第二十四射 進捗と台本と奸計と
「どうだスミス、台本の進み具合は?そろそろ皆練習を始めたほうがいい頃合いだし、だいぶ進んでくれてると助かるんだが…………」
「大丈夫です先生、今の私…………いえ、私たちは、この世界のだれよりも恋愛を極めた乙女です!私に書けぬラブストーリーなどありませんよぉ!!」
俺は夢でも見ているのだろうか。いつも教室の隅で大人しく読書しているか、話しかけられてもアワアワしているだけだったスミスがやる気に燃え、そしてサターシャや鏡花、それにホスト…………もといスノウフルとまでも仲を深めて、今では口喧嘩すらするほどの関係になったと聞いたときは、一応それが狙いの一つだったとはいえあまりにも早い展開に耳を疑ったものだったが………………
「先生!ヒロインのミル先生たっての希望で、ヒロインのパートナーが先生に決まったんですが、先生のほうからも何か希望はありますか?」
ほう、それまたおもしろ今なんて?
「おいおい待ってくれよ、師匠がヒロインなのは分かるがなんで俺がそのパートナーなんだ!?そこはもうほら…………バルデとかでいいだろ!」
「知りませんよそんなの。ミル先生からの希望ですし、私もラブコメの波動を感じたので了承したまでですから。あとバルデさんは却下です。バルデさんには梔子さんと降星さんと一緒に悪役をやってもらいますので。それで先生、なにか配慮が必要なことはありますか?」
うわあ…………どうしてこんなことになってしまったのだ、俺としてはできるだけ師匠とは距離を置きたいというのに、まさか劇をやるというアイデアがこんな形で仇になるとは………………
「俺をその役から外す配慮は…………?」
「それはできない相談ですね先生、私のラブコメセンサーは桜木さんをインタビューしているうちにどんどん鋭敏になっていましてね…………今では愛の重さすら分かるようになってしまい、その愛に影響を受けて興奮するようになってしまったり…………特にミル先生のオーラはすごいですね!先生への思いは今までに感じことがないほどのヘビーさでしたよ………………あぁ、思い出すだけで興奮してきました…………!!」
もしや俺はこの子の決して開いてはいけない扉を開いてしまったのだろうか…………俺の目の前で息を荒くしながら恍惚の表情を浮かべ始めるスミスに恐怖を覚えたが、とりあえず台本自体はかなり進んでいることが分かりホッと一息つけるというものだ。最近協力者として適当に選んだ(もちろん最強の助っ人というのは嘘だ。あの二人ならだれとでも仲良くできると考えただけである)鏡花とサターシャとともに校舎中を走り回ったり付属病院の病棟を走り回ったり(いつも怒られている)と忙しそうにしていただけはあってよかった。
「はぁ、はぁ、じゅる………………はっ!?す、すみません先生、醜態をさらしてしまって………………」
ホントだよ、超怖かったよ。
「あぁ…………まあそれは気にしないで、ある程度決まったらクラスの皆に下ろしてやってくれ。師匠が乗り気なのを見て皆もやる気が出てきたみたいだしな」
「はい、分かりました!それでは失礼します!」
以前のおどおどした態度は見る影もなく、今では元気な女の子になったスミスが職員室を去っていくのを見守っていると、ふと視線を感じた。実はここ最近、暇さえあればこちらを凝視してくる存在がいた。そして今回ももちろん、いつものあの人だろう。
ふっと腕を天に突き出し、まるで偶然伸びをしましたよと言わんばかりの態度で彼女に視線を向ける。気づかれていないとでも思っていたのだろうか、俺が顔を向けた瞬間慌てたようにそっぽを向いて、かすれた口笛を吹き始める始末だ。…………まったく、用があるなら話しかけてくれればいいものを。面倒だが、立ち上がり、彼女のほうへと向かった。
「最近何か様子がおかしいみたいですが…………何かありましたか、峯岸先生?」
流石にバレていたと気づいたのか、観念したかのようにため息を吐くと、彼女…………峯岸零は言った。
「…………いつから気づいてたの」
本当にバレてないと思ってたのか…………
◇
「というわけでヒモのアンタから情報を聞き出すことにしたわけ。さぁ、吐きなさい!」
「そういわれて易々と情報を吐くバカがいるなら拷問だなんて風習は生まれなかったんですよ」
職員室を出てすぐにある給湯室で、淹れたての温かい緑茶をすする。うまい。
峯岸零…………出会ってすぐに俺をヒモ呼ばわりした挙句師匠に対して並々ならぬ執着を見せる彼女は、長い黒髪に、少し鋭い黒い瞳を持つ、大和撫子味を感じる美人だ。しかし、師匠のこととなるといつものクールな印象が崩れて、子供の癇癪の様にブチ切れる残念な女性だが。
そんな彼女はつい先日、師匠がこのヴェルメイユ・ファミリアへとやってきたその日に月影からヴェルメイユ祭のメインイベント(?)である、七色との戦闘体験ができるブースで師匠と戦ってほしいと頼まれたそうだ。確かに彼女は普段から何かと師匠を敵対視しているみたいだしちょうどいいのかもしれないが…………
「それでなんで俺を訪ねてくるんですか?そういうことなら師匠の弟子にあたる俺は峯岸先生にとっちゃ敵みたいなものなんじゃ…………あと俺はヒモじゃないですよ!今ここで働いてるじゃないですか!」
「私があんたを訪ねた理由なんて分かり切ってるでしょ?一番あのガキの近くにいるあんたならアイツについていろいろ知ってるって考えるのが普通じゃない。それにあんたが話そうと思わなくても、究極私が話させるんだから関係ないわ!」
傲岸不遜、尊大ここに極まれり…………なんという面倒な女性に目をつけられてしまったのだうちの師匠は。面倒くさいったらありゃしないので、さっさと適当に答えてお暇することにした。
「で、何が聞きたいんです?あの人の強さの秘訣とか聞かれても俺は知りませんよ?」
「そんなこと聞いたって何にもならないじゃない。私が求めている情報は、あんたについて…………よ」
俺について………………?そんなことを聞いて何になるというのだろうか。
「正確を期していうなら、あんたとあのガキとの間に何があったか………………ね。以前見たときとはかなり違うじゃない。そりゃあ三年も経てば変わるものかもしれないけど、少なくともあのガキの中にこうまでなる何かはなかったわ。あんたが何かしたのかしら?」
「俺は何も…………家事をしたり偶に仕事手伝わされたり…………それくらいですよ。あと本当に俺たち、あなたと会ったことあります?こっちとしては全く記憶にないんですが………………」
俺の言葉が癇に障ったのか、見るからに不快そうな顔をしながらも峯岸先生は話を続ける。
「へぇ………………あれだけ私の邪魔をしておいてその程度の記憶なのね。まあヒモが覚えてなかろうと、あのガキが覚えてればまだいいわ。それに………………ふーん、あんたおもしろいじゃない。こんな人初めて見たわ」
「へ?」
特に何かしているわけでもないのに急に面白いと言われた。もしかして顔のことだろうか。だとすればこの人には倫理の欠片もないということになるが…………
「あぁ、そういえばあんたは私のことを知らないんだったわね。私の異能は『彼方の境地』、なんというか、普通の人にはない新しい感覚の持ち主なのよ。それがあんたに対して何の反応も示してないの。こんなのは今までに一度だってなかったわ。生物にもそれ以外にも平等に働く私の超感覚で感知できないなんて、あんた一体何者?」
『彼方の境地』………………狙撃手………………峯岸零………………
だめだ、ここまで聞いても知らない。完全にあちら側がこちら側を一方的に知っているのだろう。だが、ちゃんと話すのは二度目だというのに俺の異質感に気づくとは、もしかしたら彼女もかなりのやり手なのかもしれない。俺に対して同じようなセリフを吐いたのは鏡花だったか、全ての本質を見通す彼女の異能と同程度…………もしくはそれ以上か。これまた、困った人に目をつけられたものである。
「俺はただ、名前が思い出せなくてちょっと銃が使えるだけの男ですよ。峯岸先生が期待しているほど何かが飛びぬけてるわけでもないですし」
「謙虚なのね…………この私に警戒させたのよ?あんたは凡人なんかじゃないわ。私が保証してあげる。あと、ヒモだなんて言って悪かったわ。あんたたちがイチャイチャしてるのがうっとうしくてつい…………」
先ほどまでの苛烈な態度はどこへやら、一転何か認めてもらえたようだ。俺としては面倒くさいのが一人減るからありがたいが、こうまで急に態度を変えられると空恐ろしくもある。
「皆イチャイチャしてるだなんて言いますけど、俺としてはそんなつもりはないんですよ…………むしろ距離を置こうと考えているのに…………」
「えっ!?」
「うわっ、なんですかいきなり…………」
何が気にかかったのか驚きの声を上げる峯岸先生。
「今なんて!?」
「え、師匠とは距離を置きたい…………と」
そう答えると、まるでクリスマスプレゼントをもらった子供の様に、俺の手を掴むと叫び声をあげた。
「それだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あぁ………………グッバイ俺の鼓膜………………今まで世界中の美しい音を俺の脳に届けてくれていた俺の鼓膜にサヨナラを告げなければならないほどの大声を上げる峯岸先生の声は校舎中に響き渡り、あとでエリオにうるさいと怒られていた。
どうもお久しぶりです。唸れ!爆殺号!と申す者です。一月以上空いてしまいましたがようやく事態が進展し始めます…………この先もかなりの時間がかかると思われますがお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。それではまた、次回の更新でお会いしましょう………………




