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才能の片鱗

 冒険者パーティを追放されて、活動の幅が狭まったのは確かだった。

 元パーティメンバー達が糾弾した内容は、間違いなくジルの致命的な欠点。

 精霊術師が精霊と使役できない……かもしれない可能性。

 戦場で精霊を使役できない精霊術師などお荷物の他ならないだろう。


 だが、そんなジルはもういない。

 一時的に力を借りるだけの関係ではなく、本格的に契約を結んだ精霊。

 ルカと出会って契約を交わし、互いに利用する関係に至ったことで、不安定だったころのジルはもういない。


 おかげで冒険者活動を再開できるようになり、金銭面の心配もこれでしなくていいと思うと万々歳だ。

 現在は簡単な討伐依頼を受けて、自慢の相棒(ルカ)と契約したことで扱えるようになった力を存分に奮っているところだった。


「あんた、やっぱり私との相性いいみたいね。闇属性の扱いも悪くないみたいだし……それでいて他の属性も高水準で扱えるなんて、そこそこまあまあかなりやるじゃない」


 ジルが炎弾を放ち、少し離れた場所にいるモンスターを穿つと、ふわふわと周りを漂っていたルカが感心したように声をかける。

 精霊というのは少しだけ飛ぶこともできるので、それを羨ましいと思いながら彼女の賛辞を受け取りジルは困ったように顔を引きつらせる。

 そこそこなのかまあまあなのか、それともかなりなのかはっきりしないなか、声のトーンなどから皮肉などではなくしっかりと褒められていることを感じ取ると、これがルカなりの褒め方なのだと半ば強引に自分を納得させる。


「これまで微精霊達の力を借りてて色んな属性を扱えるのは知ってたけど、微精霊だと力の上限が低いからな……。どこまで扱えるか少し不安だったけど、これだけやれるなら我ながら上出来かな」


 ジルはルカが以前やってみせてくれたように、指先を立ててその先から火、水、風、光、闇と順番に力を発動させていく。


 こうして討伐依頼をこなしているのは、金を稼ぐだけが目的ではなく、ルカの内包する力をジルがどれだけ扱えるのかをテストするという意味合いもある。

 ジル自身自分の適正はある程度分かっていたが、扱える力の上限までは把握していなかった。

 というのもこれまで本契約を結ばず微精霊の力だけで何とかしてきたため、その微精霊達の力の上限までしか扱ったことがないのだ。


 各属性への適正レベル。

 それは精霊契約による相性の問題。

 同じ適性を持つにしても、ただ使えるのと使いこなせるのでは雲泥の差だ。


 精霊契約というのは相性の問題があり、例えば火属性に適性のない人間が火属性を扱う精霊と契約してもその属性を使える事にはならない。

 精霊術師本人の得手不得手がもろに影響してしまうのだ。


 そのため、いくらルカが複数の属性を持っていたとしても、ジルの方の適性が低ければ何の意味もない。

 使えるまでは分かっていたが、この度のテストで使いこなせることも確認できたのはジルにとって大きいだろう。

 もし、属性によって適性レベルに差があるのならば、精霊術における火力や発動までのスピード、消費魔力などで劣った部分が見られるはずだが、ジルにはそれが一切見られなかった。


「ルカは俺を選んでくれたけど、もし俺に適性がなかったらどうするつもりだったんだ? 俺のことを切り捨てていたか?」


「はっ、そんなの愚問だわ。あまり私を舐めないでちょうだい」


 ジルが口にしたのはもしもの話だ。

 成り行きで交わすことになった契約だったが、それが機能しているのはたまたまジルに素養があったからともいえる。

 では、それを――――ルカという精霊にふさわしい適性を持ち合わせていなかったらどうだったのだろう。

 そんな一抹の不安から零れ出た問いかけは、どうやらルカの機嫌を損ねてしまったようだ。


「別にあんたがどうであろうと、一度契約した相手を簡単に見捨てたりしないわ。契約は単なる口約束じゃないの。それに……人工とはいえ私も精霊のはしくれ、人間との合う合わないはなんとなく分かるし、そもそもあの時あんたから何も感じてなかったら契約なんて持ち掛けずに私が戦っていたわ」


 ルカもあの切羽詰まった状況で、一か八かのかけに出たつもりは毛頭ない。

 精霊にも人間との合う合わないはある程度分かる。

 分かったうえで、ジルを選んだというのがすべてを物語る顕著な答え。

 ルカはジルならば任せられると、心の奥で思っていたのだろう。


「それにね、今はちょっと……ほんのちょっとだけ昔に比べて弱くなっちゃってるけど、それでも私は単体としても強いの。あの時あんたには過度な期待はしてなかった…………けど、この調子なら期待してやらなくもないわ。だから、もう二度とそんな下らないこと聞かないでちょうだい」


「……ああ、悪い。もう言わないよ」


 ジルは己の浅慮を詫びた。

 ルカは見くびられたと腹を立てるのは無理もない。

 今回は見逃すようだが、ルカの目は次はないと圧を放っている。


「……それで? あんたの依頼とやらはいつ終わるの?」


「まだ半分くらいの討伐数だからもう少しかかりそうだが……もう飽きたか?」


「そういう訳じゃないわ。あと半分なら……私も手伝ってあげるわ」


 そう言ってルカはジルから離れていった。

 それは別行動で依頼をこなすをいう意味だろう。

 ジルはルカの向かった方向と反対方向に向かい、対象の獲物を探す。


「……ルカの力は凄まじいな」


 大して時間の経っていないうちにルカの向かった場所が騒がしくなる。

 ジルがそちらを見てみると、ルカが大きな闇の弾を作り上げて暴れているのが遠目でも分かった。

 ジル自身闇属性は得意な部類に入ると言えども、あそこまでの規模はまだ出せない。

 ルカが単体でも強いというのがよく分かる光景だし、これでも弱体化しているというのが信じられないほどだった。


「……見てる場合じゃないな。俺も働かないとルカに怒られる……!」


『この私をこき使っておいて高見の見物決め込んでるとはいい度胸じゃない』


 そう言われ叱られる様を容易に想像できたジルは、そうならないように自分もきびきび働くのだった。






 その後、ルカが手伝ったおかげで依頼もすぐに達成できた。

 パーティを組んでいた時に受けていたような高ランクの依頼はまだ受けられなくても、それなりに稼げるだけの依頼は手に取っても問題無くなったのはこの上なく大きい。

 ジルはソロでも活動できるありがたみを噛みしめながら、受け取った報酬金を手を上でジャラジャラと遊ばせる。


「ルカ、何か欲しいものはあるか?」


「何よ急に」


「いや、こうして安定して稼げるのもルカと出会えたおかげだし、何かしら還元しないとな」


「ふーん、殊勝な心がけね。そういうことなら貢がれてあげるわ」


 ルカは「そう来なくっちゃね」「分かってるじゃない」としたり顔で笑った。

 彼女の浮かべる意地悪そうな笑みに、財布が軽くなる予兆を感じ取ったジルは若干早まったことを言ってしまったかなと顔をひくつかせる。

 しかし、ジルが思っていたような事態にはならなかった。



「うーん、これはいけるわね」


「気に入ったか?」


「まあ、これなら行きつけの店にしてやらなくもないわ」


 ルカは露店で見つけたパンを所望した。

 ジルがそれを買ってルカにやると、歩きながら頬張り始めた。

 感想を聞くとまたひねくれた返しが来るが、要は気に入ったからまた行きたいと言っているのだろう。

 ジルも付き合いが浅いながらもルカ語が何となく理解できるようになってきた。

 表情や声のトーンなどから、言葉の裏に隠された本意を察することができ、実は意外と分かりやすい性格なのではないかと思い始めているほどである。


「それにしても精霊って普通に食事とかできるんだな。何というか意外だったわ」


「ま、そうね。できるかできないかで言ったらできるってだけで別に必要ってわけではないわ。でも私は味覚があって味もちゃんと分かるし、食事をすることは楽しいって思ってるわ」


「へー、じゃあこれからはちゃんと飯を食うようにしようか」


「は? ……いいの?」


「ああ、食おう。俺だけ食うのも何だか悪い気がするし、やっぱり飯は誰かと食べた方がおいしく感じる……ような気がする!」


 精霊の活動維持に食事は必要という訳ではない。

 それならばそれを削ってしまおうと言われてしまうと思っていたルカは、ジルのそれとは正反対の提案に驚いてきょとんする。

 だが、すぐに嬉しそうに、それでいて何か企むように意地悪そうな笑みに変わる。


「まったく、しょうがないわね。あんたが一人で取る食事は寂しくて、どうしても私と一緒に食べたいってことなら、仕方ないから付き合ってあげるわよ」


「ああ、頼む」


 決してそのようなニュアンスで言ったわけではないが、ルカ語を汲み取ったジルは何も言わずそういうことにしておいた。

 その後、さっそく今晩のご飯についての話になると、ルカは楽しそうに目を輝かせた。

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