはいると思うよ」
「あ、それなら私が探してあげるわ!私も久しぶりに会いたいしね!」
それは助かる。早速フレイヤは魔法を発動し……え?
「『サーチグラフ』」
しかし、何か起こる訳でもなく、フレイヤは満足そうに頷いた。
「屋上に居るわね……あとなななん、あんた来ない方がいいかも」
「何でだ?ってか今の何?」
「何って私が新しく考えた魔法だけど……この魔法は熱源感知が出来るようになるんだけど、感情を持つ知性体に使うと、固有の温度みたいなのが見えるのよね。これで見分けがつくの。そんでそれで対象のある程度の精神状態が分かるんだけど…………」
フレイヤは一瞬言いよどみながらも、口を開き直して、こう言った。
「とんでもない殺意に満ちてるわ…………あんたなんかやらかした?」
どうも、唸れ!爆殺号!と申す者です。相も変わらずのカスの更新頻度で申し訳ないです……忙しい上にそろそろこの章も山場だし盛り上げつつやりたいこともやらなければならない、というのがここまでキツイと思ってませんでした( ᐛ )
次回はもっと早く更新したいものですね……(無理)
という訳で、また次回の更新でお会いしましょう…………




