第十九射 春と祭りと襲来と
「ヴェルメイユ祭?」
「ああ、毎年この時期、新入生も慣れてきた頃に開くのが慣例になってるんだ。ほら、最近色々あっただろう?ここで無事にヴェルメイユ祭を開催出来れば、世間様にも顔向けができるってものだと思わないかい?」
「はぁ………」
いつの間にか相談役的な立ち位置に落ち着きつつある俺が今日も校長室に呼び出されたので来てみれば、開口一番これである。
「正直、あんまりそういった気分にはなれないんですよね……ヘイムダルさんも言うように色々ありましたから」
「だからこそ、さ。前も言ったように、これは君が背負うべき責任では無い。口で言ってもあまり伝わっていないようだから、無理矢理にでも元気を出してもらおうと思ってね」
俺の後ろ向きな言葉に、ヘイムダルは笑みを絶やさずに返した。
今までいくつもの修羅場をくぐりぬけ、その度に何かを手に入れ、何かを失ってきた。でも、いつもそばにいた師匠を失うことは無かった。本当に大切なものを、失ったことは無かったのだ。ちょっと上手くいったからと調子に乗った結果、今回のように本当に大切なものを失うことになってしまった。
思った以上に、キツい。
この世界で生き抜く覚悟は決めたつもりだったが、やはり平和な日本で育った俺には、過酷すぎる。
「弟子よ」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、いつになく真面目な顔をしたヘイムダルと目が合う。
「君の選択は、何一つ間違っちゃいなかった。ただ、少し運が悪かっただけだ。前にも言った通り、彼女は私たちが必ず治して見せる。何に変えても。………だから、そんな顔をしないでくれたまえ」
力強く、世界一頼れる男に言われては、何を言い返す気も起きない。
そうだな、いつまでもこのままじゃいられないんだし、そろそろ一度、吹っ切れるべきなのかもしれない。
「ええ、分かりました。きれいさっぱり忘れる……だなんてのはできませんが、少しづつでも、生徒たちのためにも、元気出していきますよ!」
目の前の青年に負けず劣らないように、力を込めて。笑いながら言葉を返す。それに満足したのか、ヘイムダルは、嬉しそうに笑う。
「ああ、その意気だ。これからも、彼らを頼んだよ」
「はい!」
春の暖かさが眠りを誘う穏やかな午後、俺は再び、二度と大切なものを手放すものかと心に誓うのだった。
◇
その後、ヘイムダルからヴェルメイユ祭の計画についての概要を聞いた。
「ヴェルメイユ祭は、俗にいう学園祭、文化祭に位置するものだ。各クラスが各々催しを考え、それらを発表する。実に単純だろう?」
立ち上がると、机に広げられていた書類の内一枚を手に取り、俺に見せてきた。
ヴェルメイユ祭と大きくプリントされた用紙には、予想される催しや各クラスの予算、その他必要な物等が記されていた。
「なんというか……思ったより普通ですね。俺がいた国でもこういうのありましたよ」
そうつぶやくと、ここぞとばかりにヘイムダルが身を乗り出した。
「そう言うと思って………ある秘策を用意した。こちらの書類を見たまえ」
手渡されたのは、先の白黒印刷の書類とは比べ物にならないやる気を感じる派手な色彩のものだった。なになに…………?
「七色の試練………って、これ本気ですか!?」
「ああ、もちろんさ。近頃はこの学び舎も平穏な生活を享受し、危機感などそこらへんに捨ててきたような状況だったからね。ここらで一度喝を入れておかないと」
さも普通の催しかのように楽しそうに語っているが、ここに書かれているのは平和からは程遠い内容だった。
「七色との戦闘の許可、それにメンバーを打ち倒せば新たな七色として採用…………はっきり言います、あなたバカですか?」
「僕、一応全能らしいんだけど…………」
「ふざけてる場合じゃありませんよ!もしこんなもん開催したら、いったい何人の無謀な人たちの死体が積み上がるか…………」
そう、普通に考えて七色には勝ちようがない。彼らは人間の域を超えたヘイムダルの全能すら凌駕する、まさしく世界最高峰の人間たちだ。戦闘に向いてない人も数人ほどいるが、彼らが参加することはないだろうし、まず間違いなく家の師匠が来る。だってあの人暇人だもん。
「………………もし今のが悪いニュースなら、もう一つ悪いニュースがあることになるんだけど」
「………………聞きましょう」
すごく言いづらそうに、さっきまでの頼りになる顔はどこに置いてきたのか、怯える小動物のような顔で。
「もうこの企画、通っちゃったんだよね」
俺は書類を床にたたきつけた。
◇
春の陽気な陽光がガラス越しに教室を照らす。ぽかぽかと温かな電車内で居眠りしそうになりながらもたどり着いたこの部屋は、ある話題で満ちていた。
「そういえばもうそろそろヴェルメイユ祭の時期だな。お前ら去年は何やったんだ?」
バルデがつぶやく。当初の苛烈な印象は既に鳴りを潜め、今となってはクラスのムードメーカーである。
「ぼ、僕のクラスは、模擬店だったかな………クレープとか焼いたんだ」
ユートくんは雰囲気にマッチしたふわふわとした感じで、これまたかわいらしいことをつぶやいている。
「私のクラスは魔法射的………………とかいうやつでしたわね。あれの何が面白かったのか、私には全く分かりませんでしたけど」
レイサは相も変わらずこんな感じである。まぁ、我が強いのは基本的には悪いことではない。
「そうか?あれ結構楽しかったぜ?景品もいいもん入ってたしよ。サターシャは?」
それにこたえる鏡花から、急に私に話が飛んできた。
「……………えっ?ああ、えっと、私のクラスは………………」
私の言葉と同時に教室の扉が開く。先生が来るにはまだ早い時間なはずだが……………と、扉のほうを見やる。
「あれ、いない。たしかここって言ってたのに………………」
そこには、あまり高くない身長のスーツの似合わない青年ではなく、少女が立っていた。
透き通るような長い銀髪、射貫かれてしまいそうな深紅の瞳、そしてとても小柄な体躯に似合わない大きな黒い包みを背負った少女は、こちらを向いて問いかけてきた。
「ここが、『天才の掃き溜め』、だよね?」
『天才の掃き溜め』?いったい何の話だろうか?
「…………ま、そうだな。で、あんたは?」
静寂を切り裂き、鏡花が問いに答えを返す。…………さも当然かのように認めたけど、本当に何のことだろうか。
「私?…………名乗るほどのものじゃない」
感情の起伏が薄いようで、さっきから顔の筋肉をほとんど動かしていない。受け答えも不愛想な感じである。でも、何かを感じる。
「………………『深淵写鏡』、オープン」
「………………………………」
鏡花の魔眼の効果を受け、少女の正体がついに露わに…………
「うわあああああああああああ!!!!!!!!」
「きゃっ!?ちょ、なんですの、鏡花さん!」
少女の本質を覗き見た鏡花が錯乱したかのように叫び、ガタガタと震え出した。
「お、おい、梔子………………」
「梔子さん………………?」
その場のみんなが見守る中、鏡花が言葉を発する。
「せ、先生が………………」
「「「「先生が?」」」」
「先生が、先生で、先生の、先生による、先生のための、先生も先生なのに先生から先生を先生にして……………先生なんだ………………」
………………
「「「「は?」」」」
ここまで見事にシンクロすることは、後にも先にもないだろうという見事なシンクロ率で、私たちは疑問を返したのだった。
どうも皆様、お久しぶりです。唸れ!爆殺号!と申す者です。またひと月ほど空いてしまいましたが、ようやく更新できます……今後もまたこういう事が多々(多々!!)あると思いますが、どうかお許しください。そしてそして、この期間の間にブクマ1件いただいておりました!ありがとうございます!それでは又、次回の更新でお会いしましょう……(次はもっと早く出すぞ!)




