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いわくつきの館

 気になる物件をピックアップして、不動産屋の女性と共に内覧に向かったジルとルカ。

 普通の物件でルカの気持ちが固まることを祈っていたジルだったがそれは叶わず、ついに最後の物件――――いわくつきの物件へとやってきた。


「ここね。実際に見てみるとやっぱり大きいわね。ね、あんたもそう思うでしょ?」


「……あ、ああ。確かにでかいし広そうだな……。でもな……」


 ルカは満面の笑みでその壮大な館を見上げてテンションを上げているが、その反面ジルは居心地があるそうに顔をひくつかせている。

 確かにその建物だけを見るのなら即決してもいいほどに広く、有り得ないほど格安である。

 しかし、素直に喜べないどころかどこか受け付けない雰囲気を醸し出す館にジルはごくりと息を呑む。

 はしゃぐルカを尻目に、隣にて同じように顔を若干青くしている女性に目の前の館の詳細を今一度尋ねた。


「ここって元はどんな家だったんですか?」


「ここはロゼルを治めるロゼリア子爵の別荘だったようです。とはいえ何代も前の領主様が建てたもので、しばらくは使われていたみたいですが、不気味な出来事が起こるようになってから関与したくないとすぐに手放されたようで、こうして売りに出されてるわけですね……」


「貴族様の……そりゃこんなでかいのも納得だ。ちなみにどのくらい前なんです?」


「記録によると売られた……というか厄介払いの様に無償で提供されたみたいですが……それも何十年も前の話みたいですね」


「へえ……結構前に建てられたのか。その割に見た目は綺麗だな」


「一応劣化防止の魔法がかけられてますので」


「ちょっとあんた達いつまで話し込んでるのよ! 早く中も見てみましょ!」


 ルカは待ちきれないというように、門を開かずにふわふわと浮いて飛び越えて、柵を隔てた向こう側からジル達を呼ぶ。

 ジルは困ったように門を開け、中に入る。

 女性もその後を追って中に足を踏み入れたその時、背後からガチャンと甲高い音が鳴り響いた。


「……え? いやいや、脅かさないでくださいよ。そんな勢いよく閉めなくてもいいじゃないですかー」


「……あの、私は何もしていませんよ」


「じゃあ、風でも吹いたんですかね?」


「……あの……はい、そうですね」


 大きな音に驚いたジルは振り返って閉まった門を見る。

 しかし、女性も門から少し離れた場所で、ジルと同じく振り返っていた。

 それは門に手が届き、閉められるような距離ではない。


 それでもジルはとぼけたように女性に言う。

 あくまでも自然的な影響で閉まった。

 何か不思議な力が働いて閉められたのではないと必死に思い込みながらジルは前を向いた。


 そうして鍵を開けてもらい、玄関が見える。


「いいわね! まるで私達を出迎えてくれてるみたいね」


「えっ……そうか?」


 玄関にもどんよりとした空気が漂っている。

 ジルはその空気に重さを感じながら、闇少女の感性を疑う。

 しかし、ルカがこれまでにないほど生き生きとしているため、浮かんできた言葉は喉から出る直前で何とか納める。


「それにしても……なんか冷えるな」


「日が当たらなくなって涼しくなっただけでしょ?」


「いや、吐く息も白いしそういう話じゃないと思うけどな……」


「そう? じゃあ、これでも使って温まれば?」


 屋内に足を踏み入れただけとは思えない冷え込みを見せる廊下にジルはブルリと身体を震わせる。

 ルカは何でもないといったように振舞っているが、ジルの吐く息が白く染め上げられているのが何よりの証拠だ。

 そんなジルの様子を見てルカは不思議そうにしながら、火のコアストーンを三つ放り投げた。


「おいおい、暖取らせるのにコア寄こすなよ」


「何よ、あんたが騒ぐからでしょ」


「……まあいい……ってあれ?」


「どうしたの?」


「俺達、はぐれたみたいだな……」


 ジルは不動産屋の女性とはぐれたとこに気付いた。

 先程まで三人で歩いていたと思っていたのにいつの間にかここには二人、ジルとルカの姿しかない。


「変ね……。この廊下……一本道だと思ったけど。別れる道なんてなかったはずよ」


「……だよな」


 立ち止まる二人。

 ルカは記憶を手繰り初めておかしいと感じた。

 はぐれると言ってもそれほど長い道を歩いてきたわけじゃない。

 そう思い来た道を戻ってみるも誰ともすれ違うことはない。


「いないな……」


「ちっ、案内役の癖に……どこに行ったのよ」


「もしかしたら外で待ってるののかもしれないな。一度出てみるか」


 ジルはいとど外に出て彼女がいるか確かめようと玄関に向かう。

 扉を引くための手すりに触れた――――その時。


「君達ももう帰っちゃうの?」


「っ?」


 触れた手すりの冷たさと背後から聞こえた第三者の声にジルは驚きながら振り返る。

 かつ、かつ、と足音がする。

 玄関正面、上階に繋がる大きな階段。

 そこをゆっくりと歩く影があった。


「ルカ」


「こいつ……いつの間に……っ? さっきちらっと見たときは誰もいなかったわよ」


 ジルとルカは警戒心を露わにしてその影をじっと見つめている。

 そうしてその影が近づいてくるうちに、その顔が視認できるようになる。


「あれ? もしかして私の事……見えてる?」


 姿を現した少女はありえないものを見るように、小さくそう呟いた。


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