慰めタイム
「ううぅ、お嫁にいけない」
「……悪かったって。そんな落ち込まなくてもいいじゃない」
五個目の水のコアストーンを無理やり取り込むことになり、兄と慕うジルの前で痴態を晒すことになったイズ。
部屋の隅で膝を抱えてしくしくとなく彼女の哀愁漂う姿に、さすがのルカも同情を禁じえなかったようで悪ノリしてしまったことを詫びた。
「ルカは結局何をしたかったんだ?」
「イズに幽霊体と精霊体のコントロールを意識してできるようになってもらおうと思ってね。幽霊期間が長かったからか幽霊に戻るのは楽にできるみたいだけど、精霊側に寄せるのは全然ダメだったから試しに力を注ぎ込んでみたのよ」
「コアを取り込ませて精霊として強くってことか」
「そうよ。その結果ほら……」
「ひゃっ、何? 頬っぺたひっぱらないでぇ」
ルカの手はすり抜けることなくイズの実体を捉え、彼女の柔らかい肌をぐにぐにと歪ませる。
精霊体に寄せられたイズの身体は、透明でもなければ不意にすり抜けることもない普通の肉体と遜色ない。
「そっか。でもその方が便利だよな。見えないし触れられないままだと生活に支障が出るからよかったんじゃないか?」
「よくないよぉ。ダメって言ってるのに無理やり入れて……休ませてって言ってるのに休ませてくれないのは酷かったなぁ」
「……なんか言い回しが卑猥ね。だからってあんたもそんな目で見るんじゃないわよ!」
イズの言ってることに違いはない。だが、言葉が足らずとイズ自身の反応や表情が相まって、何かいかがわしいことが行われたような錯覚をさせられる。
実際にそのようなプレイは行われておらず、真実の一端を目にしていたジルは分かっていたが悪ノリをすることにしてドン引いた目でルカを見やる。
それに関しては納得がいかないのか遺憾の意を示すルカだったが、行いが行いなため強く不満は言えないだろう。
「でも……そろそろ馴染んだでしょう? どう、水の力は?」
「うん、氷とは相性がいいね。家の中だとあんまり使えないけど、今までより広範囲を一気に凍らせられそうだよ」
「……それで安定はしてるのか?」
「兄さん?」
「いや、イズに水のコアを取り込ませたのは精霊体に寄せるためだろ? 水のコアありきじゃなくてイズの意思で制御できるようにって話だったと思うんだがどうだ? 感覚さえ分かればコア無しでもやれそうか?」
ジルが気になったのは状態の安定性。
今でこそイズの精霊体は安定して保たれているが、それはルカに入れ込まれた水のコアストーンによる補助が大きい。
しかし、そのためだけにルカの持つ水のコアストーンをすべて費やしてしまっているというのも事実。
ジルは己から水の力が消えて途方もない焦りを感じた。
今まで当たり前に使えていたものが使えなくなる焦燥。
ルカが常に感じている満たされない感覚を身を持って知ったからこそ、コアストーンをイズが所持し続けることに疑問を覚えたのだ。
「いえ……五つ全部借りていて完全……一つもなければ半分。それがいいところです」
「そうか……どうする、ルカ?」
「別にいいんじゃない? 代わりと言ってはなんだけど、イズからはこれを貸してもらってるから悪くないはずよ」
「分かった……ルカがそう言うならいい」
ジルに渡された水色の宝石。氷のコアストーンを手にしたジルは驚いたように目を丸くした。
それが今ルカの元にあったということはイズが氷のコアストーンを手放していることを意味する。
(俺がいない間にいったい何があったんだ?)
不在の間でルカとイズの間に何があったのか。
それを知る由もないジルは、水色の輝きを不思議そうに眺めるのだった。




