作られた精霊
ブラックサーペントを倒して一安心なのは確かなことだが、それでもジルが現在いる場所は下層。
他にも強力な魔物がいるかもしれないため油断はできない。
さらには精霊契約を経て戦う力を手に入れたジルだったが、このような状況で戦い続けるには気になることが多すぎる。
そのため早くここを出て、ルカとゆっくり話がしたかった。
必然的に決まる初動はこの場からの脱出だった。
そして、無事外に出た後、ジルはまずルカを服屋に連れて行った。
ジルの上着を着ているとはいえ、装備としてはまだ心もとない。
半裸少女を連れ回すわけにはいかず、まずは装備を整えた。
そして――――。
「ふう、やっとゆっくり話せるな」
「そうね。あ、そういえばここはどこなのかしら?」
「ここはロゼルって町だ」
「ふぅん。全然知らないわね」
町に戻りルカに服を着せたジルは、目についた喫茶店に入り一息つくことにした。
紅茶とクッキーを頼み、待つこと数分。
届けられたカップに手を付け、ようやく本題に入りだした。
「で? どこから話せばいいの? もう一回自己紹介からやり直した方がいいのかしら?」
「そうだな。さっきはバタバタしてたし、全部最初からやり直してもらっていいか?」
「そう、分かったわ。じゃあ、改めて私の名前はルカ・アメジスト。約千年前に作られた人工精霊よ」
「千年前……か。随分スケールのでかい話だな」
「そう? ああ、人間からしたらそう感じるのかしら?」
長い時を過ごす精霊と寿命の短い人間では感じ方も違うのかルカは不思議そうにしている。
そういった感覚のズレなども、彼女が精霊であることを証明している。
「えっと、話を戻すわよ。次に話すのは封印されるに至るまでの過程なんだけど、少しややこしくてね……。ちょっと長くなるから覚悟しなさい」
「ああ、分かった」
「よろしい。じゃあ、まず大前提としてだけど、作られた精霊は私だけじゃない。全部で五体」
「五ってことは火、水、風、光、闇、それぞれに対応してるのか?」
「中々鋭いわね。厳密にはちょっと違うけど、元々はそうだったわ」
「元々は?」
「ええ、私たち五体はそれぞれの属性が込められた人工精霊として確立するはずだった。でも、私達の身体はグチャグチャにされた」
グチャグチャという聞こえの悪い表現にジルは顔を顰めた。
千年前、精霊達の身体に何が起きたのか。
とてもいい想像はできないそれにジルは思わず息を呑む。
「あんた、私と契約したんだから私が闇を司る精霊だってことは分かっているわよね?」
「ああ、それくらい分かるさ」
「なら、何か変な感じはしなかったかしら?」
含みのある言い方。
しかし、ジルは一つだけ心当たりがあった。
「気のせいじゃなかったらだが、わずかにだが……他の属性の力も感じた」
「正解よ。それをうまく説明するには……そうね。そういえばあんた、私の石持ってたわよね。出しなさい」
「えっ、ああ……これか?」
ルカは何かを説明しようとしてやや言い淀んで、ジルが所持している紫色に光る宝石を要求した。
この話の流れでそれが必要な理由は分からないが、ジルは大人しく従いそれを出した。
「まあ、見せて説明した方が早いわね。あんたが持ってたそれが私の石。そしてこれが……私じゃない奴らの石」
「他の人工精霊の……?」
ルカが手をテーブルに置いて横にスライドさせると、ジルの持つ紫の石とは違う、赤、青、緑、黄色の石があった。
「あんた、精霊術師ならこれが何を意味するか分かるわよね?」
「……推測にすぎないが、もしそれが各人工精霊の力の源なのだとしたら、複数の属性の力を内包した精霊を生み出すためにわざと……?」
「そういうことよ。こうして自分の一部を奪われて、逆に他の精霊の一部を植え付けられた。そうやって不完全なまま完成したのが私達人工精霊ってわけ」
「それは成功だったのか?」
「他の属性を埋め込むことだけなら一応ね。私のメインの力は闇だけどこのように他の属性もちゃんと使える。契約したあんたがその属性を感じ取れたように、あんたにも適正さえあれば使えるわよ」
ルカは人差し指を立てる。
その指の先から順番に火が上がり、水が出て、風が吹き、光が灯った。
それが今契約者であるジルにも宿る力だ。
メインの闇の力ではない他の属性の力を感じたのはそういうことだと説明されてジルは納得したように頷いた。
「他の奴らもこんな感じになってたわ」
「でも、さっきみたいな言い方をしたってことは何か……よくないことがあったんだろ?
「そうね。それ……コアストーンって言うんだけど、私達にとっては身体そのものなの。でも自分のコアストーンは少なくなり、それを他の奴が持ってる。自分のものを他の奴が持ってるときあんただったらどうする?」
「……取り返そうとする……?」
「そういうこと。他の精霊の一部になってしまった自分のコアを取り返す。そうやって奪い合いが始まったのよ」
「奪い合い……自分の力を……身体を取り戻そうとして争いが生まれたのか」
「そう。そして……まあ、あれよ。色々あってその争いが最も激化した際に起きたのが私達の封印ってわけ」
「最後の方は大分説明が雑になってきてたが大体理解した。なるほど、ここに繋がるのか」
分からないことはまだまだある。
だが、ルカの説明で一応話の流れは見えてきた。
各属性の人工精霊に他の属性を付与するために、互いのコアストーンを取り換えた。
その結果、足りなくなった本来の自分の一部を取り戻そうとする強い意志が発生して精霊同士の争いが起こった。
そして、そこから大分省かれたが何かしらあって封印に至った、というのがルカの説明だ。
「ルカが封印されてたってことは、他の精霊達も封印されてたのか……」
「身体をコアと魔力に分解されて散り散りになる時に、他の奴らも同じようになってるのを一瞬だけ確認できたから多分そうよ」
「そうか……なら他の奴らも……?」
「もしかしたらもう全員復活してるかもね」
「ルカはこれからどうするんだ? その……他の精霊が持ってる闇の……コア? を取り返しに行くのか?」
「そうね……。そうしたいのは山々なんだけれど、私のコア、何だか少ないのよ。封印される前に誰かに奪われたのかもしれないわね」
ルカは苦々しい表情でコアストーンが足りないとぼやいた。
ジルの持つコアストーンが一つだと気付いた時に見せた反応も。コアストーンが足りないことに気付いたからだろう。
ルカにとってコアストーンは力の源であり、大切な己の身体だ。
自分の一部が減り、本来の力を失った。
それがどういう影響を及ぼすのかはわざわざ聞くまでもない。
「だから、私はあんたに手伝わせることにしたの。そうじゃなきゃ契約なんてしてられないわ」
「俺が……?」
「そっ。私はかつての力を取り戻したい。そのために手を貸しなさい。それだけであんたは私の力を使えるようになる。ま、使いこなせるかどうかはあんた次第だけど……あんたは筋がいいわ。どうかしら? あんたにとっても悪くない話だと思うのだけれど……?」
ルカはニヤリと強気な笑みを浮かべジルを見つめる。
目の前に伸ばされた小さな手。
ジルにとっては窮地を救う契約だった。
しかし、ルカにとってもこの契約はメリットのある話。
そして――――ようやく手に入った力。
ジルは迷わずその手を握り返す。
手に入ったそれを手放すなんてあり得ない。
「えっと……あんた、名前は?」
「そういえばまだだったな。俺の名前はジル・アマンド」
「そう、ジル。これから私のために尽くすことね。は、裸を見た分はしっかり働いてもらうから覚悟しなさいよね……っ!」
「ふぁっ!?」
かなり先送りにされていた自己紹介を済ませて、ルカは過去を蒸し返す。
わざとではないにしろ、女性の裸を見てしまったという罪悪感を逆手にとって、ルカはジルを扱き使ってやろうと小悪魔的な笑みを浮かべるのだった。




