妨害
シュウのパーティ一行は、立ち上る竜巻、森から飛び出してくる魔物等の原因を調査する依頼を受け、風の発生地と推測される森へとやってきていた。
冒険者ギルドでこの依頼を受けることができるだけのパーティランクは飾りではなく、実力も確かにある。
森の中では錯乱状態の魔物と度々相対することになるが、三人のチームワークで問題なく討伐を重ねてきている。
「ふぅ……これで何度目だ?」
「もう数えてないわ。でも、さすがに多いわね。魔物も正気って感じじゃなかったし」
「やはり何か変な魔物が住み着いているのでしょうか?」
異常と言わざるを得ない様子を目の当たりにして、原因となるものを推測する。
環境を荒らすという意味ではやはり、よそからやってきた魔物が住み着いたという考えに至るのか、ミリアはそのようにぼやく。
「風を操る魔物か……。何か心当たりはあるか?」
「さあ~? 何がいたとしても私達なら何とかなるでしょ」
「……まぁ、あくまでも受けた依頼は調査なので、正体を突き止めることを目標にして頑張りましょう」
これまでエンカウントした魔物は律儀に倒してきたが、依頼を達成するだけなら、原因となるものを突き止めるだけでもいい。
魔物との戦闘を避け調査に本腰を入れることを視野に入れ始めたところで、突風が巻き起こる。
「エレン!」
「分かってる。風除けの魔法をかけたわ」
「……それでもこの風の勢い……本当に何がいるんでしょう?」
身体が浮き吹き飛ばされそうになる突風に見舞われる。
魔法使いのミリアがすかさず風除けの魔法で周囲の風による影響を軽減するが、それでも勢いの止まらない風にあおられる。
明らかに自然のものではない強風に、この森に何が潜んでいるのかとミリアは不審がる。
そんな時、森の入り口側の方で眩い光が炸裂した。
「なんだ……?」
「あれは光属性の結界ね。あんなに大きくて広域に……すごいわね。私の魔法でようやく半減くらいなのに、あれはほぼカットできてるわ」
「私たち以外にも誰か調査に来ているようですね」
「俺達も早いところ調査を進めよう。」
自分達パーティ以外の存在を確認したことで焦りが生まれる。
依頼は本来ならブッキングしないように割り当てられるものだが、今回は緊急の依頼。
より早急な解決が求められるため、依頼は複数の冒険者達が受けていてもおかしくはない。
そんな中手柄を確実に自分たちのものにするには他のパーティよりも早く依頼を達成する必要がある。
シュウ達が迅速な調査を改めて意識したところで、再度暴風に見舞われる。
「さっきから激しいな」
「でも、方向は分かったわ」
短いスパンで暴風に見舞われて苛立ちを募らせるシュウだったが、おかげでその風の出処はおおよそ掴むことができた。
その方向に、風を発生させる何かがいると仮定すれば、向かうべき場所は自ずと決まる。
「こちらの風も厄介だが、魔物の方も気を抜けない。風で飛ばされないように身を守りながら、索敵も緩めないようにして気をつけて進もう」
「ええ」
「はい」
こうして暴風の発生地へと足を運ぶことになり、周囲の警戒を保ったまま進む。
激しくなる戦闘の音が道しるべとなり迷うことなく目的へとたどり着いたシュウ達は、そこで見た光景に息を呑む。
そこには、この緊急事態の元凶と思わしき少女の姿をした何かと、かつての仲間だったジルとその仲間の少女が激闘を繰り広げていた。
「なんだこれ……? あいつ、あんなにすごかったのか?」
「……信じられない」
「あっちの女性もかなりやり手ですね」
この森に来る直前に再開したかつての仲間。
無能だと馬鹿にし嘲ったジルが、ハイレベルな戦いを繰り広げている。
これまで相対してきた魔物の群れなどとはレベルが違う。
この少女を相手取ってここまで戦えるかと言われたら、素直には頷くことのできない実力差。
もはや認めざるを得ない。
シュウはしばし見入っていた。
「あれ……どうしますか? もうすぐ倒されそうですが」
「それはダメよ! 私達の報酬があいつに持っていかれるなんて……っ」
「それだけは見逃せないな」
少し離れたところで状況が流れていくのを見ていると、ジルが王手をかけた。
その勝利が意味するのは、自分たちの依頼の失敗。
それだけならばよかったのかもしれない。
依頼を失敗したところで失うものは特にない。
だが、それが見下していた者の手によってなされるという事実。
シュウとエレンの高いプライドがそれだけは許せなかった。
「とどめは俺達で刺すぞ。そうすれば手柄は俺達のものだ」
「そうね」
画策するのは手柄の横取り。
何せ対象はジルの手によっていいところまで追いつめられている。
最終的な一撃さえかっぱらってしまえば、依頼達成も、それによって発生する報酬も、すべて自分たちのものになると欲に目が眩む。
彼らも冒険者として活動して短くない。
であれば、そういった横取り行為がマナー的によくない事であることも当然分かっている。
しかし、尊大なプライドと巨大な欲は、そんな正論をねじ伏せ自らの行いを正当化させる。
「俺が突っ込んでかっさらう。二人は援護を頼む」
「オッケー!」
「えっ、あ……はい」
シュウは剣を抜き、走り出した。
二人の援護を受け、自分が決めるといういつもと変わらないスタイル。
無能と見下してパーティを追い出したジルよりも先に刃を届かせて、討伐という輝かしい未来をその手に掴み取る。
そんな自尊心を胸にシュウはジル達へと肉薄し、彼らの距離はみるみる近づいていく。
(これなら……もらった!)
ジルとジルと共に戦う女性の挙動と自身の攻撃が届くまでの時間を逆算し、自分と援護する仲間たちが一番に攻撃を叩き込めると確信を得たシュウはほくそ笑む。
これまで何度も紡いできたお決まりの勝利への道筋が脳裏をよぎる。
だが、彼の頭の中で思い描かれていた未来にひびが入る。
「……は?」
剣を振り上げて力強い踏み込みをしたシュウの目に移りこんだのは、背後から飛来した仲間の放った魔法に被弾するジルの姿だった。




