新居を決めよう
宿生活を抜け出すために家を買うことにしたジル。
といってもどんな家でも購入できるほど予算が潤沢なわけではないのである程度条件は絞っていかななければいけない。
ルカと共に不動産屋に訪れたジルは、予算上限と照らし合わせて、どういった物件がいいか決めあぐねて書類とにらめっこをしている。
「どうでしょうか? 他に何か付け足したい項目はございますでしょうか?」
「うーん。町の中心部から離れててもいいんで、予算に収まる物件は他にありませんか?」
初めはロゼルの町中心付近でよさげな物件がないか探していたジルだったが、中々ピンとくる物件が見つからず範囲を広げた。
そうしてしばらく待っていると、条件に合う候補を追加してもらい、ジルとルカは目を通していく。
「ここはどうだ?」
「そうね……悪くないけどもう少しリビングとキッチンが広い方がいいのかしら? 一応内覧する候補として残しておきましょうか」
「俺はここが気になるな。ちょっと町はずれで商店街とかからは距離があるけど、日当たりもよくて自然を感じられていいと思う」
「そう? じゃ、そこもあとで実際に見ていきましょ。というか町の中心に絞らなければ意外と気になるところが見つかるものね」
「そうだな。もういくつか絞って見に行こうか」
そうして実際に内覧する候補をいくつか絞ってそれ以外の紙をまとめていると、一枚の紙がひらりと床に落ちた。
ジルがそれを拾い上げると、これまで案内してくれていた女性が驚いたような反応を示す。
「それはっ……! すみません、そちらの物件をお出ししてしまったのはこちらの手違いです」
「え? でもこの家……いえ、館かしら? 私達の出した条件とは大きく外れてないわよね。何かあるのかしら?」
「その……そちら物件はいわくつきでして……」
「いわくつき? 何よそれ?」
「幽霊とかがでたり、変なことが起こったりするんだ。そこでは何が起こるんですか?」
「えっと、扉が勝手に開いたり、誰もいないのに夜中に廊下がきしむ音が聞こえたり……あとは、気温と関係なく異常に冷え込む日があったり、何もないのに気分が悪くなったり……入居された方はすぐに気味悪がって出て行ってしまうんです。何年もそんな状況が続いているのでこのまま入居される方がいないなら取り壊しになる予定ですね……」
「結構真面目にいわくつきなんですね……」
不気味な出来事が起きる館。
過去の入居者もその被害に遭いすぐに出て行ってしまってるという説明を受けてジルは眉を寄せた。
実際にそのいわくつきを確認した訳ではなくとも、過去の住人がすぐに出て行ってしまうということや、不動産の女性のお勧めはしないといった様子からこの物件はやめた方がいいと考え、その紙を返そうとした。
その時、横からすっと手が伸び、その物件の詳細が書かれた紙をひったくられた。
それはルカの仕業だった。
ルカはその詳細を隅から隅までまるで穴が空くのではないかというほどにしっかり眺めてニヤリと笑う。
「これ、面白そうね。一応見ときましょ」
「おい! やめといたほうがいいんじゃないか? どう考えても怪しいだろ」
「あの……私が言うのも何ですが、考え直した方がよろしいかと……」
「いいのよ。見るだけならタダでしょ? この値段でこの大きさこの条件の家に住めるのなら試す価値はあるわ」
「説明された感じだと多分いるぞ……幽霊。ルカは怖くないのか?」
「はぁ? あんたそんなのにビビってる訳? 私を誰だと思ってるのよ!」
ルカはその一枚を内覧する物件の書類の山に重ねた。
それを見たジルと女性が止めるもルカは聞く耳を持たない。
確かにその館は大きさや立地の割に格安だ。
だがそれは訳ありだからだ。
ジルもそれが訳ありいわくつきの物件でなければ迷わず手に取り、何なら即決してもいいとさえ思える好条件。
だが、いわくつきというだけでその好感触をすべて打ち消して、マイナス方向へ持っていくのには十分だった。
家というのは帰る場所、そして安らぎを得るための拠り所。
それなのにそんな訳あり物件を好き好んで選ぼうなんて無謀なことジルにはできなかった。
「別にまだここにするって決めた訳じゃないわ。全部見て回ったうえで最終的に決めるんだから見るくらいいいでしょ?」
「まあ、それはそうだけど……」
「ほらほら、見てみればもしかしたらあんたも気に入るかもしれないわよ」
「……いや、それはない、と思う」
まだ決まったわけではない。
ルカに言いくるめられたジルは渋々内覧を了承した。
あわよくばその事故物件を見る前に、ルカの心が他の物件で決まってくれればいいなと考えるも、おそらくその未来は訪れないのだろうとどこか諦めを覚え、がっくりと肩を落として内覧に向かうのだった。
率直に申し上げますとモチベがやばいのでなんかいい感じに応援してもらえると助かります……!




