コアストーン
話のキリがいいところで、ちょうどつまんでいたクッキーと紅茶も切れる。
ルカはひとまず交換条件を果たした。
「じゃあ、約束通りこれは返してもらうわ。私が取りこまないと力を取り戻せないし、私の力が弱いままだとあんたも困るでしょ」
説明のためにジルに出させていた闇のコアストーン。
ルカはそれを回収して取り込んでいく。
「そうだな……。そんな大事なモノだったら売るわけにはいかないよな」
「……ちょっと待って。あんた……私のコアを売ろうとしてたってこと?」
「ああ。見たことない綺麗な石だったし、高く売れると思ったんだよ」
「あら、そう…………死んどく?」
「悪かったって。ルカにとってそんなに大切なモノだって知らなかったんだよ」
「……まあ、いいわ。ちゃんと返してもらったし見逃してあげるわ」
ルカは顔は笑っているが目が笑っていないという圧力をジルにかけてたじろがせるが、ほんの冗談で本気で責めるつもりはない。
ジルも希少な鉱石を売って大金を手に入れることができなかったのは残念だが、人様の大切なモノを売りさばくわけにはいかない。
ましてや、それが自分の精霊の力、さらには自分の力に直結するとなるとなおさら。
「そういえば……そのコアストーン、身体の一部とか言ってるけど、そんなにほいほい出していいものなのか?」
「失くしたり取られたりしなきゃ大丈夫よ」
コアストーンによって構成される身体。
その身体から核となるコアストーンを取り出してしまって大丈夫なのかと心配して尋ねるが、当の本人は何の問題もないと振舞う。
「でも……私は失った力を取り戻さないといけない……絶対にね」
「……なあ、一つ気になったんだが」
「何よ、言ってみなさい」
「ルカの話にあったその……奪い合いだっけ? どうしてもしないといけなかったのか? 自分をコアを取り戻したいならみんながそれぞれのを返せば丸く収まったんじゃないか?」
自分をコアストーンを取り戻すだけならば、他者のコアストーンをそれぞれ本人に返還すればそれで済んだのではないかと。
そうすれば何事もなく全員が不完全を解消できたのではないか。
ジルがそんな疑問をぶつけてみると、ルカは驚いたように目を丸くしたが、やがて難しい顔をし始めた。
「あんたの言い分も尤もだけど、そんな単純な話でもないのよ」
「というと?」
「あんたの言ってることは正しいのよ。実際に自分以外のコアを返せば解決すると思ってるやつもいた。でも……そう思わなかった奴もいるのよ」
「どういうことだ?」
ルカは気まずそうに明言を避ける。
だが、その神妙な顔つきからは何か複雑な事情があることが分かる。
ジルがそれを尋ねようとした時、ルカは両手でピースのポーズをとった。
「人工精霊は私を含めて五人。そのうち二人はあんたの言ってたように、自分以外のコアを本人に返せばすべて解決すると言った。でも、もう二人はそれを拒んだ」
「拒む? どうしてだ?」
「自分のコアをすべてを取り戻したいという欲求と、そのために新たに得た他の属性の力を手放すというのはイコールでは結ばれないということよ。反対派の二人は己の身に宿した他の精霊の力を持ったまま自分を取り戻そうとした。究極的に言ってしまえば、自分さえ良ければ他はどうでもいいってこと」
「……なるほど、だから奪い合いか」
自分の力はすべてほしい、でも他の精霊の力も手放したくない。
そうなったとき、事は必然的に荒っぽくなる。
最終的には奪い合いに発展するのも無理はない。
それに納得したところでジルは、ルカの手を見て気付く。
立っている指は全部で四本。
では、もう一人はどうだったのか。
「そういう言い方するってことは、あとのもう一人はルカか。お前はどうだったんだ?」
「私もどっちかというと反対派よ。せっかく手に入れた力を手放すなんて嫌よ。でも私はあいつらとは違う。そんなちっぽけなもので満足はしてない」
「つまり?」
「私は力の一部を取り込む程度で満足していない。自分の力も全部取り返したうえで、他の精霊の力も全部取り込みたいの!」
「なるほど……。それはまた、大きく出たな」
ルカは両手をいっぱいに広げて、全てを欲しいと宣言した。
ルカの性格や言動からして、反対派側だとは思っていたが、ここまで大きく出ていたとは予想できなかったジルは息を呑んだ。
「何よ? 文句あるわけ?」
「文句なんかないよ。ルカらしいなって思っただけだ」
「私らしいって……あんたが私の何を知ってるって言うのよ?」
確かにジルはルカを知らない。
今日出会ったばかりなのだから知っている訳もない。
だが、何か自分の似たものを感じて、ちょっとした共感を得た。
「確かに知らないことばかりだ。だから……これから教えてくれ」
「うぅ……あんたといると何だか調子が狂うわ」
「そうか? 俺はルカと相性ばっちりって感じするけどな」
「……軽々しくそういうこと言えるの、なんかムカつく」
ルカはむすっとした顔でそっぽを向いた。
その表情には苛立ちではなく照れや恥ずかしさが見え隠れしている。
「ただ……全部が欲しいなんて言ってても、今の私は多分他のどの精霊よりも弱い。だからあんたをたよ――――利用することにしたの」
「それでも構わない。俺としてもメリットは大きいし、存分に頼ってくれ」
「利用!!」
ルカは一瞬頼ると言いかけてたから言い直すも、ジルには気付かれていた。
顔を真っ赤にして否定するも、軽くあしらわれてムキになる。
「うるさいわね。利用ったら利用なのよ! あんたこそ私の力をしっかり使いこなせるようにならないと承知しないわよ!」
「はは……分かった。分かったって」
円形のテーブル。
ジルの座る対面の席からルカは身を乗り出して忠告する。
強く言っているつもりなのだろうが、ジルにはかわいらしい癇癪にしか見えなかった。
しかし、精霊の力を余すことなく引き出すのが精霊術師の役目。
ルカの言い分にも一理ある。
「じゃあ、しばらくはルカと冒険者活動して力を慣らしながら生活費を稼ぐ。追々他の精霊たちを探してコアを回収していくってことでいいか?」
「……! それで構わないわ。なるべく早く使いこなせるようになりなさい」
まずは生活基盤を整える。
お世辞にも追放されたばかりのジルは経済的に富んでいるとは言えない。
やはり生きていくうえでお金は稼がなければいけないのだ。
ルカも異論はないみたいなので今後の方針はこれで決まる。
ジルは運命の精霊様の願いを叶えるために、ルカは己を取り戻すために。
これから忙しくなる予感を感じて、二人はふっと微笑んだ。




