半霊半精霊
イズの身体から取り出された水色の宝石。
それはルカの持つコアストーンと同じ形をしており、違うのは放つ輝きの色のみだ。
確かにそれは青い輝きを放つ水のコアストーンよりも薄い色をしている。それを氷のコアストーンと呼んだルカは興味深そうに呟いた。
「どう? 私の知らないコア、あったでしょ?」
「……いつ気付いたんだ?」
「ついさっきよ。冷たいとかどうのこう言ってたのがイズの持つ力とそっくりだと思ってね」
このいわく付きの館は季節外れの気温低下を頻繁に起こす。それもイズの仕業であるというのは割れており、先程は扉の凍結も引き起こして見せた。
無くなったコアストーンの特徴と、イズが幽霊になってから獲得した力。その間にある結び付きを見逃さなかったルカはついに彼女自身が認識していなかった秘密を暴いてみせた。
「それにしても驚いたわ。こんなに近く……目と鼻の先にいるのに、精霊としての気配が希薄すぎて感じ取れなかったわ」
ルカの精霊感知は一定範囲内の同族の気配を探り当てることができる。
しかし、イズの存在は特殊な状態にあるのか、これほどまでに近付いていても気配を見逃していた。
これまでにない初めてのケースにルカも驚きと感心を覚えている。
「え、あれ……それ、どこから……?」
ジルとルカが情報共有をしていると、イズが未だに状況を飲み込めていないままか細い声を上げる。
「イズはかなり混乱しているな」
「ま、今のは結構効いたわよね」
「ルカがいきなり胴体ぶち抜くからだろ?」
「それが手っ取り早かったのよ」
取り乱しているイズ。
それを引き起こしたのはルカの言葉足らずと諸々の説明を省く面倒臭がりだ。
そのリカバリーという訳では無いが、ルカはイズに寄り添って座る。
そして、彼女の透ける手に取り出した氷のコアストーンを握らせる。
「結論から言うとあんたはただの幽霊じゃない。私と同じ精霊になってるわ」
「……精霊? ルカちゃんと同じ? どういうこと?」
「ま、そうなるわね。仕方ないから説明するわ」
そうしてルカは過去の事、コアストーン誕生の秘話、コアストーンを核とする人工精霊についてイズに話し始めた。
ジルやルカにとっては当たり前の共通認識でも、初めて聞くことになるイズにとっては未知の世界。
驚きと戸惑いを浮かべながら、すぐには飲み込めないような事実ですら、問答無用で押し付けられた。
ルカの話を一通り聞いた後、イズは自身の手と久しぶりに見ることが叶った水色の宝石――――氷のコアストーンを交互に見る。
氷のコアストーンにうっすら反射して見えるイズの表情はどこか強ばっていて、その瞳は小さく揺らいでいた。
「私が精霊……。ルカちゃんと同じコアストーンの……?」
「私の推測だけど間違ってないはずよ。あんたから超絶微弱だけど同族の気配も感じたしね」
「……そっか。私が氷の精霊……か。うん、信じるよ」
「意外とすんなり信じるのね……。私が嘘を言っているとは思わないの?」
「信じられるか信じられないかでいったらそりゃあ半信半疑なところはあるけど……嘘を言ってないってことは分かる。まあ、幽霊に成れちゃった以上そういうものあるかなーくらいの気持ち」
イズにとってルカの話は「はいそうですか。分かりました」と無条件で信じるにはあまりに無理があった。だが、イズ自身の存在が信じられない非現実、幽霊化というのを既に引き起こしている。
ならば、精霊化もそれほど不思議なことではない。ひとまずそう思い込むことにしたイズはルカの反応に困ったように笑う。
「しかし、そういうことがあるんだな」
「ご苦労様。ま、私も初めて見る事例だから合ってるか分からないけどね」
ルカがイズに話をしている間にジルは階下にて凍った扉の解凍作業をしていた。
その間にもルカの話は耳に届いていたため、イズの現状についてのルカの予想に驚きを覚える。
「コアストーンが大きな力を持っている。その力を効率よく使うために意志を宿したのが私達精霊。だけどその意志は最初からそこにあったわけじゃない」
「意志が注がれたのは後からってことか」
「そういうこと。だけど私の知らいないコア…………それはコアとしては完成してても恐らく精霊としては未完成だったのでしょうね。不完全で意志も空っぽのコアストーン。だからこそ、イズの魂が入り込む余地があった…………いや、引き込まれたのかしらね」
コアストーンは元々大きな力を宿すだけの宝石だった。
それに意志が宿されて自律する人工精霊として機能を果たすようになったが、それがまだ未完成だったならば。
意志のない空のコアストーン。未練多くして亡くなった若い魂。
惹かれ合っても何ら不思議ではない。
「今のイズは幽霊と精霊の両方の性質を持つのは確かね」
「氷のコアか……。ルカ、まさか……っ!」
「安心しなさい。そんなことする気はないわ」
イズがただの幽霊ではなく、氷の精霊でもあるならば、ルカがどんな行動を取るのか。
風精霊ロアとの激闘とその末路を思い出し、ジルはハッとする。
しかし、何かを言われる前にルカはそれを否定した。
コアストーンが。ルカの知らなかった未知の力が。目の前にあるというのにそれに手を出すつもりはないのだという。
「イズ、あんた……私達の仲間になりなさい」
「仲間……私が……?」
「私達はあんたのことを見つけてあげられるし、この家に住むから一緒にいてあげられるわ」
「え! 本当に! 他の人達みたいにすぐにどこか行っちゃったりしない?」
「しないわ……だから、私とこいつに力を貸しなさい」
「力……? よく分かんないけど分かった!」
「そ、じゃあこれからよろしく頼むわ」
ルカはそれがもう決まったことであるかのようにイズに語っていく。
そこにジルの意見が入り込む余地はないようで、既にここに住むことも決定事項。
こうなった彼女は曲げられないと知っているジルは呆れたように二人を交互に眺めた。
ジル自身すべてを飲み込んで消化しきれたわけではないが、ひとまず新居の決定と新しい仲間を喜ぶことにするのだった。




