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第10話 王牙会の総長

 昼下がりのバー『エンジェル・ハイロゥ』

 営業時間外の店内はまだ照明が入っておらず薄暗い。

 テーブル席の1つに座ったパープルは机に肘を突いて手の上に顎を乗せ、浮かない顔をしていた。


斬因(ざいん)が西にまたバカでけえ組織を作ってよ……』


 羅號(らごう)のセリフを脳内で思い返すパープル。

 煌神町(こうがみちょう)を支配下に置けばその組織の幹部になれると……羅號はそう言っていた。

 つまり連中は西の斬因から(そそのか)されてこの町に姿を現したということだ。


 かつて同じく四天王と呼ばれていた男のことを考えるパープル。

 斬因……冷酷で残忍な切れ者。

 そして何より野心の塊のような男だった。


 大戦の頃、ゼクウの四天王は似ているようでそれぞれ目的としていたものは異なっていた。

 羅號は人間をいたぶり殺す事に悦びを見出していたし、骸岩(がいがん)は戦乱そのものを楽しんでいた。

 自分は戦いの果てに自分や舎弟たちの居場所があるのだと信じていた。

 そして……斬因は。

 あの男は自分を支配者とする王国を打ち建てるつもりだったのではないかとパープルは思っている。


(斬因……アンタは今でもあの頃の狂った夢の中にいるわけ……?)


 その時、パープルの視界に影が差した。

 見上げると顔面をボッコボコの青痣だらけにした鬼哭会(きこくかい)の組長がいる。


「……ひ、ひゃーふぅ(パープル)……」


 呻くようにそれだけ言い残して組長はその場にベシャっと倒れ伏す。

 その背後にはエトワールが立っていた。


「おい、こら、オカマ」

「なぁ~によう」


 剣呑な視線を向けてくるエトワールをパープルもジロリと見上げる。


「このバカが全部ゲロりましたよ。テメーの差し金じゃねーか、奴らがちょっかいかけてきたのって」

「あぁ~ら? その言われ方は心外だわぁ。私はただ余計な手間を省いてあげただけよ」


 倒れて昏倒している組長をパープルが見下ろす。


「こんな連中に羅號たちをどうにかできるわけないでしょ? 奴らがこいつの組を乗っ取ったら煌神町で好き放題始めて結局この辺の顔役の黒羽が対処しなきゃいけなくなってたはずよ。つまり私が何もしなかったとしても連中とアンタたちが戦う事になってたのは同じってこと」


 エトワールはパープルのテーブルを挟んだ向かいの椅子をやや乱暴に引いてそこに腰を下ろす。


「けどテメーにはテメーの目論見があったんだろ? ウチらを戦わせてそれ見物して何を考えてた?」

「……そうね、そこは否定しないわ。私はアンタたちの実力(チカラ)を見極めさせてもらった。私が正体を明かすに足るだけの相手なのかをね」


 そう言って白スーツの男は大げさに肩をすくめて見せる。


「私が昔の名前を明かすのってどんだけのリスクあるかわかってる? 私は非公式ながら今も絶賛指名手配中。幕府の連中からすれば喉から手が出るほど欲しい首よ」

「命綱をこっちに渡したって言いてーんですか」


 エトワールの言葉にパープルがニヤリと笑う。


「これで私はアンタたちを裏切らない、裏切れない。まぁ~念書みたいなもんだと思ってもらえればいいわ。それだけのものを託す相手なんだから私だって慎重になるわ。泥船に乗る気はないもの」

「その頼もしいパープルさんが味方になってウチらになんの特典(メリット)があるんですかね」


 ふふん、と鼻を鳴らして背もたれに身を預けて長い足を組むパープル。


「私は別にアンタたちの味方面する気はないわ。ただ利害の一致した者同士付かず離れずのちょうどいい関係を築いていきたいとは思ってる。そんなわけで早速アンタたちに提供できる情報があるわ。ここで喋りにくい話だしこれからちょっとそっちにお邪魔しましょうかしらね」

「お土産包みなさいよ。ウチはこの前食べたシャーベットでいいや」


 エトワールに「ちゃっかりしてんのねえ」と肩をすくめるパープルだった。


 ─────────────────────


 ウィリアムは入院中なので黒羽探偵事務所には幻柳斎と優陽の2人がいる。

 そこにパープルを伴ったエトワールが帰ってきた。


 本当に持ってきたお土産のシャーベットを手渡すとパープルは挨拶もそこそこに応接用のソファにドスンと腰を下ろす。


「それじゃあ、さっそく本題に入らせてもらうけど羅號をこの町に寄越したのは王牙会(おうがかい)……知ってるでしょうけど西州のマフィアで私と同じ四天王の斬因が作った組織よ」

「そうか。……東州への進出を目論んでおるという話は聞いておったが」


 顔をしかめる幻柳斎。


「羅號本人から聞いたから間違いないわ。東へ出てくる足掛かりにするつもりだったじゃない?」

「王牙会については1つとんでもない噂を聞いておるんじゃが……」


 老人が低い声で言うとパープルが頷いた。


「ああ、あれね……。()()()()()()()()()()()()()()()()()ってやつ」

「……はぁ?」


 それに対して懐疑的な声を上げたのはエトワールだ。


「なんだそりゃ、えらい事じゃねーですか」

虚報(ガセ)でしょ~? どうせ。本当だったらとんでもないわ。幕府軍が出張って国ごと焼き払うんじゃないの?」


 ないない、と手をヒラヒラ振るパープル。


「私火倶楽(ここ)でゼクウの首が晒された時人間に混じって見に行ったもの。(たお)されたって聞いてちょっと半信半疑だったからね。凄かったわよ~首だけでも馬鹿でっかくて。四天王だった私が保証するけど、あれは正真正銘本物のゼクウの首だったわ」

「そうじゃな。あれはワシも見た。首だけでも妖気が凄まじくてのう。見物客も気絶するものや狂乱するものが出るほどじゃったな」


 過去を思い返しているのか、目を閉じている幻柳斎。


「んじゃーなんでそんな噂が流れてんですかね」

「私が思うに……ゼクウの影響力(ネームバリュー)を利用してるんじゃないかしら。今でも裏社会……特に妖怪たちの間では妖怪王(ゼクウ)の名は絶大な影響力がある。斬因は頭の切れる男よ。それらしく用意した偽物をゼクウであるように匂わせておけば部下になりたい兵隊が勝手に集まってくるわ」


 パープルの推理にエトワールがなるほど、と頷いた。

 そこでシャーベットを食べていた優陽が何かが気になっているような顔をする。


「ゼクウ……なんか聞いた覚えがある名前?」

「だからオメーが昔ブッ殺した奴の名前だっつーの」


 半眼のエトワールが言うと今度はパープルが「は?」というような顔になる。


「ブッ殺した……?」

「ああ、そーか。そいつ刻久(ときひさ)。ゼクウをブッ殺したのはそいつです」


 怪訝そうな顔で優陽をジロジロと眺めるパープル。

 優陽は不器用なウィンクをしつつピースしている。


「刻久ってアンタ……女の子になっちゃってんじゃないのよ」

「オメーも男だか女だかよくわからんもんになっちまってるだろうが。あーもう説明がめんどくせーな」


 はぁ、とため息を1つ吐いてエトワールは語り始める。

 天河優陽(てんかわゆうひ)という1人の少女の数奇な運命について……。


 ……小一時間後。


「酷いわ! 酷すぎるわぁ!!」


 パープルはハンカチをべしょべしょにして号泣していた。


「年端もいかない少女になんていう過酷な運命なの!? あんまりよ!! 残酷すぎるわ!!」

「まあ、コイツが自分でいいっていうから流されてはきたけど確かに大概な話ではあるな」


 キーッとハンカチを噛んでいるパープル。

 その大概な話の残酷な運命の少女は白黒映像のテレビで落語を見て暢気に笑っている。


「可哀想に!! アナタはもう戦わなくていいのよ!! これからは幸せな人生を歩んでちょうだい!!」


 優陽を泣きながらパープルがガバッと抱きしめた。


「うわあちょっとこのでっかいおじさん香水の匂いがキツいな~」


 優陽の方は微妙な顔をしているのだが。


 ─────────────────────


 火倶楽城、筆頭家老宍戸(ししど)豊善(ほうぜん)執務室。


 執務机に座る険しい顔の豊善の前に灰色のコートの男が立っている。


「逃がしただと? お前がか……?」

「捜索はしましたが発見に至らず。面目次第もございません」


 そう言って六角(ろっかく)武憲(たけのり)は慇懃に頭を下げた。

 豊善が六角から失敗の報告を受けるのはこれが初めての事だ。

 この男は失敗の報告も成功の報告もまったく同じ調子でするのだという事を豊善が初めて知る。


「どうするのだ。あの女には施設内の()()を見られているんだぞ」

「目下人員を増やし捜索中です。それと情報が来ても世間に出回らないように報道には手を打ちました」


 不機嫌さを隠そうともせずにフーッと荒々しい鼻息を吐く豊善。


「……わかった。最善を尽くせ」

「御意にございます」


 頭を下げて六角が静かに退出する。


 ……その15分後。

 六角が誰かに電話を掛けている。


「ええ、はい……。すぐに自分が処分される事はないでしょう。代わりがいませんので」


 受話器を手に話す六角の口調は相変わらずの淡々としたものだ。


「はい、仕事に対する勤勉さはそれなりにあると自負しておりますがね。愛国心も持ち合わせてはいます。……ですが、生憎と武士道精神はありませんので。殺されるとわかっている相手に立ち向かおうとは思いません。それだけですよ。ご心配なく、言われた通りのことはします。また連絡を入れます。それでは……キリコさん」


 そして話し終えた六角は静かに受話器をフックに戻すのだった。







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