闇の力
微精霊。
微精霊はその名の通り力の微弱な精霊。
特定の姿を持たずぼんやりとした光のような曖昧で小さな存在。
ジルはこれまで主にその微精霊の力を借りて戦ってきた。
準精霊。
微精霊より格が上がり、力も大きく成長している。
知性を持つようになり、人との意思疎通もできるようになる段階だ。
そして――――さらに長い年月をかけて成長した精霊は確固たる姿を持つ。
動物の姿を取ったり、人型を姿を取ったりし、人との意思疎通もしっかりと行える。
まさしくルカのような存在だ。
契約が成りジルとルカの間に見えない繋がりが形成され、そのパスを通じて力が供給されるのだが、ジルはこれまで感じたことのない力に声を呑んだ。
微精霊とは比べ物にならない大きさと質の力。
それが己に宿ったのをその身で受けとめ、ジルはどこか半信半疑だったこの少女ルカ・アメジストへの評価を改めた。
(すごい……こいつは本物だ。人工だか何だか知らないけど、精霊としての格は一級品……いや、それ以上か)
溢れ出る全能感。みなぎる力で何でもやれると思えてしまうほどだ。
もちろん仮契約と本契約における差はあるのだろうが、そんな差など些細なものだと思わせられる爆発的なパワーをその身で循環させジルは契約を結んだ少女――――ルカを見やる。
「ルカってすごいやつなんだな」
「はぁ? そんな当たり前のこと今はいいからさっさとアレ、倒してきなさいよ」
「分かった。分かったから蹴るなって」
ゲシゲシとジルの足を裸足で蹴りつけながら、目の前に立ちふさがるブラックサーペントの討伐を催促するルカ。
知りたいこと、聞きたいことは山積みだが、それは全部後回し。
このブラックサーペントさえ処理してしまえば、あとはゆっくり話ができる。
「さて、狩らせてもらうぜ蛇さんよ……!」
そう呟いてジルは特に意識することなく右手に闇のエネルギーを纏い始めた。
言葉にして確認しなくても、パスが繋がった状態ならばその精霊がどんな力を宿す存在なのかは感じ取れる。
ジルは己の精霊術師としての感覚に従って、宿る力を引き出していくだけだ。
ルカは闇精霊である。
それが引き出される力から証明される。
「とりあえずこんなもんか。くらえっ!」
「ギュオオオオオッ!!」
闇が形作る無数の弾がジルの意志によって射出され、ブラックサーペントへと向かっていく。
着弾と共にブラックサーペントの巨体をのけぞらせ僅かながら後退させる。
あまり効いているようには見えないが、確かにダメージは入っている。
痛そうに叫び声をあげているのがその証拠だ。
しかし、攻撃を受けて怒りのままに叫び声をあげ、ブラックサーペントはジルを喰らわんとしその大きな口を開けて襲い掛かる。
「おっと、怖い怖い」
ジルはそれを躱しながら少しずつ反撃を加えていく。
徐々にだが闇弾を作り出すスピードも速まってきている。
ジル自身の資質もあってか適応力は高い。
「次は……こうしてみるか……っ?」
「ぼさっとしてんじゃないわよ!」
次は何をしようかと頭を働かせながら立ち回っていると、意識外からブラックサーペントの尻尾が迫っていた。
飲み込まれれば即死の口にばかり注意が向き、やや油断していたジルの対応は遅れてしまう。
尻尾で薙ぎ払われ、壁に叩き付けられるはずだったジル。
しかし、すんでのところで発射された闇の光線によってその尻尾の軌道は逸らされ事なきを得た。
それを行ったのはルカだ。
少し離れたところで見ていたルカは、ジルの窮地を察知して、咄嗟に手助けしたのだ。
「悪い、助かった!」
「しっかりしなさい! あんたに死なれると私も困るのよ!」
ジルは助けてくれたルカに礼を言い、ブラックサーペントから少し距離と取る。
極上の力を手にしたのはいいが、相手は格上と思った方がいい。
ジルは今度は油断しないように、ブラックサーペントにダメージを蓄積させていく。
「ちょっと! ちまちま遊んでないでさっさとぶちのめしなさいよ!」
「もうちょっと色々試してみたいし、もう一つ気になることもあるんだけど……仕方ないか。終わらせよう」
ジルとしてはもう少しこの力に触れて色々試しておきたいところだが、あまりゆっくりしていてはわがまま姫が癇癪を起こす。
気を抜かず安定に立ち回っているのを、ちまちま遊んでいるときたのだ。
ジルはやむを得ずフィニッシュを決める準備を始める。
「俺だってまだ全然使い方分かってないんだからもうちょっと色々試してみたかったんだぞ……!」
「フン……そんなのこれからいくらでも試せばいいわ」
「っ! そう……だったな」
これまでは一時的な仮契約だった。
だが、ジルがルカと交わした契約は本契約。
彼女の言葉通りこれからがあるのだ。
ジルはぶっきらぼうに投げかけられたルカの何気ない言葉に胸が熱くなるの感じる。
「これで終わりだ」
ジルは己の魔力をありったけかき集めて、闇の力へと変換する。
想起するのはつい先程自分を助けてくれた、ルカが放った光線だ。
その闇の光線を、今できる限りの最大火力で放つ。
バチバチと迸る闇のエネルギーが、はち切れそうになる。
ジルはため込んだそれを一気に解き放った。
闇の奔流がブラックサーペントを飲み込む。
それだけでなく余波で地面や天井、壁などの岩を削り取り砂煙が立ち込める。
断末魔はすぐに聞こえなくなり、煙の向こう側でわずかに見えていた影は大きな音を立て沈んだ。
「やったのか?」
「ま、及第点ね。一応褒めてあげるわ」
「ああ……ありがとう」
無事ブラックサーペントを葬ったジルに、ルカは彼女なりの労わりの声をかける。
そこでようやく強力な魔物を倒した達成感と生き残ることができた安心感を覚え、ジルはほっと胸を撫で下ろすのだった。




