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最後の山分け

 体調が回復したジルは久しぶりに冒険者ギルドへと訪れた。

 最後に顔を出したのはロアと戦う直前だが、その前も間が空いていたため本人からしてみれば久しいという感覚が強い。


 扉を開けるといつもの様子。慌ただしくゴタゴタした様子ではなく、賑やかでガヤガヤとした騒がしさ。

 そんな当たり前の光景を取り戻したギルドをどこか懐かしむように入り口付近で突っ立ていると、顔なじみの連中がジルに押し寄せる。


 ギルドに顔を出していない間何をしていたか、いつも隣にいる女の子はいないのかなどたわいもない会話を交わして、ようやく解放されたジルは依頼掲示板の前に辿り着いた。


「えっと……病み上がりだし軽めのしておくか……? でも、それだと張り合いがないってルカに怒られるかもしれないな」


 自分の体調と相方の反応を考慮して、受ける依頼を選んでいると不意に背後から肩を軽く叩かれる。

 振り返ると冒険者ギルド規定の制服を身に纏った女性が立っていた。


「お久しぶりです、ジルさん。最近見かけませんでしたがどうかされたんですか?」


「その話はさっき散々聞かれたよ。ちょっと体調を崩して寝込んでたんだ」


「そうなんですか。確かに気候が荒れると体調を崩す方もいらっしゃいますもんね」


「まあ、そんな感じかな」


 ジルは自身がギルドに訪れなかったのは体調を崩していたということにした。

 実際は腕輪とコアストーンを使った戦闘による疲労と反動で安静にしていた時間が長いのだが、体調がすぐれなかったというのは事実なので嘘というほどではない自然な理由だ。


「えっと……それで、俺に何か用?」


 そんな真実にほんの少しの嘘を混ぜただけの当たり障りない理由を述べたジルは、彼女が自分に声をかけてきた訳を尋ねた。

 ギルドの職員としては冒険者とのコミュニケーションも大切であり、そもそも話すのが好きという者も多い。

 だが、彼女はそのようなおしゃべりをしたいから話しかけてきたという様には見えなかった。

 わざわざ受付カウンターから離れて声をかけに来たのだから、何もないとは考えにくい。


「大きな声でお話しできない事なので……こちらに来てもらってもよろしいですか?」


「は、はあ……」


 ジルは戸惑いながらも彼女の案内に従って着いていく。

 案内されたのは静けさが漂う応接室。

 先に通されやや高級感のある椅子に座らされたジルはどこか居心地の悪さを感じていた。


(え……俺何か悪いことしたか? まさか……シュウの奴に嘘の報告をさせたことがバレたのか?)


 これから何か取り調べのようなものがおこなわれそうな想像に駆られて、ジルは顔を強張らせる。

 後ろめたいことはないと言い切りたいところだったが、残念なことに心当たりがある。

 そんな悪い妄想をしているとジルに呼びかけた受付嬢が何やら大きめの麻袋を手にして入ってきた。


「すみません、お待たせしましたー……って、あれ? ジルさん、何だか顔色が優れないですね。もしかしてまだ体調悪いんですか?」


「え、あー……いや? そんなことないと思うよ?」


「そうですか? なら良いのですが……」


 受付嬢は冷や汗をかきキョドリながら返事をするジルを不思議そうに首を傾げた。

 しかし、本人がそういうのならと深くは追及せずに本題を切り出す。


「では、こちらをお受け取り下さい」


「重っ……なにこれ?」


 彼女が持っていた麻袋。

 それを手渡されたジルの手にはずっしりとした重量感がのしかかる。

 中身は何なのかと袋の口を解こうとすると中からジャラジャラと音が鳴る。


「お金……しかも結構な大金ですね。何ですかこれ?」


「シュウさんからお預かりしていたものです」


「……シュウが?」


「はい。ジルさんにお渡しするようにと置いていかれまして……ご自身でお渡しするように言っても取り合ってもらえず……。ギルドはこういうサービスはやってないのでやめてほしいんですけど……」


 中身は金。

 その詳細を尋ねると、シュウがジルに渡すようにと半ばギルドに押し付けた物の様だった。


「シュウは他に何か?」


「報酬の山分け。ジルさんに渡せば分かると言ってましたよ」


「山分け……そうですか」


 町の平穏を取り戻した功績。

 それに為した者に与えられたはずの昇級や依頼の報酬。

 手柄はすべてシュウに譲ったはずなのに、こうしてかつてパーティを組んでいた時のように自分の取り分がある事にジルは懐かしさを覚えた。


 彼らが何を思いこの大金をジルに渡すように仕向けたのかは定かではない。

 その真意を知る者はシュウのみ。

 だが、ジルはこうであってほしいと思った。


(もう同じ道を歩む仲間ではなくなったけど……ちょっとは俺のこと、認めてくれたのかな)


 それはそれとしてもらえるものはきっちりともらう。

 特にここ最近のジルは冒険者活動をめっきり休止していたため、宿代やらなんやらの出費により貯金が少しばかり削れていた。

 その金が本来は違い人にわたるべきものだったとはいえ、実際諸悪の根源を打倒したのはジルであるため、後ろめたさのようなものはあまり感じていない。


「あ、でも……なんでこんなに人目のつかないところで渡したんですか? 別に渡すだけなら受付カウンターでもよかったような……」


「いやいや、ジルさん。あんな人目のつくようなところで大金の受け渡しなんてしたら、昼間から飲むのも厭わない酔っ払いにたかられちゃうじゃないですか」


「…………確かに」


 久しぶりに顔を出したジルに気さくに話しかけてくれる冒険者の男達。

 その中には昼間から呑んだくれるのも厭わない冒険者もいる。

 もし、そんな酒飲みに懐が暖かいことがバレてしまったら、ギルドに併設されている酒場に連行されてしまうこと間違いないだろう。


「ありがとうございます……! いや、本当にありがとうございます!」


 機転を利かせて財布を救ってくれた彼女に、ジルは最大限の感謝を述べるのだった。


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