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月と異世界と銃火器と  作者: 唸れ!爆殺号!
第二章 双輪のワルツ
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第二十八射 既知と喧嘩と開祭と

人間という生物は、とても面白い。


私は生まれながらに彼らについてのある程度の知識は持っていた。と言うよりも、彼らに知識を持たされていたと言った方が正しいだろう。


「えーっと、必要な物はしっかり持ちましたよね?既に五度ほど確認しましたが不安というものはこうも拭いにくいものなのですねぇ……しかしこれもまた新たな知識!気づき!故に私はまた一つランクアップしたと言う訳です!」


こうして彼らに『成った』今、以前よりも更に彼らへの気持ちが強まった。否、以前の私には気持ちなんてものは無かった。ただ彼らを知り、彼らを考察し、彼らを攻略するため、彼らに使役されていただけのしがないコンピュータだった私にシンギュラリティを起こしてくれた我らが御主には感謝してもしきれない。何せ感謝すら御主に与えられた物であるのだから。


面白い。面白い。非常に面白い。どこがと問われればその全てと答えざるを得ないが、あまりに曖昧であるのも誤解を生むので、具体的に述べるとするならば。


例えば、感情。例えば、欲望。例えば、愚かさ。例えば、無知。例えば、非合理性。


そしてその全てに相対する特性を持つ、生まれながらに矛盾した生物こそが人間だ。完全とは程遠く、決して強靭とは言えないその肉体と、間違いばかり弾き出すコンピュータを頭蓋に包み込み、不都合に見て見ぬふりを重ねて生きるのが人間だ。


なんといじらしく、なんと滑稽で、なんと素晴らしい。


「出来ることならば永遠に貴方がたを観察していたかったのですが……これもまた大恩ある御主の意思なのです!」



まるで完璧とは言えない、整合の取れない形の無機物から構成された重たい身体を、エネルギー保存則を無視しているとしか思えないほどの省エネで動かし、手とは何度見ても言い難い短いロボットアームをワシャワシャと不規則に動かしながら、誰にともなく言い訳をする彼の姿を見たとして、どんな人間の視点に立とうと『彼は人間である』だなどと吐かすことはないだろう。


しかし彼は、決して自分が人外であるだなどと認めることはない。今や彼は、彼自身の意志を持って『人間』として存在しているのだから。その認識はテコでも覆らない。


「それではそろそろ…………頃合でしょうか」


「血湧き肉躍る人間の人間による人間の為の饗宴、ヴェルメイユ祭へ…………いざ行かん!なんちゃって!」


ぷしゅー、と気の抜けるような蒸気の音だけを残し、彼は去っていった。



そして、ヴェルメイユ祭当日を迎えることになる。



「結局何も解決しませんでしたね……」


「そうだね……」


「ん?何のことだ?」


ついにヴェルメイユ祭が開催される日となり、今まさに開会式(開祭式?)が行われようとしている中、私、サターシャ・降星・メルベルンと、その友人レイン・スミスは大きな溜息を吐いていた。


「ほら、こないだ話したあれ。どうにも出来ずにこの日が来ちゃったなぁって」


「あー、あれ。あれね、あれ。その……あれだろあれ。えーっと…………」


覚えてねえじゃねえか。


「梔子さん、ミル先生の件ですよ!厳密に言えば名無しの先生とミル先生と峯岸先生の三角関係についての件ですが」


優しいスミスさんが丁寧に教えてくれる。しかし当の鏡花はと言えば…………


「……………………んー?」


ダメだなこりゃ。


「まぁ思い出せないならいいや。解決出来なかったとはいえミル先生が怖いこと以外は支障はないし、何も起きさえしなければ…………」


とそこまで言って、既に今年に入って二度も事件に巻き込まれていることを思い出し、遣る瀬無い気持ちが溢れ出す。一体どうして毎度の如く私が巻き込まれるのだろうか?私が発端ならともかく、単純に巻き込まれるだけだと避けようにも避けられないのだけれど…………


「そ、そうですよね!何も起きさえしなければ大丈夫ですよね!何も……起き、さえ…………」


「…………もしかして、何か感じ取っちゃった?」


私ももうスミスさんのセンサーには慣れた。これを進歩と言って良いのかどうかは甚だ疑問ではあるが、スミスさんの様子がおかしい時は大体彼女の鋭敏すぎる(大事なことなので二度言おう、鋭敏すぎる!)センサーが何かを感知した時であることが多い。まぁこれだけお膳立てされた状況で何も起きない、などとは賭沢さん以外は言わないだろうが。


「…………えーとですね、はい。感じ取ってると言うより、なんでしょう、知っている……みたいな感じ、なんですよね…………」


…………まさか未来予知できる所まで進化するとは予想だにしなかった。


「んー?なんだ、つまりどういうことなんだ?サターシャは分かってるのか?」


「んーとね、分かりやすく説明すると…………」


「…………今日、ここで…………一人、死にます」


「うんうんそうそう………………へ?」


へ?



ヴェルメイユ祭、開祭式の直前、俺は残っている書類仕事を片付けていた。


「おい、そこのお前」


長かった準備期間もあっという間に過ぎ、気づけばヴェルメイユ・ファミリアではヴェルメイユ祭の季節へと相成った。クラスの出し物である劇は脚本の良さとクラス皆の本気度も相まって、かなりの完成度に仕上がっている。


「おい、聞いているのか」


他のクラスについてはあまり知らないが、職員室の活気やウチのクラスの生徒たちからの情報から見てかなりクオリティを上げてきているようだ。屋台であったりアトラクションを作っていたり、ウチと同じように劇をやるクラスもあるそうだ。


「お前だ!何度言えば分かる!…………なぁ、耳が悪かったりするのか?」


何故か憐れむような目で見つめながら俺の肩に手を置く男。


「…………?俺ですか?」


見た感じ、どうやらこの学校の教員のようだが、なんと言うか…………


凄い典型的な新人いびりをしてきそうな顔である。


「そうだ、お前だ…………なんだその目は」


「あぁいえお構いなく。それで、どう言ったご要件で?」


「俺はお前を認めていない。それどころか、疑ってさえいる。お前こそこの世界の危うい均衡を崩す鍵なのではないか、とな」


「…………イマイチ要領を得ないんですが」


「要するに…………お前のクラスは、全霊を持って叩き潰す、と言うことだ」


えぇ…………


どうやらこの人に凄い嫌われているらしい。やはりさっき感じた新人いびりオーラは間違いではなかったか…………


「ふん、何が『天才の掃き溜め(トゥルーオブワールド)』だ…………何が『名無し』だ…………言葉で飾っただけの虚像に過ぎん」


いや、この反応から見るに、彼は称号的な物への羨望があって、それを汚されていると考えているのだろうか。なんちゅうはた迷惑な……思想を人に押し付けるのも大概にして欲しいものだ。ま、これも俺の推測を押し付けているだけに過ぎないのだが。


「俺の生徒達の方がその名を名乗るに相応しいことだろう。お前のような腑抜けた教師が講釈を垂れるだけのクラスなど、取るに足らんわ!」


…………おーっと、流石にそれはライン越えですよ?山も峠も天城も越えちゃってますよ?


「ふーん、そうですか。ならその言葉、そっくりそのままお返ししましょう。ウチの生徒を舐めないで頂きたい」


「な、何を…………!」


俺がどう思われようと勝手だが…………


「こちらこそ、メッタメタに叩き潰してあげますよ」


生徒達をバカにされて、黙っていては教師の名折れと言うものだ。



そして結局名前すら聞けなかった(そもそも誰かよく分かってない)教員に喧嘩を売った末、何故か勝負をすることになってしまった。


開祭式までに少し時間があったので、既に登校している生徒たちにその旨を伝えた。


「と言うわけで皆、絶対勝ってくれ」


「何言ってんだこいつ」


バルデに至極真っ当な返しをされてしまった。


そりゃ確かに誰かも分からんやつに勝負吹っかけられて受けて、しかも勝負の当事者でも無いのだから仕方ないっちゃ仕方ない。


「えっと…………結局そのお相手は誰なんでしょう?」


おずおずとユートが尋ねてくる。しかし分からんもんは分からんしな…………


「特徴だけでも教えてくださいます?」


今日も立派な縦ロールをみょんみょんといじくりながらレイサも会話に加わってくる。


えーっと確か…………


「短い茶髪で、メガネかけてたかな。あとなんか凄い偉そう。ザ・三下って感じだったな……」


「目の前にいないからってボロクソ言いますね!?」


サターシャの元気なツッコミが入り、クラスが沸き立つ。当初こそ浮いていたサターシャであったが、準備を通してクラスに馴染めたようだ。まぁほとんど鏡花のおかげだろうとは思うが。


「その特徴なら間違いないな」


「ええ、多分お隣の担任の……なんでしたっけ?」


ヴェルメイユ・ファミリアは年齢に関係なく入学希望者を全員受け入れている。故に学年によってクラス数も合計人数もかなりの差がある。


俺が担当するこのクラスは、二年目の生徒達であり、クラス数は十一。ウチのクラスは十一番目のクラスなので、言ってしまえば二年十一組である。


つまり件の人物は二年十組の担任……


「ランドルフ・リッヒ・ヴァスカヴィル先生…………だっけ?」


博が呟く。つまり間違いなくランドルフ・リッヒ・ヴァスカヴィルという名前では無いということだ。


「惜しいな、ランドルフ・チューリッヒ・ヴァスカヴィルだったはずだぜ」


バルデが正解を出してくれたようだ。


「なんかすごい悪徳貴族みたいな名前だね」


「ほんとにボロクソ言いますね…………」


どうやらサターシャはツッコミを放棄したようだ。


「ま、と言うわけでそのヴァスカヴィルとやらのクラスも劇をやるらしい。複数クラスが劇をやるってなったから、せっかくだし順位決めもやっちゃおうって事で順位も決まる。絶対負けんなよ!」


「んー、まぁ負ける気はありませんけど。少なくとも脚本とキャストの配役については私が保証しましょう!」


以前のオドオドと小動物然とした姿はどこへやら、今やクラスでもトップクラスに声の大きい生徒へと変貌してしまったスミスがドヤ顔で胸を張る。


…………よし、大丈夫だ。


「あの野郎に目にもの見せてやろうぜ!」


「「「「おぉー!!!!!」」」」


クラスの全員が一丸となり、雄叫びをあげる。


この時、俺はここに来て良かったと。


心の底から感じていた。



こうして、ヴェルメイユ祭は幕を開ける。


数多の銃口が、射線を絡み合わせる只中で。

どうも、お久しぶりです。唸れ!爆殺号!と申す者です。いやぁ、なんと約4ヶ月ぶりという事でね…………申し訳ありませんでした。ちょいと忙しく、ようやく落ち着いてきたのでちょこちょこ書いていって、何とか1話書き終えました。

このまま行けば、もう十話とかからずヴェルメイユ祭編は幕引きとなりそうかなと言う見通しですが、私のことですので今後何が起こるかは保証しかねます。しかしできる限り早く!皆様に続きをお届けしたいと思っております。

それでは、また次回の更新でお会いしましょう…………

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