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ガールズトーク

 ルカの一存によって決定した新居と新たなる仲間の加入。

 それに伴ってまずは家の権利を獲得しなければならないのだが、肝心の不動産の女性はイズのいたずらによって逃げ出してしまっている。

 ジルは彼女を探し、家を買い取ってから戻ってくるという任務を受け、今はここにはいない。


 残されたルカとイズはというと、話をしながら家の中を見て回っている。


「悪いわね。案内させちゃって」


「ううん、何だか探検みたいで楽しいね」


 中を見回る前に既に住み着くことを決めたルカだったが、中が気になる気にならないはまた別の話。内覧の案内人は姿をくらませてしまったが、都合よくイズという住人がいる。

 そんな期待に満ちた眼差しを向けられ、イズは苦笑いを浮かべる。

 住人と言ってもイズが生前過ごしていたのはほとんど同じ部屋。病気でおいそれと出歩くことが叶わなかったため当然だろう。

 幽霊となってからはそんな枷もなくなり、あちこち見て回れるようになったイズだったが、それでもすべてを知り尽くしている訳ではない。ほんの簡単な案内くらいがイズの限界なのだが、ルカが望むものはそれを大きく上回っている気がしてならない。


 そうやって見て回っている時に入った部屋で目についた椅子にルカは休憩がてら腰掛けた。

 当然のように隣に並んで座ったイズにルカは気になっていたことを尋ねた。


「そうだ。一つ聞いてもいいかしら?」


「ん? なんでも聞いてよ」


「あんた、あいつのこと……何で兄さんって呼ぶわけ?」


 初対面の面々。

 それなのにイズがジルを馴れ馴れしく兄と呼ぶ理由。何となく気になる程度だが尋ねることにしたルカは、その疑問をイズにぶつける。


「ジルさん……何だかお兄ちゃんに似てるんだよね。雰囲気っていうか……うまく言えないんだけど……あ、お兄ちゃんだって思っちゃったんだよね」


「へえ、あんたお兄さんがいたのね」


「うん、優しいお兄ちゃんだったよ。忙しくなる前はお見舞いにも来てくれてたんだ」


 生前の思い出を語るイズ。貴族として忙しくなる前まではよく見舞いにやってきたという。そんな実の兄とジルの雰囲気が似ていたというのがイズがジルを兄さんと呼ぶ理由だ。

 それを聞いたルカは面白そうに目を細めた。


「ふぅん。それにしてもあいつが兄か。そんな甲斐性あるようには見えないけどね」


「えー、そうかな? 兄さんは頼りになると思うよ。あ、そうだ! ルカちゃんは兄さんのことどう思ってるの?」


「下僕よ」


「即答!? そして酷い!?」


 イズは自分のジルに対する印象を答えた。

 お返しと言わんばかりにルカに聞き返すも、すかさず返ってきた答えに大袈裟に反応する。

 そんな彼女のころころ変わる表情にルカはクスクスと笑う。


「冗談よ。あいつは私の力を最大限引き出せる最高の精霊術師よ」


「精霊術師……私も兄さんの力になれるかな?」


「あいつはこれがあれば強くなる。あんたの氷のコアの力が必要な時が絶対訪れるわ」


 ルカは自身の手のひらに闇のコアストーンを転がしながら口にした。

 イズも同じように氷のコアストーンを指でつまむように持ち上げその輝きに目を奪われる。


「これが兄さんの力に……か。ルカちゃんはどうなの?」


「私?」


「ルカちゃんもいっぱいコアストーン持ってるんでしょ? 私のこれも取り込めば氷の力が使えるようになるの? ちょっとやってみてよ」


 そう言ってイズは氷のコアストーンをルカに向けて放った。

 突然投げられたそれにルカは一瞬驚いて身体を強張らせるも、咄嗟に手を伸ばし氷のコアストーンを飲み込んでいく。

 水色の力がルカの身体に行き渡り、彼女の身体をぼんやりとその色に染める。


 ピンと建てられた人差し指にたった今宿った力を意識すれば、パキパキと空気が冷え、氷が作り出されていく。


「……この力……かなり燃費悪いわね」


「え、そうかな?」


 イズの望み通り氷の力を使って見せたルカは、これまで使ってきた精霊術とは比べ物にならない魔力消費を感じて苦々しい表情で呟いた。

 人工精霊の各種コアストーンへの適正。ルカはどの力も高水準で扱うだけの才能を持って作り出されたが、氷のコアストーンへの適正は低いようで、氷の精霊術を行使する際の魔力消費が著しく大きい。


 しかし、氷のコアストーンに見定められて氷精霊と成ったイズは首を傾げた。

 彼女にとってはそうでないということは、やはり氷属性への適正は高いのだろう。


「イズの方が氷の才能はあるみたいね……。まぁ、そうじゃないと氷のコアに惹かれたりしないか。氷属性への適正がない氷精霊なんてお笑い者だものね」


「えへへー。やった、私の勝ちー」


 イズは少し氷を作り出しただけで苦い表情を浮かべるルカへの自慢として、それより大きな氷を瞬時に作り出してみせた。

 当てつけのような行為に少しカチンときた負けず嫌いのルカだったが、呆れたようにため息をついた。


「私はどうでもいいのよ。その力を来たるべき時にジルに貸してあげてちょうだい。多分……あいつなら難なく使いこなせるはずよ」


 ルカ自身氷のコアストーンが欲しくないといえば嘘になる。

 しかし、氷のコアストーンを取り込むことによって発生するメリットとデメリットを比べたとき、ルカは後者の方が大きいと判断した。


 だからこそ、イズから氷の力を無理やり取り上げるようなことはしない。


(すべての力が欲しいなんて言っておきながら私も随分甘くなったわね……。これもあいつのおかげかしら……?)


 封印される前や封印が解かれた直後。確かに力を望んでいたはずのルカの心境に変化が現れていた。

 かつての自分だったらたとえ自分の身の程に合っていない力でも手に入れたい、奪いたい。そう感じていたはずなのにとルカは自嘲気味に笑う。

 そんな渇いた望みに潤いをもたらしたのは誰か。

 一人しか思い浮かばない、今この場にはいない男の声を思い出してルカは満足そうに微笑んだ。

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