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精霊の秘密

 ジル達によってロアが討伐された数日後。

 町はこれまで通りの平穏を取り戻していた。


 シュウはルカの脅し、もといお願いをしっかり聞き届けたようで、町の平穏を取り戻した功労者として扱われている。

 異常気象におびえることも、緊急の依頼に人材や依頼費などを費やす必要もなくなったため、ギルドとしても大助かりだったのだろう。


「町に活気が戻ってきたな。これならルカの好きなパン屋さんも再開してるかもな」


 安静にして宿屋にて休んでいるジルは窓を開け、外から聞こえてくる賑やかな様子に安心したように息をついた。


「そうね。あんたがもう少しましになったら一緒に行きましょう」


「ああ。痛ててて……」


 ジルはコアストーンを多用した反動に身体を軋ませて顔を歪める。

 日常生活に支障はないほど回復していても、まだ痛みは残っているようで無理は禁物だ。

 無茶をした代償とはいえ、苦しそうにうめくジルにルカは目を細める。


「あんた……そんなになっても何も聞かないのね?」


「聞くって……何をだ?」


「あんたがそんなにボロボロになってるのはコアの力を使ってるから。ロアの奴に言われたこと……まさかもう忘れたの?」


「ああ、それか。別に忘れたわけじゃないけど……。腕輪について隠してること……か」


 ジルは外して机に置いてある腕輪に目をやる。

 それはジルにとって大切なモノ。

 自分に足りなかった力を与えてくれる、そしてルカという運命の精霊との繋がりを示す贈り物。


 それについて知らない事は確かにあるのだろう。

 だからと言って疑うことに繋がるわけではないが、知らないものを知りたいと思うのもまた事実。


「ルカが言いたくない事なら別にいい……でも、話せることがあるのなら教えてほしい」


「……ええ、分かったわ」


 そうしてルカは何から話すべきかと少し悩み口を開いた。


「そうね、じゃあ、まずは問題よ。私達人工精霊は何を目的に生み出されたと思う?」


「目的……? 戦力とかか……?」


「まあ、大体あってるわ。正解は戦争のため。とある国の王が家来の魔法使いや錬金術師に命じて作らせたのが私達ってわけ」


「……戦争か」


「そ、戦争。強大な力を宿しながらも自律した存在。そして単体としてだけでなく契約さえ結べば人間も力を得ることができる一石二鳥の道具……のはずだった」


「はずだった?」


「私達を生み出すことを命じた王が私達全員と契約を結んだのよ。何かと強欲な王だったから、力をすべて自分に集中させたかったのでしょうね。でも、王は精霊との相性はあまりよくなかった。扱えた力も今のあんたに比べたらカスみたいなものだったわ。宝の持ち腐れもいいとこよ」


 精霊との相性が悪い王がすべての精霊の力を抱え込んだ。

 しかし、どの精霊とも力をB通わすことができなかった王が扱えた力はとても小さなもので、本来であれば精霊と契約を結んだ契約者に大きな力をもたらすはずがそうはならなかった。


「元々の才能がしょぼかったとしても努力すればちょっとはマシになったかもしれない。でも、あいつはそんな努力しようともせずに力を手に入れる事を考えていた。そうやって楽をして力を得ようとして作られたのが……その腕輪よ」


「コアの力でってことか……」


「そう。精霊との相性関係なくコアに宿る力をそのまま引き出すための腕輪。だけどそれすらも王は使いこなせなかった。いえ、初めから大きな力を扱おうとしたバカだったというべきかしら」


 ルカはそう言って腕輪を手に取り、コアストーンをはめる窪みを撫でる。


「この腕輪の窪みは全部で五つ。そして王が契約していた精霊は五体」


「まさか……いきなりすべてのコアを……?」


「そう。王は支配下にある私達に命令してコアストーンを一つずつ差し出させた。そして……それを一気に全部使った。精霊との相性も悪く力の扱いに秀でている訳でもない王がそんなことしたらどうなるかは明らかだったのにね」


「その王はどうなったんだ?」


「簡潔に言ってしまえば力を暴走させて死んだわ。大きな力を扱うのにはそれなりのリスクがある。そんな簡単なことも分からないバカな奴だったわ」


 ルカは記憶の奥底にある、かつての王の最期の姿を思い出して鼻で笑う。

 力もないのに力を求め、力に溺れて破滅した王は滑稽だったと語る。


「王が死んでからは酷かったわね。王との契約が無くなって私達を縛る枷も無くなったから、私達は衝動に駆られるままに大暴れ。自分のコアを求めて激突し合って王宮は大混乱よ」


 王が亡くなり、大人しかった精霊達がこぞって暴れ出す。

 そんな混沌と化した王宮がどれほど悲惨な結末を迎えたかはジルも容易に想像ができた。


「でも、その腕輪をどうしてルカが持ってたんだ?」


「封印される前にどさくさに紛れて王の死体からかっぱらっておいたのよ。これはしかるべき人間に使わせれば強力な武器になるのは間違いなかったしね」


「それが前に話してた封印か」


「そ。私達を作った奴らがいざという時に私達を無力化できるように術を施していたんでしょうね。身体が勝手に分解されてコアむき出しの状態にされて、バラバラに飛ばされて意志も眠るように沈められた。私はそうなる前に同じく身体が崩れていってたリンからコアを拝借してたのだけど……今思えば闇のコアから回収しておけばよかったわね」


「いや、そこで他の奴らのコアを奪おうと行動に移せたのはすごすぎるだろ……」


 そこでルカの話は以前軽く語った封印に繋がった。

 ルカは己の闇のコアから回収しなかったことを「しくじったわ」とぼやくが、身体が崩壊して周りの精霊達が慌てる中、剥き出しになったコアを奪取するという発想に至り行動に移せただけでも十分すぎるだろう。


「話がちょっとそれたわね。結局のところこの腕輪の最初の装着者が死んだのは事実。リスクのある代物なのはちゃんと理解しているわ。だから、その…………黙ってたのは悪かったわ」


「……でも、ルカはこれの危険性を分かってたから、はめるコアは一つからにさせてたんだろ?」


「ええ。でもそれを知らないあんたは使うコアをどんどん増やしていった。私がまだ早いと思っていた三つも使いこなして、ついには四つ目も使用した。でも……やっぱり払う代償は大きかったわね……」


「もとより覚悟の上だ。ルカが気に病むことじゃない」


 ルカは危険性を知りながらもそれを伏せてジルに腕輪とコアストーンを使用させていたことを謝った。

 その様子はいつもの強気で凛としたルカではなく、どことなく沈んだ雰囲気を漂わせる。

 ロアとの戦闘中では下手な反応が弱みになると理解してあのような受け答えをしていたものの、実は核心を突かれて動揺し、それを悟らせないために必死だったのだ。


 ジルはルカの過去と腕輪に関する出来事を聞いて何も思わなかったわけではない。

 ジル自身二代目腕輪の主としてこれまで使用し、強大な力を得られる引き換えに大きな負担をもたらすものであるというのも理解していた。

 だからこそ、ロアの話は衝撃的で動揺もあった。


 しかし、それ以上に納得がいった。

 ジルは力を求めたが、ルカもジルに力を求めた。

 ならば複数のコアストーン――――もとい大きな力を与えてしまえば手っ取り早いと思われるそれをルカはしなかった。

 それは、ルカがジルという個人を少なからず大切に思っていたからだ。


 ルカがジルのことを何とも思っておらず、ただ利用しているだけの存在であるならば、腕輪の事情など考慮せずに使い捨ての人間として使い潰していただろう。

 だが、彼女の粗暴な言動とは裏腹に、二人の間には確かな信頼が芽生え、もはや「利用する」なんて考えはない。

 端的に言ってしまえば情が湧いたということだ。


「もし、あんたがこの話を聞いてその腕輪を使うのが不安になったのなら、もう無理に使えとは言わないわ。これだけのコアが集まったのなら、私はもう一人でも戦える……」


「そんな弱々しい顔で言っても説得力ないぞ……。俺を利用するんだろ? だったら……ちゃんと利用し尽くしてみせろ」


「…………っ! …………バカね。でも、ありがと」


 ジルはルカの持つ腕輪をひったくり、自分の腕に着ける。

 それは、この腕輪の主は自分だと宣言するかのように。

 その行動と言葉で、ジルの意思は十分に伝わったのだろう。


 瞳から雫が一滴頬を伝う。

 だが、彼女の表情はとても晴れやかで、柔らかい笑みを浮かべていた。

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