氷のコアの試験運用
すっかり寒くなった懐を温めるために張り切って依頼を受けようと考えるジル。
冒険者ギルドの依頼掲示板を真剣に眺める姿は彼の懐具合を物語っている。
「どうするの? 簡単なのを数受ける? それともでかいの一発どーん?」
「でかめのかな。こいつの力を試してみたいし……!」
ジルは手元で遊ばせていた氷のコアストーンを握り締めた。
ルカがイズから借り受けている新たなコアストーン。
その水色の宝石が宿す氷の力はルカにはあまり馴染まなかった。
そのため、取り込まずにジルに預けられ、ルカがおらずとも腕輪で力を発揮できるようになっている。
しかし、その力はまだ未使用。
これからそのスペックを把握すべく、合った依頼を選んでいるところ。
左、右へと忙しく目を行き来させていたジルの視線が止まった先、その依頼書を手に取ったジルはない鵜養を読み込んでその依頼を受けることに決めた。
「どれどれ……ポイズントードの討伐? うげ、随分面倒くさそうなの選ぶわね?」
「そうか? 確かに面倒な部類だとは思うが……光とこれがあればそうでもないと思うぞ?」
ポイズントードは微弱な毒を持つ大きな蛙の魔物で、成人男性を超えるほどの大きさを誇る。
毒液とその大きな体長から危険な魔物に見えるが、討伐難易度はそれ程高くないためこうしてジルが受けられる難易度の依頼になっている。
物理攻撃の効き目が薄いという耐性はあるが、体表や口から吐き出される毒液と大きな口で行われる飲み込みにさえ気を付ければ倒すのはそれ程難しくない。
だからこそ、ジルはこの依頼を手に取った。
微弱とは毒は身体を徐々に蝕んでいく劇物。それに対抗できる光の力。
そして――――凍結能力があり、液体にはめっぽう強い氷の力。
この二つが揃っていれば問題はないと判断したのだ。
むしろ、氷のコアストーンの力を活用する機会を作り出すために意図的にこのような依頼を選んだとさえ思えたルカは、目を細めて感心したようにジルを見つめた。
「……まあ、いいわ。受けるのはあんただから好きにしなさい。あと、一応毒消しの薬は用意しておきなさいよ」
「分かってるって」
魔法や回復術などの支援を行える者にありがちなミス。それは自身の魔法や回復術を過信しすぎてしまい、物資の準備を怠る事。
魔法や回復術があればちまちまとした薬品は必要ないと考える者もいるが、魔力という上限のあるエネルギーを使って発動する手段はいつでも当てになるわけではない。
あてにならない時――――つまり何かしらの要因で魔法や回復術を行使できない時、備えてあるかで生死を分ける場面もあるだろう。
ポイズントードの持つ微弱な毒ならば、光の力さえあればどうとでもなるというのは間違いない。
しかし、それはあくまでも光の力を行使することができたらという大前提のもと。
(氷のコア……私は消耗度合いが大きかったけど、こいつはどうかしらね? 私も同行するから大丈夫だと思うけど、万が一に備えて保険は用意しておくに限るわ)
ジルがこの依頼で試そうとしている氷コアストーンに秘められた力。
その一端を先んじて体験し、その力を得ることによるメリットとデメリットを知ったルカだからこそ、用心しているのだろう。
特に気にかけているのはそのコアストーンを力を扱う際の魔力消費。
ジルに適性があれば杞憂となるのだが、用心するに越したことはない。
そう考えて進言したルカは、依頼を受注しに受付カウンターへ向かったジルの背中をジッと見つめていた。




