§ 002 ~宿屋『静寂』~
入国検査も終わり、さっそくセレスティアの正門を抜けると外は太陽が沈みかかっていた。とりあえず近くの宿屋へ向かうことにした。近くの宿屋と言っても、毎年この国へ帰ってくるのは同じ時間帯なので止まる宿もいつも一緒であった。なのでどこに泊まろうか迷うことは確実にない。私は例年通りその宿屋へと足を進める。
しばらく歩いていると見えてきたのは、木でできた小屋みたいな感じで今にも崩れてしまいそうであり、周りの雰囲気に全くあっていない違和感を覚えるような建物だった。ディアナはさっそくこの宿屋に入ることにした。
「いらっしゃいませ」
ドアを開けるとあまり元気ではないが女性のあいさつの声が聞こえた。この声は宿屋『静寂』の店主であるリコ・ジョンソンだった。彼女は、セミロングの黒髪の30代くらいで小柄な女性である。
「リコさんこんにちは」
「アッ、ディアナ様じゃないですか!また一年ぶりですね。」
私がリコさんに挨拶をすると一年ぶりにあうリコさんは私を歓迎してくれた。さっそく私はリコさんに部屋を案内してもらった。
部屋に入って少しゆっくりしていると、少しお腹がすいた私は夕食にしようとしたのだが、この宿は建国祭の時期は外に出店が出ているため、ぜひ観光客の人には宿の食事よりも出店の食事を楽しんでほしいということから夕食のみ出ない。なので私はさっそく夕食を探すために出掛けるのであった。
宿を出てみると、そこは建国祭の準備でにぎわっていた。この建国祭ではたくさんの出店が出るので食べ物に困ることはないのだが、大勢の人間が苦手な私にとって、このにぎわった人通りの多い道を歩くことは、非常に困難なことなのである。
できるだけ人の少ない道を探しながらぶらぶら歩いていると、おいしそうなにおいがしてきた。私はその匂いにつられて、あるお店の前まで足を運ぶ。
「あら、そこのかわいいお嬢ちゃん、この肉饅頭はいかが?」
「あ、あのー。ひひととつつだけ、、、もらってもいいですきゃ?」
『嚙んだ。最悪だ。恥ずかしい。怒られる』
この肉饅頭の店主は、髪の毛はない。だが、その額にはとても大きな切り傷があり、とても厳つそうな人で、緊張してしまったのだ。しかし、
「はいよ!」
と肉饅頭屋の店主が私に二つ肉饅頭を渡してくれた。
「お嬢ちゃんはかわいいからサービスだ」
といって一つの肉饅頭の値段で、ふたつ肉饅頭をもらった。意外と親切な店主だった。
「あ、あのーありが、ありがとうございますぅ」
と言いながら私は走っていった。
とてもやさしい肉饅頭屋の店長さんにもらった肉饅頭は、できたてなのかとても暖かく、噛めば噛むほど中から肉汁が溢れてきて、涙が出るほどにおいしかった。こんなにおいしいと、お礼もちゃんと言えずに走って逃げてしまった自分を本当に攻めたくなってしまう。
「また会ったときにきちんとお礼いわなきゃ」
と独り言をつぶやきながら、お腹がいっぱいになったディアナは、一人で静かに人通りの少ない道を選びながら『静寂』へと戻っていくのだった。
さすがに2つも肉饅頭は量が多すぎるので、『静寂』にもどって、リコさんにもう片方の肉饅頭を上げることにした。彼女は私と同じような性格なのか、私ほどではないが、人見知りなところがあるので、建国祭の時には人が多いため、外へは行かないらしいので出店の食べ物がとても珍しかったのか、
「あり、ありがどゔございまずー!」
と食べながらそして泣きながら喜んでくれた。まるで数分前の自分のように。肉饅頭を食べ終わったリコさんを見てから私は自分の部屋へと向かっていくのだった。
長旅で疲れた私は、いつもよりも早めに眠りにつこうとするが、今年の建国祭はいつもよりもやけににぎやかであり、それが絶えることがなく、夜であるというのに外の声はなくならない。なかなか眠りにつけなかったので、いったん部屋の窓から外を見てみる。するとそこには、例年であればたくさんの屋台があったりするだけなのだが、今年はなんと、なかなか大きなステージが用意されており、そのステージでは、もうすでにライブなどが始まっていたりしているのだ。まだ建国祭は始まっていない。それでも、祭りのような賑わいを見せていた。そんなライブステージも、しばらくするとプログラムが終わったのか、静かになり始めたので、私は再び自分のベッドに行って眠りにつくのだった。
翌朝、カーテンから差し込む太陽の光によって目が覚めたので、いつも通りのルーティーンをすましてから、朝食をとるために宿屋の食堂へと足を運ぶのだった。この宿屋は、夕食は提供されないのに、朝食は提供されるというよくわからないシステムが建国祭期間中にはある。そんなことはさておき、朝食には、焼きたてのパン、とても暖かいジャガイモのスープ、生野菜のサラダと単純であるのが、とても気持ちが暖かくなるような食事だった。
『静寂』の宿に泊まるのは一日だけなので、朝食を食べ終わった後は、チェックアウトを済ませてリコさんに、また来年も行くと約束をしてから、城へと向かうために歩き始めた。
城へ向かう前に私は、服屋へ寄っていくことにしている。私はそこで一年分の服を毎年買っているのだ。特に、ディアナは持っているローブのフードを常に深くかぶるため、フード以外のファッションというものには興味がないので、毎年同じローブを5着ほど買い、それを毎日ループさせている。
宿屋を出てしばらく歩いていると、目の前にはとてもカラフルな塗装がされた建物が現れ、看板には『アンダーソンクロウズ』と書いてあり、いかにも服屋であることをその名前が出していた。さっそくその服屋に入ると
「いらっしゃいませ!あ!ディアナ様。お元気でしたか?」
このハイテンションで出迎えてきたのは、少し小柄で、顔は整っており、黄色の瞳と金髪がとても似合っている。しかも、胸はしっかりあって、あまり上半身に実がない私が、嫉妬してしまうほどであった。この女性は、店長のシャーロット・アンダーソンである。
「お久しぶりです。今年もあれをお願いしてもいいですか?」
この店の店長は、毎年私がこの建国祭の時期になると、王都に戻ってくるというのを知っているので、この時期だけは店番をしており、私が来店してくるのを待ってくれている。その理由は、シャーロットが私のローブを作っているからだ。私は、4,5年前は毎年服のデザインを少し変えてくるシャーロットの行動に対して、文句を言っていたのだが、このテンションが高い店長に対して、それは逆効果であり、より私に気に入ってもらえるようなデザインにしたい、と彼女の探究心に火をつけてしまって以来、多少のデザインの変化をいちいち口にすることはやめたのだった。それでも、この店長の作るローブは結構頑丈であり、動きやすくとても軽いので、私自身は結構気に入っているのだが、やはり店長は、私に一番似合うデザインを常に考えているので、こうして店に入るとすぐに試着が始まるのだ。
今年も店に入り、少し会話をしたと思ったら、急にシャーロットが私の腕を掴み、試着室へと連れて行った。そして、さっそく試着が始まるのだった。ところが、なんと今年は、昨年と比べてデザインに全く変化がなく、しいて言うならば、少し布の色が黒色から紺色へと変化していたくらいだった。
「今年はあまりデザインを変化させなかったのですね?」
と聞くと
「僕のこころには、君がその服を着た時の姿がささったからね!だけど、黒だと少しじみすぎるから今年は紺色にしてみました!」
「そうなんですね」
私は着替えが終わったので試着室から出る
「どうですか」
「……」
なんと店長は立ったまま気絶してしまったのだ。
「シャーロットさん!!」
「はっ!いや、ごめn、あまりにも紺色とそのデザインが君にぴったりで気を失ってしまった。」
「いや、それはいいすぎですよ」
「そんなわけあるもんか!いや、マジで似合ってるよ。同性の僕でも惚れてしまったよ!結婚しよ!」『やだ、私人生で初めて告白された。でも、、、』
「ごめんなさいそれは無理」
「辛辣!!」
「結婚よりも先にお会計をお願いしてもいいですか?」
と無理やり話を変えて、この場から早急に離れるのが合理的であると判断した私は、さっそく彼女に、会計をさせるよう誘導するのである。会計を済ませた私は、店を出るのを必死で阻止するシャーロットを振りほどいてから店を出たのであった。
この服屋でかなりの時間をとられてしまったので、私はさっそく昼食をとるために、仕方なく人気の多い大通りへと歩きだして、おいしそうな屋台を探し始めるのだった。
服屋でかなりの体力を持っていかれたため、昼食はがっつり食べたいなと考えていると、目の前に焼き魚の屋台があった。
『いや、焼き魚って』
と心の中でツッコみをいれると、意外とその屋台から魚の焼けたいい匂いがしたので、それにつられて気が付くと屋台の目の前まで来ていた。屋台の店長と最小限の会話で焼き魚を買うと、さっそく人気のないところを探し、まだ温かいうちに焼き魚を食べる。買った焼き魚を一口食べると、表面の皮はパリパリで身はふわふわ、とても温かく塩加減もちょうどいい。屋台にしてはとても満足できる焼き魚であった。というか、焼き魚の屋台など本当に初めてみたのだった。焼き魚を食べ終わると本来の目的がある城へと足を進めていくのだった。
途中、休憩がてらどこかで店に飲み物が売っていないのかと探したときには、昼の大通りはピークを迎えていたので、大勢の人の波にのまれてしまったり、押し倒されたり、知らない人に迷子扱いをされたりと、踏んだり蹴ったりの時間を過ごしたりしていた。しかし、そんな子どものような私を見て、ある飲み物屋のとても優しそうなおじさんに
「お嬢ちゃん大丈夫かい?迷子かいな?お父さんとお母さんが来るまでこれ飲んで待っていな」
と私にフルーツオレを渡してもらったので、ありがたく受け取った。飲み終わると
「あ、あのー、フルーツオレありがとうございました!」
といって、私は代金をお店のおじさんに渡して、細い路地へと走って逃げたのだった。
「はぁ、はぁ、今度こそ言えた!」
私は、肉饅頭屋での出来事をふまえて、人にもらった恩はしっかりとお礼を言わなければならないと思い、今回はしっかりと自分の思っていることを、知らない人に伝えることができたのだった。正直とても怖かった私は、その場で数分ぼーっとしてしまったのだ。先ほどの緊張のあまり、せっかくフルーツオレを飲んだというのにまたのどが渇いてしまったのが痛手だった。
この建国祭は、人がたくさんいるので、それを避けるために城まで遠回りをしたり、寄り道などを多少しながら行ってしまったために、本来なら2時間ほどでつくはずの城まで、約4時間と2倍の時間をかけてようやく城の門の前まで到着したのだった。
城へ入るためには、入国の時と同じように身分証明書を見せ、自分が六賢者であることを門番の人に証明する必要がある。といっても城の門番は毎年同じ人がしているので、今年も同じ門番の人が立っていることに安心しながら、六賢者の証明を終わらせることができたのだ。証明方法も入国の時と全く同じなので、正直そんなに時間はかからない。いつも通り別室へ移動し、検査員に短縮詠唱魔法を自慢するだけでよいのだ。それに、知っている人が審査員なので、全然緊張することなく、とてもやりやすかった。
検査を終えたころには、もう夜になりそうになっていたので、入城検査を終えた私は、さっそく城内へと足を踏み入れるのだった。今日は城で用意された個室で止まる予定なのである。
ご一読ありがとうございました!
誤字脱字や変なところ、アドバイスなどガンガンしていただけると嬉しいです。
次回3話も来週のこの時間にする予定です!