幽霊少女②
聞かないといけない、でも単刀直入には聞きづらかったそれをイズは打ち明けた。
元々ジルもルカも勘づいてはいた。
後はそれを裏付けるイズ本人からの証言を引き出したかっただけなのだ。
「あんたがこの館をいわく付きと言わしめる原因ってわけね」
「そんな事言われても……ここは私のための場所だし。あと、あんたじゃなくてイズだよルカちゃん」
「ちっ、しつこいわね。分かったわよ、イズ」
ルカは終始ペースを乱されているようで、頭に手を当ててため息をついた。
イズはそんなやり取りですらも楽しんでいるのか、ご満悦と言った様子で階段の段差に腰掛けた。
「ここはロゼリア子爵の別荘だと聞いたが、イズのために作られたのか?」
「そうだよ。ここは病弱だった私の療養のためにお父様が建ててくれたの」
「病弱?」
「生きてる時は身体が弱くってさ。しょっちゅう熱を出して寝込んでたの」
「確かにここは静かだし自然豊かで安らぎを感じられるな」
この館自体にどんよりと重い空気を感じていたジルだったが、それがなければ自然に囲まれた落ち着いた静養ができる場所だと納得はした。
「うん。でも私は良くならなかった。ここでの療養はいい気分転換になったけど、私の身体は日に日に弱っていった」
イズは儚い表情を浮かべ過去を思い出し語る。
父親の用意してくれた静養地での療養は心に安らぎを与えたかもしれないが、弱った肉体を回復させるには至らなかった。
復調の兆しを見せることなく、ゆっくりと弱り果てていくのはイズにとって苦しいものだった。
「じゃああん……イズはそれが原因で死んだってことなのかしら?」
「わお、ルカちゃん結構ズカズカ踏み込んでくるね。でも、そういうの嫌いじゃないよ」
「フン! で、どうなの?」
「あはは、そうだよ。私はここで死んだ。これが大怪我とか何かの呪いとかだったら魔法で治したり、解いたりできたんだろうけど、残念ながら私のは体質だからね」
ロゼリア子爵としてのコネで名だたる光魔法使いや回復術師に見させたこともあった。
しかし、イズの場合体調を崩している原因が明確という訳ではなく、一時的に苦痛を和らげることはできても完全に治すことはできなかった。
何せその身体を蝕んでいるのはイズ自身の体質。
魔法で痛みや熱を一時的に取り除くことができても、魔法が切れたらすぐに元通り。どんなに優れた魔法使いでも魔法を行使するためのエネルギー、魔力には上限があり、体力的にも魔力的にもイズに癒しを与え続けることはできなかった。
「じゃあ、イズは何か未練があるからこうして幽霊となってここに留まり続けてるのか?」
「未練がないって言ったら嘘になるけど……私にもよく分からないんだ。気付いたらこうなってたから……」
死後に魂が残り幽霊となるのは、現世に未練があるからというのがよく言われている。
若くして亡くなったイズも当然未練は抱えているのだが、それが自身を幽霊化したのかと聞かれると何とも答えることができず困ったように頬をかいた。
「でも幽霊だって割にはしっかりこっちに干渉してくるわね……」
「確かに……そうだな」
「あんた、本当にただの幽霊なわけ? まだ何か隠してることがあるんじゃないの?」
イズはジルやルカにこそ見えていて声も届くため意思疎通もできるが、その他の人には認識してもらえなかった。
幽霊とは本来そういうものだ。
ルカが気になったのは幽霊であるはずのイズの干渉度合い。
誰もいないはずなのに廊下に足音が響いたり、誰も触っていないのに扉が勝手に開閉したりとその程度であれば幽霊であるとまだ飲み込める。
だが、それとは桁が違う干渉力を見せられていることをジルは思い出した。
「この館の冷え込みや、あの扉の凍結……。イズがやったんだよな」
「あ、うん。そうだけど……そういえば気にしたことなかったかも。生きてる時はこんな事できなかったけど、幽霊になったらできるようになったんだ」
「それも気になるけど……その力はただの幽霊が持つには大きすぎる。やっぱり何かあるわ……」
そう呟いたルカは少し考え込んでから顔を上げた。
考えが纏まらないのかどこかスッキリとしない表情でジルに声をかける。
「ジル、イズが凍らせたあの扉溶かしてちょうだい」
「外に出るのか?」
「ええ、一度新鮮な空気を吸って頭をスッキリさせましょう」
「分かった。あ、ここで火だけ使うと燃えるかもしれないから水も貸してくれ」
「そうね。私達の家になるんだから燃やしたら承知しないわよ」
不動産の女性もイズに驚き逃げ出してしまった今内覧もまったくと言っていいほど進んでいない。
それでもルカの心は決まっているのか、未来の自宅を案じる姿勢を見せる。
ジルとしては自分のものでは無い物件を破壊してしまう可能性を案じたつもりだったが、相変わらずのルカらしい発言に苦笑いを浮かべながら手を差し出して青色の石を要求する。
「ほら、使いなさい」
「おう、任せろ」
ルカが手首を弾くように返すと、青色の輝きが飛び出した。
薄暗い景色を切り裂く青の光は、そのまま落下してジルの手に収まる。
ジルは先んじて渡されていた火のコアストーンと今しがた受け取った水のコアストーンを腕輪に装填しようと腕を動かした――――その時だった。
「えっ! それ……」
階段の段差に腰掛けていたイズが驚きの声を上げて飛び上がるように立ち上がった。
その視線はジルの持つコアストーンに釘付けになっている。
「どうしたイズ?」
「兄さんの持ってるそれ……見覚えがあるかも」
イズの反応にジルは振り返り尋ねる。
すると、イズはわなわなと震える指をジルの持つコアストーンに向けて、そう口にしたのだった。
成功、健やかな体




