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決戦前の一時

 一歩、また一歩と足を踏み出すを繰り返すほどに、正面から威圧するかのように突風が不規則なリズムで吹き付ける。

 しかし、彼女――――風精霊ロアの位置は依然として変化はない。

 それはさながら、向かってくるのならば容赦はしないと告げているかのようだった。


 そんな風に整えた髪が崩されて不機嫌になるルカは、先程語られたジルの話の中で気になることがあったのを思い出す。


『ロアは闇のコアは持っていないと思う』


『……どうしてそう思う訳?』


『俺が光の結界で閉じ込めたときにロアは風で突破しようとしただろ? 光を破壊するなら闇だ……。もし闇のコアを持っているのならその力を使わない訳がない』


『そう……かしらね? 確かに一理あるけど……』


 ジルはロアの所持するコアストーンの中に、闇は含まれていないと推測した。

 光のコアストーンを三つ使用したジルに対抗する術として闇の力は有効だ。

 であるにもかかわらず、ロアは闇の力を振るう素振りは一切見せなかった。


(でも……だとしたら私のコアはどこにあるっていうの……?)


 ルカもジルの推測は当たっていると思っている。

 だからこそ浮上する一つの謎。

 闇のコアストーンは誰が持っているのか。


「――――カ。ルカ! 聞いてるのか?」


「えっ? ごめん、何?」


 そのことについて考えこんでしまったルカはジルに声をかけられているのに気付かず、大きめな声で呼ばれて驚いた。


「何かボーッとしてるみたいだけど大丈夫か?」


「……大丈夫。ちょっと考え事をしてただけよ」


「そうか、ならいいんだけど。無茶はするなよ」


「何を今更……っ。でもまあ、ありがと」


 どのみちこれから無茶をすることには変わりないのだが、心配されて悪い気はしないルカは僅かに頬を綻ばせる。

 しかし、当たりの様子が頬に荒々しいものへと変わってくる。


「木がなぎ倒されてるし地面も抉られてるわね……。大分手加減したみたいだけど……それでもこの破壊力か」


「……そういえばあいつらは……?」


 ジルの言うあいつらとは先にロアと戦うっていたシュウ達のことだ。

 戦闘の跡に沿って走っていくと、倒れ伏す三人の姿があった。


「はっ、ざまぁないわね」


「……ひどい怪我だけど、生きてはいるな。でも血が流れすぎている」


 周囲には彼らが流したものと思われる血痕がい当たる場所で見られる。

 大方ロアの風の刃によって斬り裂かれたのだろう。


「ふん、こんなちまっと削る感じじゃなくて、斬ろうと思えば切断もできるはずなのに……甚振るような技ばっかで悪趣味ね……って何してるの?」


「何って……一応応急処置だ」


「ちょっと! そいつらにそんなんしてやる義理なんてないでしょ! 身の程を弁えずに調子に乗った結果なんだから放っておけばいいのよ!」


「でも……」


 服もボロボロで切れ目から血がにじんでいる様子からロアがどんな攻撃を用いていたのかを分析するルカだったが、シュウの前にしゃがみ込み光の回復術を使おうとしているジルの姿に驚いた。

 はっきりと言ってしまえばルカは彼らのことが嫌いだ。


 町での一件のこともそうだが、先の戦いで妨害を受け被害被ったこと、そしてジルが傷付いたきっかけを作り出したことといい、好きになれる要素がない。

 そんな彼らなどどうなってもいいというスタンスなのだが、ジルはそうではない。

 どれだけ嫌われ、どれだけ疎まれ、どれだけ罵られようと、命の危機を黙って見捨てることはできない。


「あーもう! あんたはそういう奴だったわね! だったらそいつじゃなくてそっちの……ミリアとかいう奴にしときなさい」


「なんでだ?」


「いちいち全員に治療施してたらあんたの魔力が無くなるでしょ。回復術師のそいつを治して、あとの奴の面倒見させておけばいいのよ」


「なるほど……分かった」


 ルカは半ば諦めたといったようで、ジルに指示を飛ばす。

 ジルにもルカにも三人くらい治療する力はあるが、この後に銭湯が控えているのに無駄な消耗は避けたい。

 だから一人。治すのは回復術を使えるミリアだ。


 ジルはミリアに術をかけ癒していく。

 少しすると傷は塞がっていき外傷は消えたのだがまだ彼女の意識は戻らない。


「起きなさい!」


「うぅ……げほっ……ひっ?」


 そんなミリアに向かってルカは手の平から生成した水を容赦なくかけた。

 彼女は苦しそうに眉を寄せ、何が何だか分からないといったように目を覚ます。

 しかし、目の前に笑顔だが目が笑ってないルカの顔があり、小さな悲鳴と共に後ずさる。


「おはよう。お目覚めの気分はどうかしら?」


「……あなたは……っ、ジルさんの……どうして?」


「こいつがどうしてもって言うから仕方なくよ。でもあとの奴らは知らないわ。あんたの仲間なんだからあんたが何とかしなさい」


 そう告げられたミリアは辺りを見回して、シュウとエレンが倒れているのを発見し駆け寄った。

 自分だけが回復を受けたその意味を理解し、己のすべき事を即座に実行する。


「ジル! あとあんたも! そこから動くんじゃないわよ!」


 その瞬間、間の悪いことに狂暴の嵐が突き抜けた。

 いち早く気付いたルカは叫び、彼らを守りやすくするために下手に動かないように指示を飛ばす。

 防御範囲を可能な限り縮小した固定結界でそれぞれ全員を取り囲むのが何とか間に合い、被害は抑えることができた。


 しかし、一時的に凌げたからといって安心はできない。


(ちっ、こいつらが邪魔ね)


 ルカは内心で舌打ちをして、怯えた様子のミリアと気絶したままのシュウとエレンを見やる。

 ルカ自身最低限の手助けはした自覚がある。

 あとは知らんぷりして見捨てても彼女の良心は痛まない。


 だが、ルカが彼らを見捨てたところで、ジルが拾おうとしてしまう。

 ルカが切り捨てたものを抱えてきっとまた無茶をしてしまう。

 そんな確信を得たルカは呆れたように笑みを浮かべる。


「重力反転! そいつらを五分だけ軽くしたわ。私もこいつもあんたらが邪魔で全力が出せないの! だからそいつら連れてさっさと失せなさい!」


「で、でも……」


「いいから行きなさい! さっさと消えないなら逃がすんじゃなくてあんたごと始末するわよ!」


「ひっ」


 結界を解除してルカは気絶している二人に向けて手をかざす。

 すると彼らの身体がぼんやりと青紫に光り、ふわりと地面から浮いた。

 これは彼らをこの場から退けさせるための精霊術だ。

 ルカは浮力を得て軽くなった彼らを連れて逃げろとミリアを脅す。


「……ありがとうございます。必ず助けに戻ってきます」


「は? コロスゾ」


「ひっ」


「おいおい。ミリアはそいつらが起きても絶対にこっちに来ないようにちゃんと抑えといてくれ。頼むぞ……!」


「わ、分かりました。ではっ、失礼します」


 ミリアとしてはただ逃がされる、つまり守られる立場に甘んじるのはいただけないのだろう。

 お礼を言い、仲間の回復が済んだら戦力として戻ってくる旨を告げるも、ルカのこれでもかというほど嫌悪の表情と殺意の籠った声で威圧され青ざめる。

 そんなルカの様子に苦笑いを浮かべつつ、ジルも釘を刺すように言う。


 ミリアはこれ以上何も言わず、二人の指示に従い、気絶したシュウとエレンの腕を掴んでこの場から離れていった。

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