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風精霊と3つ目の解禁

 ジル達は何度目になるか分からないため息をつく。

 森に至るまでの道中で、森に生息しているはずの魔物と遭遇した。

 それらをすべて倒しているため、いちいち足を止められて中々目的地へたどり着けない。


「思ったよりも多いわね。確かにこれが町まで押し寄せるなら大問題ね」


「だな。でも道中新しい戦闘痕が見られるから、俺達よりも先に来たあいつらがちょっとは間引いてくれてると思えば少し気は楽だな」


「どうかしらね? あいつらあんまり強そうには見えなかったし、案外役に立ってないかもしれいないわよ?」


 ジルが来た時には既に真新しい戦闘が行われたであろう痕跡がちらほら見受けられた。

 それは先に来た者が行った戦闘の痕で、その分魔物の数も減っているはずだとジルは推測した。

 しかし、ルカにとっては実力も未知数のかつてのジルの仲間。

 よくない先入観を持って毛嫌いしている彼らに対し、顔を顰めて手厳しい評価を言い捨てる。


「魔物の数が多くて中々大変だったが、なんとか消耗は押さえてここまでこれたな。それで……どうだ?」


「……そうね。()()()()の気配を感じるわ」


「やっぱりか……」


「あんたはいつからこの可能性に気付いてたわけ?」


「ギルドの受付嬢を話を聞いてるときだよ。異常事態は何かしらの外的要因が存在する。ギルドの方では風を操ることができる強力な魔物が住み着いたとか推測してるんだろうが……この様子だともっと質の悪いやつが住み着いたみたいだな……」


「そうね」


「あとは……そうだな。この不自然な風の感じが、ルカから引き出す風の力や、風のコア使用時に纏う力と少しだけ似てると思ったからだな」


「へえ……力の質を見分けられるなんてなかなかやるじゃない」


「どーも。そういうルカは何か感じなかったのか?」


「私だって分かってるわよ。だから黙って着いて来てるんでしょ?」


 ジルはこの風の異常事態は、()()()の仕業なのではないかと考えていた。

 その可能性に辿り着いたのはほとんど勘のようなものだが、彼も伊達にコアストーンを扱ってきたわけではない。

 精霊術師として、風のコアストーンを取り込むルカから借りて扱う風の力。そして、風のコアストーンを腕輪にはめ込んで、コアストーンから供給される風の力。

 これらを知っているジルは似ても似つかない風の質に僅かながら共通する何かを感じたのだ。


 もちろんそれはルカも分かっている。

 そうでなければこの非常事態に積極的な外出などしていない。

 ジルについていく事が、自身の目的達成の近道になると思っているからこそ、何の文句も言わず同行しているのだ。


 だが、少しばかり足止めを食らいながらも着々と森へと近づいていった結果、ルカの同族センサーが精霊の存在を感知した。

 これが仮説の検証は行ってみれば分かるとジルが断言した理由でもある。


「でも、あんた……忘れてる訳じゃないでしょうね?」


「何が?」


「私がクソガキの存在を感知したってことは、向こうもこっちの存在を感知しているのよ」


「あ、そっか」


「ということは……ほら、来たわよ」


 ルカは視線を上げて、森のそびえたつ木々のさらに上を見つめる。

 本来ならば青い空と白い雲、楽しそうに飛ぶ小鳥たちが見受けられるはずの空間は、大きな竜巻に覆いつくされる。

 吹き荒れる暴風に木々が大きく揺れ、森がざわめく。

 そんな森が泣いているかのような騒々しい空気に乗って、魔物たちの怒号も近づいてくる。


「ちっ、この感じだと、奴の力はそれ程衰えてなさそうね。これまでのような比較的楽な戦いができると思っていたら確実に足元掬われるわ。油断せずいきましょう」


「ああ。この暴風だけでも面倒なのに、魔物まで湧いてくるんだ」


 一歩進むのもやっとな暴風がジル達を襲う。

 舞う砂や葉から顔を腕で覆っていると、次々と魔物が森から飛び出してくるのが見えた。


「ルカ。魔物はともかくとしてこの風……ちょっとは弱められないかな?」


「はぁ? まあ、できなくはないと思うけど」


「この感じだとかなりの数の魔物が町に押し寄せることになりそうだし、魔物の数も風の勢いもちょっとは間引いておきたいんだ」


「あんた、お人好しね。向こうは依頼としてやってるんだから任せればいいじゃない」


「ルカだって帰る場所がボロボロになってたら嫌だろ? 大好きなパン屋の屋台だって、こんなんだと営業してくれないぞ」


「……それは深刻な事態ね。分かったわ。これで何とかしなさい」


 この事態を放置したまま進むことによって発生するメリットとデメリット。

 それらを天秤にかけ、僅かな葛藤の元、ルカは対処する方向で答えを出した。

 そして、例によってジルはコアストーンを手渡される。

 今回与えられた手札を確認するべく手を開いたジルは、予想していない組み合わせに目を丸くした。


「光のコア三つ……? おい、これなんか間違ってないか?」


「間違ってなんかないわよ。光が広域の防御結界に一番向いてるし、あれに対抗するならそれくらい気合を入れた方がいいわ」


「三つ使えってことか。でも……三つはやったことないぞ?」


「うじうじうるさいわね。あんたならできると思ったから渡したの。いいからさっさとやりなさい」


 ジルにとってこの組み合わせは三つの領域。

 同じコアストーンを複数使用するのもそうだが、何より重要なのは使用する数。

 これまでジルは同時使用は二つまでしかやっていない。

 二つの使用には慣れてきたが、それでも消耗は少なくない。


 そんな中いきなり三つでの使用を強いられて不安が募るが、彼女の言葉がそれを吹き飛ばす。

 一見投げやりな言葉にも思えるが、これは一種の信頼。そして脅迫。

「お前ならやれるだろ?」という期待。

 相方にそんな言葉を貰ったのだから、ジルも迷わず賭けられる。


「よし、じゃあやってみるか」


 一つ、光のオーラが宿り、淡く煌めく杖を手にする。。

 二つ、膨れ上がる光のエネルギーが空気を揺らす。

 そして、三つ。これまで感じたことのない膨大な力の奔流が、光の束となって炸裂した。


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