宝石を冠する精霊
「あんたもまあまあ戦えるようになってきたし、そろそろ私の力を取り戻しに行きたいわね……!」
「それって……他の人工精霊を探しに行くってことか?」
「ええ、当然よ。いつまでもこんな弱々しい状態のままなんて……ストレスが溜まって仕方ないわ」
ルカはジルのことを少しは認め始めているのか、『まあ、及第点ね』と口にする。
それは彼女自身の戦闘能力にジルの力を足し算して、他の人工精霊とも渡り合えると判断したということだ。
それに伴ってルカが望むことは、己を取り戻すこと。
そして、ルカ自身の野望を叶えるためにしなければいけないことがある。
そのためにお互いを利用し合う関係性なのだが、相方に認められるというのはジルにとって喜ばしい事だった。
ジルからしてみればルカは十分強い。
しかし、彼女は今の自分自身を顧みて苦々しい表情を浮かべた。
千年前ならもっと強かったという全盛期とのギャップ。
失ったコアストーンと失くした力。
それに対する苦しみやもどかしさはどうしてもあるということだ。
「探すって言ってもな……俺は他の精霊の事は何も知らないからな」
「そういえばまだ何も話してなかったわね。戦うべき敵を知らない状態で殴りこむのも馬鹿らしいし、あんたにも他のやつらのことを教えておくわ」
「ああ、助かる」
ルカにとってはかつての仲間、という関係でもなさそうだが、それでも見知った関係であるのは確か。
何も知らないジルはちょっとした情報でも入れておくに越したことはないと判断し、ルカに説明を求める。
「って言っても他の精霊達について教えてあげられる事なんて、名前とかちょっとした特性くらいだけど……それでもいい?」
「それで構わない」
「あっそ。じゃあまず火の精霊ラナ・ガーネット。私達五体の中で一番最初に生まれた個体ね。私達人工精霊の中で一番火力に特化した性能をしているわ。私、あの脳筋熱血バカ好きじゃないのよね……はぁ……」
火の精霊、ラナ・ガーネット。
ルカの話によれば元々内包する火の属性をそのまま前面に出したような性能で、攻撃性に特化しているらしい。
だがその熱さなどは攻撃面だけでなく性格にも表れているようで、ルカは思い出すのも嫌といったような表情で嫌がる素振りを見せた。
ため息のおまけつきだし相当嫌なんだろうとジルも顔を引きつらせた。
ルカはなんだかんだ色々考えて理性的に行動するタイプ。
脳筋直情タイプとは相性が悪いのかもしれないというのは容易に想像がつく。
「次は水の精霊レイ・ラピスラズリね。こいつは精密性に重きを置いた性能をしているわ。物静かだけど怒ると怖いわよ」
「怒らせたことがあるのか?」
「ラナがね。あいつバカだからすぐ周りに突っかかるし、レイともそりは合わなかったわね」
ジルは彼女達のことは知らないが、ルカの説明だけでそんな情景を思い浮かべることができた。
まるで火と水の相性の悪さを体現したかのような関係性。
ラナとレイ。ジルにもその二人が反発しそうなのは容易に想像できた。
「ルカはどうだったんだ?」
「レイと? 単体の性能しか持っていなかったときはそこまで仲は悪くなかったはずよ。混ぜられた後の私は前にも話した通り、他の精霊は自分の糧としか思ってないわ」
単体の、というのは純粋な闇属性だけのルカを指す。
その時は普通に接していたとしても、今は取り込むべき糧というのが彼女の見解だ。
ルカがそれでいいのならばと、ジルは何も言わない。
ただ、その願いを叶えるべく邁進するのみ。
「悪い、話を逸らしちゃったな。次は……風か?」
「ええ、風の精霊ロア・ソベリル。何となく想像ついてるかもしれないけど、こいつはスピード特化よ。一点に特化した性能をしているからか知らないけど、ラナとは気が合うクソガキよ」
「クソガキって……ルカはそのロアってやつの事も嫌いなのか?」
「致命的に合わないわ。昔も……多分今もね……」
どれだけ合わないかはルカの表情の歪みようからよく分かる。
皮肉もないストレートな言いように、どれだけ嫌いなのかよく伝わる。
「そして光の精霊リン・シトリーンね。そいつは守護と癒しに全振りしたような性能よ。何かを癒し、守り抜くことに関して言えば誰よりも秀でている」
「俺達で言うヒーラーってところか」
「いいえ、それは違うわ。そっちに性能が偏ってる分、攻撃の性能はそんなに高くなかったけど……他のやつらの力を取り入れたことでそれは克服している。と言っても本家には劣っているし、あまり舐めすぎはよくないって話ね」
元が防御特化でも今は全精霊が他の属性を持っている。
火属性の火力や、水属性の精密性、風属性のスピード、光属性の防御性、他の属性のいいところを詰めた性能になっている。
ルカが話しているのはあくまでもメインの性能だということを、ジルはいつの間にか忘れていた。
「で、一番最後がこの私。闇の精霊ルカ・アメジスト。私は……汎用性特化ってところかしらね」
「汎用性?」
「ええ。私が思うにだけど、五属性全てを混ぜ合わせる計画は初めからあったのではなく、途中で発生したもののはずよ。私だけがすべての属性に本家本元と同じレベルでの水準で適応ができたのは人工的な手が加えられた結果だと思っているけど……ごめんなさい、あくまでもこれは私の推測。根拠はないわ」
「ということは他の精霊の属性の適応にはばらつきがあるってことか」
「ラナは水、レイは火、ロアは光、リンは闇がしょぼかったと思うわ」
ルカがしょぼいと言っても、それはルカから見ての話。
いくら汎用性に欠けていたとしても、それが彼女達が弱いということの証明ではない。
それでも、何かしらの劣っている点というのは有利に立つためのつけ入る隙になるかもしれないので、ジルはこれらの話をしっかりと頭の片隅に残す。
「そんで? ルカは手始めに誰を探す予定なんだ」
「そこよね……。私はレイかリンがいいと思ってるけど」
「それは……あれか? ラナとロアが嫌いだからか?」
「それもあるけど、その二人は火力と速度、戦闘における大切な要素を持っているわ。だから、私としてはレイかリンから力をぶんどってからそっちの二人に当たりたいわね」
誰を標的にするか。
単純に好き嫌いで選出した面子がルカの口から発せられたが、そこにはきちんとした訳もある。
決してラナとロアが嫌いすぎて顔も見たくないという私的な理由ではない。
「前に自分のじゃないコアストーンを本人に返すか否かの話で意見が割れたって言ったわよね?」
「ああ、確か二対二対一になったんだっけ?」
「そう。そしてその意見に賛成だったのがレイとリン。そこももしかしたら使える材料になればいいんだけど……あいつらがどんな状態で復活したか分からないから何とも言えないわね」
「それもそうか」
「でも、この二人を狙うのは確定よ。私達の力に自信がない訳じゃないけど、不安要素はなるべく潰しておきたいからね」
この方針で確定なのか、ルカはどこか覚悟を決めたような表情だ。
ルカの現状や心情を考えても焦りは禁物。
ルカもそれを分かっているから慎重に事を進めていきたいのだろう。
「そういえばルカの足りない分のコア……どこにあるんだろうな?」
「分からないわ。他の四人の誰かが持ってるかもしれないし、封印されるときにどこかに飛んでいって無くなっただけかもしれない。ま、私としては封印のどさくさで誰かに盗られたのが一番可能性は高そうだと考えてるけど……誰が持ってようと自分のも取り返して奴らのも根こそぎ奪い取るだけよ」
そう言ってルカは獰猛な笑みを浮かべる。
誰が相手でも退かないという強い意志。
ジルはそんな彼女を頼もしく思うとともに少しだけ威圧された。
「ジル……あんたの事、その……頼りにしてやるんだからしっかりしなさいよね」
その後、やや柔らかい表情でもじもじとしながらこのような供述をされ、ギャップに戸惑う。
珍しくややストレート気味に告げられるそれは、利用するではなく頼る。
それを嬉しく思ってしまうのは、ジルも彼女に毒されてきている兆候なのかもしれない。




