第二十七射 月と地球と太陽と
「ね、ねえスミスさん…………?これってストー………………」
「尾行と言ってください降星さん!これは必要なことなんです!必要悪です!」
「悪って分かってるじゃん!流石に犯罪はちょっと………………」
まあ、皆さんもうお気づきでしょう。現在私、サターシャ・降星・メルベルンとレイン・スミスは、ストーキングをしている。列記とした!犯罪行為を!よい子の皆さんは真似しないで!
そしてもちろんストーキング対象は先生と、もう一人の女性………………スミスさん曰く、峯岸零という先生らしい。スタイルがよく、綺麗な黒髪が特徴的で、クールそうな雰囲気を漂わせるthe大人の女性といった感じだ。二人がちょうど宿直室から連れ立って出てきたのを見た私たちは、結局二人がおでんの屋台に入るところまでしっかり見てしまった。うう、これで私も前科持ちか………………
「しっ、静かに!…………見てください降星さん、一つ前の路地に誰かいます。あれは………………」
夜闇に未だ慣れない私の目では何も見えない。それはスミスさんも同じはずだが………………まあ十中八九彼女が誇る超精度のラブコメセンサーの賜物だろう。いや、そういえば純愛サイコホラーも未来のラブコメも分かるんだっけ。もはや異能と同等と言っても過言ではない化け物センサーを持つ彼女は、今や私の知る彼女ではないのかもしれない………………
「ミル先生、でしょうか………………ぐぅっ、なんてすごい純愛のオーラ!私の頭が破裂しそうですぅ!」
「お、落ち着いてスミスさん!あんまり大きい声出すと気づかれちゃうから!」
どうやらミル先生までもストーキング活動にいそしんでいたようだ。世界最高峰のスナイパーの能力をこんな軽犯罪に使わないでほしい。
「………………ねえスミスさん」
「はい、なんですか降星さん?」
「私たち、元はミル先生の起源を治すために原因を探りに来たのに、ミル先生がこの現場を見てたら意味なくない?」
「………………そう、ですね。いや、かなりまずいです。このままいけば、この世界から一つ尊み爆発カップルが消えてしまう………………!それはダメです!それだけは!」
ああ、やはりかつてのスミスさんはもういないのか…………あんなに可愛らしかった彼女も、今は欲望の操り人形と化してしまった。あんなに常識的だったのに!
「とはいっても、この状況では手出しができません。いったいどうすれば………………」
スミスさんが腕を組んだその瞬間、何かとてつもなく嫌なものが私たちの周囲を吹き抜けた。何か、とてつもなく恐ろしいものが…………スミスさんも気づいたのだろう、小ぶりながらも整った顔を真っ青に染めて、震えていた。いやこれ私の数十倍は細かく感じ取ってるな。
「ああ、もうダメです!お終いです………………」
「えっと、やっぱりさっきのやつ?」
「ええ、そうです………………とんでもないことになってきました」
「と、とんでもないことって?」
聞きたくない。聞きたくない、のだが………………状況的に聞かざるを得ない!いやだ!どうせまたくだらないことなんだ!
「あの峯岸という女性が先生に告白したようで………………それが、ミル先生の耳に入ってしまいました」
「………………?この流れならそこまでは当たり前じゃない?」
「そうなんですが………………どうやらミル先生は、今まで無知だったからこそあの程度で済んでいたようで。そして今、彼女は知ってしまいました。『自分が愛した人を、他の人が愛してしまう』という、至極単純にして当たり前なことに、気づいてしまったんです!」
お前は本人かと突っ込みたくなるほど的確ですね………………しかも彼女のセンサーの今までの成果を上げてみれば、これがマジで正解である可能性が最も高いというどうしても信じがたい結論にたどり着くのだから恐ろしい。
「えっと、気づいたら、どうなるの?」
「決まってるじゃないですか、そんなの………………」
震える肩を抱きしめて、小さく息を吐いてから、決心したように私に視線を合わせて、彼女が言った。
「純愛サイコホラーの幕開けですよ」
なるほど。
さっぱり分からん。
◇
「好きだから」
「好き、だから」
「『好き』………………………………」
そうか。
なんでもっと、早く気づけなかったのだろう。この世界には銃弾の数より多くの人間がいて、そのうちのおよそ半分は女性なのだ。一部の男性を除いて、それらすべての女性はこうなる可能性が万に一つでもあると、どうして考えつけなかったのだろう。
至極単純で、当然で、何の変哲もなく、ありふれた光景。
誰かが誰かに恋をするだなんて、私のような女にでも起こりうる、普通のことだ。
そして、その対象が、彼になるかもしれないというのも、また当たり前のことだった。
考えてみればむしろ今までそんな存在が現れなかったことの方がおかしいのだろう。こうして私がどうしようもなく彼を求めているように。どうしようもなく彼を愛してしまう女性が現れないと、どうして結論付けられるだろうか。
逸る動悸が抑えられない。狙撃手としてあるまじき理性の崩壊が起こっていることなど微塵も気にすることができないほど、私は憔悴していた。
もしも。もしも彼が、あの女性を選んだとしたら…………?
否、むしろ最近の彼の動きを鑑みるに、そうでない可能性のほうが低いと見るべきだ。つまるところ………………
彼が、あの女の物に?
「そっか」
「潰しちゃえばいいんだ」
◇
瞬間、怖気が走る。まるで恐怖の大魔王でも降臨したかのような背筋の震えに何とか耐えながら、今のを全く感じ取っていないのであろう、未だに酒を呷り続けては気持ちよさそうに息を吐く峯岸先生へと言葉を返す。
「峯岸先生………………本気、ですか?」
「本気か…………って、それが勇気出した女の子に返す言葉にゃの~?なーちゃんってばやっぱそういうところよね~!あっはっはっはっはっは!!!!!!」
…………ダメだ、完全に酔いつぶれてやがる。仕方ない、そろそろ帰ろう。ポケットからお札を出し、峯岸先生の目の前に置いておく。
「…………はぁ、全く。そろそろ俺は帰ります。それと…………死なないでくださいよ」
「………………『僕の師匠を仲間殺しにしないでください』でしょ。あんだけ殺気浴びて気づいてないわけないじゃない」
おぉ、流石は腐っても自称最強のスナイパー。どうやら気づいていたらしい。というか気づいてたなら、なぜわざわざあんなことを………………
「全く、これだからなーちゃんはダメね。ホントダメ。そりゃ今までの女性経験があのクソガキだけじゃこうもなるわよね~」
………………言い過ぎでは?
「………………当てつけと、宣戦布告。それだけよ」
当てつけと、宣戦布告………………
「ちょ、それって………………」
「それじゃあまた明日ね~!ばーいばぁーい!あっはっはっはっはっは!!!!!!」
何が面白いのか大きく手を振りながら大爆笑する峯岸先生を尻目に、俺は帰路を行く。
………………まさか、自分がこんな状況に陥ることになるとは思ってもみなかった。
かつて日本で読みふけった、懐かしいラノベを思い出す。彼らは一体、何を想ってこの状況にいたのだろうか。
おれは。
ただひたすら。
くるしいとおもっています。
どうもお久しぶりです。唸れ!爆殺号!と申す者です。はい、まただいぶ日にちが空きましたがようやく更新です。やはり二作品同時はきついですね。趣味でやっているので、書きたいときに書けるというのは気楽でいいですが、やはり読者様を待たせてしまうのもストレスですね……………… まあストレスだろうとこれ以上の速度での更新は現実的に不可能なのですが。
重い話はここら辺にしておいて、謝辞のコーナーへ行きましょう!
ブクマ一件頂きました!ありがとうございます!この作品にもついに二件目のブクマがつきましたか………………うれしい限りです!
それではまた、次回の更新でお会いしましょう………………




