存在強化
放られた青の輝きは何もない空間で突如消えたように見えるが、その場にいるが見えない存在となったイズに取り込まれた。
その瞬間、イズの身体を巡る水のエネルギーが、イズの姿をした青いシルエットを映し出す。
ぼんやりとした青い光が巡り、溶け込んでいく。
それを直に感じたイズは初めての体験に惚けた声を上げた。
「あぁ……すごい、すごいよこれぇ。内側から満たされる感じ……!」
「でもまだ足りないわね」
聞こえてくる嬌声は新たなるコアストーンを取り込んだことによる快感によるもの。
力で満たされる高揚感で自然と声が出てしまう感覚はルカもよく知っている。
だが、まだ水のコアストーン一つ。
イズの存在を精霊側に引き寄せるにはまだ足りない。
「さて……面白くなってきたわ」
「えっ? ちょっと待って! 今はダメ!」
「いいえ、ちゃんと受け取りなさい」
ニヤリと悪戯な笑みを浮かべたルカは、二つ目の水のコアストーンを放ろうとした。
それを見たイズは驚いたような声を出し、纏う青いオーラと共に後ずさった。
イズ自身コアストーンを取り込むこと自体が初めてで慣れていない。
だからこそ力を取り込んだ際の満たされる感覚はより強く快感として伝わる。
全身に巡る水の力と共に流れ込む快感の感覚はまだ余韻として残っている。
(待ってぇ……今はダメだよ~。声出ちゃうってぇ)
そこにすかさず次を投げ込まれたらどうなるかなんて容易に想像がつく。
コアストーンを持ち虎視眈々と投げ込もうとしてくる様はイズにとって悪魔の様に見えた。
「二つ目」
「ちょ、うあっ! はぁ……あぁっ、んっ。ダメ、止めて」
「三つ目」
「んあっ! うぅ……」
続けざまに飛んでくる水のコアストーンを身体に吸い込ませては嬌声を部屋に響かせるイズ。
その姿は僅かだが半精霊状態に近づいており、先程の透明状態とは違いルカもその赤らんだとろけたような表情を確認できた。
「精霊体が濃くなってきてるわ……! あともう少しで完全に精霊側に寄せられそうね」
「ちょっと待ってぇ……。本当にムリぃ……っ」
「分かったわ…………はい、待った。じゃあ四つ目ね」
立っていることができなくなったイズは床に膝を着いてビクビクと身体を跳ねさせる。
このままではまずいと荒い息遣いが収まらぬままルカに懇願する。
ルカは一度それを聞き入れるようなそぶりを見せるも束の間――――そんなに素直に言うことを聞くはずもなく、少し、ほんの少しだけ待ち、四つ目の水のコアストーンを手放した。
「ぐっ」
イズは力の入らない身体に鞭を打ち、身を捩って倒れ込むようにして床に転がった。
ルカの放った緩い放物線を描くコアストーン。その軌道からイズは強引に身体を外したかのように見えた。
しかし、そのまま行けば床に転がるはずだった青い輝きは重力を無視した挙動を見せ、方向を変える。
それはまるで――――イズに吸い寄せられるかのように。
「えっ? なんでっ? くぅっ……んはっ」
無情にも水のコアストーンはイズの胸へと吸い込まれていった。
重なる快感に悶えるような声を上げ、イズはかきむしるように自身の身体を抱いた。
その姿はかなり濃くなっており、八割がた精霊状態へと傾いている。
(あと少し……この感じならあと一つぶち込めば完全に持ってこれるかしら? さて……ってあら?)
「ちっ……最後の水のコアはあいつが持ったままだったわ」
「はぁ……はぁ……兄さん、帰ってきちゃダメぇ……」
「代わりにこっちでいいかしら?」
ルカの所持する五つの水のコアストーンの内四つはイズに取り込まれた。
残る一つはというとルカがジルに預けたまま。自身から水の力が消滅したことに気付いたルカはそのことを思い出して舌打ちをするが、無くなったのは水の力だけ。他の属性はまだ残っている。
ルカは赤い輝き――――火のコアストーンを取り出すと、ひゅっと勢いよくイズに投げつけた。
「うっ」
迫りくる赤い輝きに諦めたように目を瞑るイズ。
また自身の意思とは関係なく勝手に中に入り込んで、快楽に蹂躙される。
来るべく快感に備えて少しでも堪えようと身体を強張らせていたイズだったが、火のコアストーンはイズに取り込まれることはなく、バチバチと音を鳴らして弾かれた。
「何……?」
「え、あ……助かったぁ」
(火のコアが弾かれた? イズが何かしたようには見えなかったし、もしかして拒絶反応?)
ルカはイズの手前に転がった火のコアストーンを拾い上げると、そのままイズに押し付けて取り込ませようとする。
「ちょっと! 痛いよルカちゃん。押し込もうとしてもダメだって!」
「入らない……っ? 火のコアを拒否しているってこと?」
ぐいぐいと押し込もうとするが、赤の輝きがイズの肌に吸い込まれていく事はない。
むしろ、反発力のように火のコアストーンを拒む力がイズの体表に生まれ、押し付けられるそれを押し返している。
「じゃあこれは? 風もダメ。こっちは? 光もダメ。一応……闇もダメ……か。あんたの身体……氷のコアと水のコアしか受け付けないって訳ね。変なの」
「はぁ……なんかよく分かんないけど、助かったよ。これ以上はもう入れないでぇ……」
火がダメなら他の属性ならどうかと試してみたルカだったが、イズの身体に押し込むことは叶わなかった。
水のコアストーンと彼女の意思が宿る氷のコアストーンだけがイズの身体に入り込めるようで、その他の宝石はものの見事に弾かれてあと一歩のところで彼女を完全な精霊体に寄せることができずルカは舌打ちを零した。
(氷の精霊として確立したが故に同系統の力しか取り込めないってこと……? まあ、人間が幽霊に成ったうえで精霊にもなってるわけだからそういうこともあり得るかしら?)
氷のコアストーンの製作状況や目的、その保存状態や過去から今に至るまでに辿った経路。
何一つ不明な以上推測も捗ることはなく、ルカは諦めたようにため息をついた。
その時、かなり強めの風が吹いて、外から大きな音が響いた。
館の玄関が乱暴に開けられた音がルカのいる部屋にも聞こえてきて、ルカは求めていた男が戻ってきたのだと悟り口の端を上げた。
何者かが廊下を走る音が近付いてきて、ルカとイズがいる部屋の扉がバンと大きな音をと共に開かれる。
「ルカ! 大丈夫か!?」
「おかえり。何をそんなに慌てているの?」
「契約で繋がっているはずなのに水の力を感じなくなったから急いで戻ってきたんだよ!」
「ああ、なるほどね。それは悪かったわ。今は実験中よ」
そう言ってルカは力なく床に横たわるイズを指さした。
青いオーラを纏いながらその姿を濃く保っているイズ。しかし、顔は紅潮しており、荒い息遣いと震える身体に気付いたジルは何が何だかわからぬまま彼女に駆け寄った。
「イズ! 大丈夫か? どうした?」
「……兄さんのバカぁ」
「何で!?」
ジルの戻りが早かったことで、イズの運命は確定した。
ジルは心配して駆け寄っただけなのに、涙の滲んだ瞳で上目遣いをされ、謂れのない罵倒を受けさらに混乱する。
そんな彼の元に伸びる細い腕。
ルカの手はジルの懐をまさぐり、水のコアストーンを持ち出した。
それが、イズに向けられる。
「さ、覚悟はいい?」
イズは怯えた表情を浮かべて、喉から声にならない声を震わせた。
青の輝きが跳ねた、その直後。
ジルは己が罵倒を受けた意味を知ることになるのだった。




