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風精霊との相対

 ジルを中心に光が溢れる。

 どこか安らぎや温かさのようなものを感じる聖なる光を浴びて、ルカは目を細める。


「ふぅん。やればできるじゃない。どう、気分は?」


「コアを三つ使うのは初めてだからもっとがっつり体力とか魔力とかを持っていかれるもんかと思ってたが意外とそうでもないな」


「やっぱり同種の組み合わせだとそうなるのね。当てが外れなくて助かったわ」


 ジルはこの組み合わせの行使による消耗がどれほどのものかと身構えていたが、思ったほどでもないそれに拍子抜けした。

 掛け算的に跳ね上がるかと思われた消耗だったが、すぐに行動不能に陥ってしまうような激しい消耗は今のところ見られない。


 それはジルがコアストーンの力に慣れてきたのも一つの理由として当てはまるが、ルカが指摘したように使うコアストーンが同種であるというも関係している。

 だが、それは一旦置いておいて初めての力を制御して行使する。

 消耗が抑えられているとはいえ垂れ流しにするのはもったいない力なため、ジルは光の結界精霊術を組み上げる。


「あの風と魔物をせき止めるための守護結界を……構築っ!」


「……コア三つでこれなら……うまく集められれば強力な武器になるわね」


 ジルの構築した光の結界は森を覆うように広域に展開された。

 それは迫る風の勢いを削ぎ落し、自然の風と言ってもいいほどには弱まった。

 魔物も結界に阻まれてとどまっていることを確認したジルは、光のコアストーンを腕輪から二つ抜き取る。


「これでとりあえずは安心だな。本当だったら全部倒してから進みたいところだが……」


「ええ、そうも言ってられないわね。奴に近付かないと一方的に遠距離攻撃されるだけで削られるわ。ガードを固めながら一気に突破するわよ」


 ルカは光のコアストーンを返却されると、その代わりに風のコアストーンを投げ渡す。

 ジルは意図を読み取ってそれをはめるとルカの手を取る。


「ああ、行こう」


「……あんたも割と察せるようになったわね。優しくしなさいよね」


「分かってる。案内は頼むぞ」


「この私をナビに使うなんて、偉くなったわね」


 何を言うわけでもなく要求していることを察せるようになったジルに感心しながらルカは身を預ける。

 ルカの同族感知の力を頼りに一気にロアの元へとたどり着く寸法だ。


「しっかり掴まってろよ」


「はいはい、さっさと行きなさい」


 向こうにもこちらの存在を感知された以上、同じ場所に留まっていては狙い撃ちにしてくださいと言っているようなもの。

 それを避けるために速度とガードに重きをおいた組み合わせのコアストーンで距離を詰める。

 ルカに急かされたジルは、風を纏い目にもとまらぬ速さで駆けだした。










「おかしいわね」


「何が?」


「奴は風精霊よ。もっとちょこまかと逃げ回るもんかと思ってたけど全然動かないわ」


「迎え撃つつもりってことか」


「上等。逃げないなら都合がいいわ」


 ルカは感知が捉える反応の位置が変わらないことに眉を寄せる。

 はっきりと姿を確認した訳ではないのでまだ確定はできないが、扱う力の質から見てジル達が接敵しようとしているのは風精霊のロアであると推定できる。

 ジルもルカもその前提で動いているが、まだ見えぬ相手の動きが読めない。


 速さが特徴の力を持っていて、それを使わずにどっしりと構えているのはよほど自信があるのか。

 ルカはまるで挑発されているかのようにも思えたが、逃げずに待っていてくれるのなら追う手間が省けると口角を上げる。


「この距離……多分あんたの攻撃が届く間合いに入ったわね。向こうの攻撃は私が捌くからあんたの反撃しなさい」


「分かった。任せるぞ」


 ジルのセットしているコアストーンは光と風。

 その力の組み合わせが可能とする攻撃範囲内に敵が入った。

 これまでは回避と防御に回らなければいけなかったが、ようやく反撃に移れる。


「クソガキの癖に生意気なのよ」


 ルカはジルの腕からするりと抜け出すと、自身の持つ闇の力と取り込んである光の力で飛んでくる風撃を迎撃して撃ち落としていく。

 そんな小さくも頼りになる背中を見て、ジルも負けていられないと感じ、空いた手に光と風を纏った杖を顕現させ魔力を練り上げる。


「行け! シャイニングバード!」


 杖の先から光輝く緑色の鳥の形をした魔力弾が溢れだす。

 群れを成し不規則な軌道で羽ばたいていくそれを満足そうに見送ってジルは頷いた。


 しかし、それらを巻き上げる大きな竜巻が起こる。

 下からかち上げられるように舞い上がり、次々に相殺されるのを見上げる。

 こうも簡単に一掃されてしまうとは思っていなかったジルは、風精霊の力の認識を改めた。


「すごいな。これまでの二人とは全然違う……」


「リンやレイとは攻撃力の質が違うわ。向こうはコアもそれなりに揃ってるでしょうし油断するんじゃないわよ」


「……軽くいなしておいてよく言うよ」


 これまで相対してきた精霊達とは違うタイプ。

 同じような認識で挑めば痛い目を見るとルカは忠告する。

 そんなロアの攻撃を軽く防いでいるルカのハイスペックな様子にジルはどの口が言うと苦笑いを浮かべる。


「さて……ようやくお出ましね……っ? 風のコアを返しなさいっ!」


「っ? ああ!」


 ルカの突然の叫びにジルは条件反射で腕輪から風のコアストーンを抜き去る。

 しかし、ルカから下されたオーダーは『抜く』ではなく『返せ』だ。

 短い言葉の応酬の中、ルカがわざわざその言葉を選んだのならば、それに何か意味があるはずとジルは咄嗟に抜き取った風のコアストーンを彼女に向かって放る。


 その最中、ジルが視界に収めたのは同じくコアストーンを放るルカの姿。

 空を横切る二つの輝きと何かを訴えかけるようなルカの表情に目を見開く。

 しかし、戸惑っている猶予はないと直感が告げる。

 その意図を完璧にくみ取るための信頼は、もうとっくに紡がれているのだから、ジルは己を信じて動いた。


(この軌道……はめる手間すら惜しいってことか)


 普段ならば投げ渡されたコアストーンをキャッチし腕輪にはめるという工程を経て力を発動させる。

 だがジルは、思わず手が出そうになってしまうのを堪えて、本来の初動を見送った。

 その結果、完璧な軌道を描いた二つのコアストーンは、すべてジルの腕輪へとはまり、元々装填されていた黄色の輝きも合わせて三つ並んだ。


 そうなることを見越して先んじて魔力を練り上げていたジルは、すかさず精霊術を行使した。

 その瞬間、荒れ狂う暴風の渦と構築された光の結界が激しい音を立ててぶつかった。


「へー。今の、防ぐんだ。人間の癖に……結構やるじゃん」


 激しくぶつかり合い、光の壁にもひびが入る。

 だが、なんとかその不意の一撃は防ぐことができた。

 完全に風がやんだ後ストっと背後に何かが降り立つ音が聞こえ、第三者の声が耳に入る。


 ジルがおそるおそる振り返るとそこには、けたけたと笑う緑色の髪をした小柄な少女が、怪しくスカートの端を揺らしながら立っていた。


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