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作戦会議

 シュウ達がロアを追って行ったのを見送ったジルとルカは、それぞれそびえたつ木を背に座り込んでいた。

 互いに光属性の力で身体を癒し、休息を取る。


「ねえ、本当によかったの?」


「ん? 何がだ?」


「あんたもあいつらのこと好きじゃないんでしょう? それなのに敵に塩を送るような真似してもよかったわけ?」


 人為的ではない自然で心地よい風に髪をなびかせて、ルカはジルに尋ねた。

 かつての仲間だったとはいえもう彼らをよく思ってないのはルカの目から見ても確か。

 それなのに彼らにとって利のある提案をし、押し通したことにルカは疑問を抱く。


「いいんだ。あいつらはギルドから正式に依頼を受けて解決にやってきた冒険者。それに対して俺達は野良の冒険者。どっちが優先されるかは明らかだ」


「でも、あいつらは先に戦ってた私達の邪魔をした! 奴らの報酬とか名誉とかのためにあんたは危険な目に遭った! それはいいって訳?」


「それはよくないけど……目撃者もいないこの森であいつらが俺達の邪魔をしたかどうかなんて証明のしようがない」


 冒険者ギルドの定めたルールや人として守らないといけない共通認識として彼らのしたことは許されざるものだが、それを証明する手段はない。

 だからと言って泣き寝入りするのでは、実害を受けたルカの気が収まらないのだが、ジルも彼らの行いをすべて水に流したわけではない。


「さっきも言ったけど共闘ができない以上あいつらは叩きの邪魔になる。一緒には連れていけない。かといって俺達が先にロアの元に向かえばいずれ邪魔しに来る。ロアとの戦いの中で余計なことを考える余裕はないからそれだけは何としても避けたい」


「……ま、そうね。あんなのに意識を割いてたらとてもじゃないけどクソガキとは戦えない」


「そうなったら先に行かせるしかないだろ? あいつらに先に行かせて…………潔く散ってもらおう」


「へぇ」


 ジルの述べる理由は尤もなものでルカも納得せざるを得ない。

 ルカと同格の風精霊、さらには風のコアストーンをルカから一つ取り返したことで力は増している。

 そんな強敵を前にして、いつどこからやってくるか分からない横槍に気を配りながら戦闘を行うのは無理があるというものだ。


 そして、ジルの口にした納得の理由と共に、零れた一言にルカは興味深そうにした。


「元仲間のあんたから見て、あいつらに勝算はないって訳?」


「ああ、かなり厳しいと思うぞ。シュウはスピードタイプの剣士だが、ロアの速さには勝てない。エレンは魔法使いだが……まあ、ロアに攻撃を掠らせることもできないだろうな」


「私に忠告してきたくせにさっきはずっと黙りこくってたあの女は?」


「ミリアか。彼女は回復術師だからなぁ……。ある程度攻撃魔法も使えるが今回に限ってはそんなに役に立たないぞ」


「ふーん。中々バランスよさげだけど、聞く感じ確かに難しそうね」


 彼ら三人は確かに前衛後衛の役割が偏りすぎていないベーシックでバランスの取れた編成となっている。

 しかし、これは複数の敵と連続かつ継続的に戦うことを想定した時に真価を発揮するスタイルであり、今回相手どる風精霊ロアに対しては不利と言わざるを得ない。


 剣士のシュウが前を張り、エレンが中距離、ミリアが後方から支援する形になるのだが、そもそもの攻撃がロアに届くかどうかがまず怪しい。

 さらにはロアの攻撃は一撃が強力で速さもあり畳みかけるように襲い掛かってくる。

 回復術師のミリアが悠長に回復魔法を施している暇は恐らくない。


「あんた、そんな奴らをクソガキにけしかけるなんて結構鬼ね」


「……別にいいだろ。俺だって怒ってるんだ。ルカの腕……斬られたこと」


「そ、心配してくれてありがと」


 ルカは身を挺してジルを守った。

 彼女の咄嗟の行動でジルが救われたのは事実だが、その際に見ることになったショッキングな光景はまだ彼の頭にこびりついている。


 現在ルカの腕は元通りになっている。

 人間とは身体を構成するものが違うため、十分な魔力を周囲から吸収したことで、ルカは再度肉体を構築した。

 彼女からすれば自分ならば後からどうとでもできるという打算的な考えもあったのかもしれない。

 しかし、それはジルが大切な相方に、たとえ一時的なものだとしても、損害を被ることをよしとするのに直結しない。


 これまで大きなリアクションは見せなかったが、ジルだってルカが傷付けられたことに怒りは覚えていたのだ。

 シュウ達に対する提案はその仕返しという訳ではないが、その内容と彼らのパーティ事情、そこから察せられる結末にルカはくつくつと喉を鳴らす。


「ま、どうせ片手間に遊ばれるだけだと思うし、あんまり期待しないでおきましょう。それより、自分たちの心配をしないといけないわね」


「ああ。そもそもロアはなんで逃げないんだ? ルカから風のコアを取り返したんだったら普通とんずらこかないか?」


「どうせこの森を住処にしたとかくだらない理由でしょ。それか、コア揃えて力が増してるから私達なんて何度相手にしても返り討ちにできるっていう自信の表れかしらね」


「……なんにせよ、待ってくれるなら好都合……お、始まったか」


 会話の途中で不意に風の向きと強さに変化が見られた。

 それを肌で感じた後、遠くで木々が揺れる音や地面が抉れる音が聞こえてくる。

 シュウ達とロアが戦闘を始めたのだろう。


 しかし、吹き付ける風は強風ではあるが、暴風とは言い難い。

 彼らが手加減されているのはどう見ても明らかだった。


「俺達はどうする? コア、取り返すんだろ? 風のコアを取られて戦術の幅が狭まったのはやっぱり痛いか?」


「そうね……。でも、ないものねだりしても仕方ないからあるもので何とかしないといけないわ」


「今ルカが持ってるコア、どんな感じだったっけ?」


「火が三つ、水が四つ、光が三つ、闇が五つね。あんたも使うんだから持ってるコアくらいちゃんと覚えておきなさい」


「……善処します。だが、三つ同種の組み合わせはやれるのか」


 ルカが取り込んでいるコアストーンはルカの力ではあるが、ジルも利用する力。

 自分が使う力なのだから手札の内容くらい記憶しておきなさいとやんわりとたしなめられる。

 それを軽く流しつつ、いくつかの組み合わせを想定することができて安堵の息を吐く。


「でも……生半可な組み合わせだとあの子には勝てない……か」


「私のコアは多くは貸し出せないわよ」


「分かってる。闇以外で……四つ、やってみるか……」


「……やれるのね?」


「何だ、止めないのか?」


「あら、止めてほしかったの? 残念だけど止めないわよ」


 ジルは自身の無茶を許容した作戦を立てる。

 それに対して反対の意見を上げると思っていたルカだったが、ジルを止めることはせずにむしろその案に乗っかろうとしている。

 ルカ自身勝ち筋を見出すのならそうするしかないと考えているためだ。


「リスクはあるけれど、リターンを取るならそうせざるを得ない……かもしれない。といってもやるのはあんただから決めるのは私じゃない。さ、どうするの?」


「……考えがある。聞いてくれるか?」


「ええ、言ってみなさい……っ?」


「もう終わったのか? 思ったより早かったな。じゃあ、俺達も行こう。もう十分休んだだろ?」


「ええ、これ以上休んでると身体がなまっちゃうわ。あんたの考えとやらは簡潔に纏めて歩きながら話しなさい」


 遠くで聞こえていた戦闘音が鳴り止んで、吹く風も穏やかになった。

 向こうで行われていた戦いが終わったことを察した二人は何を言うでもなくスッと立ち上がり顔を見合わせる。

 依然苦しい戦いを強いられることは変わらないが、互いの表情は落ち着いている。


 一度目は苦渋を飲まされた風精霊へのリベンジマッチ。

 それに向かいながらジルは作戦を語るのだった。

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