命令と別れ
1話飛ばして更新してしまったので割り込みで差し込みます……
ロアの消滅を見届けたジルは腕輪にはめたコアストーンをすべて抜き取りルカに投げ渡す。
そして、通常の精霊術師の力としてルカの持つ水属性の力を引き出して、消火活動を行う。
幸いにも炎を使った攻撃は最後の一撃のみで、ルカの光結界のおかげでそれほど燃え広がったわけではないためすぐに火は収まった。
「森で火属性の精霊術は使うもんじゃないな……ぐっ」
その後、緊張の糸が切れたようにふらりと膝から崩れ落ちる。
休憩を挟んだとはいえ連戦。しかも、出血による貧血とコアストーンの多用による蓄積された疲労。
ここまで気力だけで持たせてきたジルを褒める他ない。
「お疲れ様。よくやったわ」
「勝ったか……疲れたな」
「でも、ここでクソガキを潰せたのは大きいわ。おかげでコアも増えた……でも」
「やっぱり闇のコアはなかった……か」
ルカもジルの隣に腰を下ろす。
ロア・ソベリルという強敵を打ち破ったはずなのに、どこか表情が曇っているのは仮説が証明されたからだろう。
ジルは戦闘におけるロアの行動パターンや癖などを分析して、彼女が闇のコアストーンを処女していないと推測した。
しかし、それはあくまでも推測でしかなかった。
コアストーンは持っているけど力は使わないなど、コアストーンの存在を隠す方法はある。
だが、ロアを倒し彼女の持つコアストーンをすべて明らかにさせたため、『持っていないかもしれない』が『持っていなかった』になってしまった。
「ルカのコア……どこにあるんだろうな……?」
「……今は気にしても仕方ないわね。私のコアがないのは残念だけど、それ以外のコアがもれなく手に入ったから良しとしておきましょう」
薄々は覚悟していたとはいえいざ闇のコアストーンの入手はならなかった。
ルカは自身のコアストーンが増えないことに若干の憂はあるものの、コアストーンの総量は大きく増えた。
特に風のコアストーンは七つになり、ロアの持っていた速さの力を丸ごと手に入れたことになる。
ルカはロアがしていたように風を迸らせる。
しかし、何か物足りないといったように首を傾げる。
「……コアは増えたのにいまいち力が馴染んでないわね……。無駄な抵抗を……!」
「そうか、ロアの意志が宿るコアか……。それって大丈夫なのか? 今ルカの中にロアの意志もあるってことなんだろ? コアも揃ってるし乗っ取られたりとかしないのか?」
「大丈夫よ。確かにロアの意志が悪あがきして風の力が馴染み切ってないけど、時間の問題よ。コア一つだけのロアとコアがたくさんの私、どっちが強いかなんて言うまでもないでしょう」
ルカが取り込んだロアの意志が宿る風のコアストーン。
それがルカの力として溶け込むのを拒否して抵抗しているらしいが、ルカの見立てでは時間の問題。
ましてやジルが心配しているようなことにはならないだろうと告げる。
「ま、じきに抵抗しなくなるわ。奴の意志が私の闇で塗りつぶされるまでゆっくりしてましょ」
「お、おう」
「さて……さっさと帰って休みたいけど、あんたはもう少し休憩したい? かなりきつそうよ」
「いや、帰ろう。木の背もたれは硬くて休まらない」
自然の椅子は疲れた身体に毒だと判断したジルは、満身創痍の身体に鞭を打って立ち上がる。
その時、数人の足音が近付くのを聞いた。
ロアとの戦闘で地形は切り開かれており、それが何者なのかはすぐに分かった。
「シュウ」
「……倒したのか?」
「ああ、倒した。と言ってもあれは死体が残るような存在じゃないから証明はできないが……」
「じゃあ、あんたが嘘ついてるかもしれないってこと? 本当は逃げられたんじゃないの?」
「は?」
戦闘音が響かなくなったことで決着が着いたと判断し、様子を見に来たシュウ達だったが、顔を合わせて数秒で一触即発の空気が漂い出す。
既にジルのことを認めつつあるシュウとしては喧嘩腰で接するつもりはないのだが、まだジルを格下とみているエレンはその高いプライドが前面に押し出てしまう。
そんな彼女の発言にルカが黙っている訳もなく、ジルの前に出て低い声を出し睨みつける。
「おい、やめろ。助けてもらったんだぞ? 俺達はお礼と謝罪をしに来たんだ!」
「私は助けてなんて頼んでないわ! こいつらが勝手にやった事でしょ! それに私達に回復魔法をかけたのミリアなのよ!」
「……でも私を回復してくれたのはジルさん達です。私が回復しなかったらシュウさんもエレンさんも……どうなっていたか分かりません」
「う……それはそうかもしれないけど……」
確かにシュウとエレンに回復術をかけたのはミリアだ。
だが、ミリアがそれを可能としたのは、ジル達がミリアに回復術をかけて起こしたからだ。
特にロアの攻撃の性質上、出血が酷かったため、意識を失っていた時間が長ければどうなっていたかは容易に想像がつく。
「で? あんたらは結局何しに来たわけ? 私の相棒も疲れてるからさっさと帰りたいんだけど……喧嘩を売るって言うなら買ってあげるわよ」
「……すまなかった」
「それは何に対しての謝罪なのかしら?」
「報酬のために討伐を横取りしようとして君達を危険に晒した。ジルの邪魔をして庇う君にも怪我を負わせた。本当にすまなかった」
シュウはエレンに口を出さないように言い、沸々と怒りを表すルカに頭を下げた。
初めは言葉足らずで何に対しての謝罪か述べていなかったシュウだが、ルカに問われ改めて謝罪する。
「ま、及第点ってところね」
「回復に関してもお礼を言わせてほしい。ミリアを助けてくれたことが俺達全員の生存にも繋がったはずだ。本当にありがとう」
「別にそっちはいいわ。私はあんたたちのことなんてどうでもよかったし、正直言って見捨てるつもりだった。だからお礼ならこいつに言うことね」
「……そうか。ありがとう」
ルカがお礼は受け取らない。どうしてもというのならジルにと親指をくいっと向けると、シュウはジルに向けて再度頭を下げた。
「ああ。そうだ……ロア――――あいつを倒したのはお前達ってことにしてくれないか?」
「何? そんなこと……」
「俺達は正式に依頼を受けてきた訳じゃないからお前たちが倒したことにして報告してくれ。俺みたいなランクの低いソロの冒険者の話なんてまともに取り合ってくれないだろうしな。俺達は騒ぎさえ収まってくれればいいんだ。そうだろ、ルカ?」
「ま、そうね。無様に負け散らかしたあんた達が手柄だけ受け取るっていうのは癪だけど……ギルドの方も問題が解決したことを知らずにいつまでも余計な人員と金をかけてる余裕はないはずだし、ちょうどいいからあんた達を利用してやるわ」
ロアの仕業で魔物が森の外に逃げ出し町の方に押し寄せ、さらには強い風による被害も出ていた。
それはロアが森に居たから。
だが、ジル達によって倒されロアはいなくなったのだが、それを知るのはジル達だけ。
悪魔の証明。
異常が収まったとしても森に潜む何かがいなくなったことの証明にはならない。
だからこそ、冒険者ランクが高く信用もある彼らが、町に平穏が訪れたという宣言をする必要がある。
そう考えたジルは、ロア討伐の手柄をシュウに押し付けようとした。
「でも……」
「何よ、堂々と手柄を横取りしようとしてきたくせに、いざ渡されて渋ってんじゃないわよ。いい、これは命令よ」
「……え、あ……」
「引き受けてくれるわよね?」
「……はい、分かりました」
報酬に目が眩み、短絡的な行動を起こした先程とは違い、冷静に物事を考えられる今、シュウは戸惑いを見せる。
ジル達に対する申し訳ない気持ち。自分たちが手も足も出なかった者を倒したと嘘をつくことに対する罪悪感。そして、その手柄を下に見ていた者から受け取るという恥。
それらの感情がせめぎ合って言い淀んでいたシュウだったが、ルカの有無も言わさぬ暗黒の笑みに屈し、その裏取引を受け入れてしまう。
「じゃあ、悪い。俺達は先に帰る。結界で魔物が町に向かわないようにしてたけどそれも確実って訳じゃないから、お前らも帰る時は気を付けろよ」
「ああ、引き留めて悪かった」
ここにきて仲良く一緒に帰るなんて展開にはならない。
ジルやシュウはともかくとして、エレンとルカの仲が致命的に悪く恐らく修復も不可能な状態にあるからだろう。
互いの消耗度合いを考えるのなら一時的に手を組むというのが定石なのだろうが、それを認めない者同士が睨み合っているため、こうなるのは必然だった。
「行くぞルカ」
「ええ。じゃ、二度と会わないことを祈ってるわ」
そう告げたジル達は帰路に着く。
シュウはそんなちっぽけだと思い見放した男の大きな背中を眺め、何かを考えこむようにしてしばし立ち尽くしていたのだった。
中々モチベ上がりません




