最悪の顔合わせ
かつての仲間との再会にギスギスした雰囲気が漂う。
意図せぬ再開と向こうからの接触に驚きながらも、ジルは顔を引きつらせて返事をする。
「お、おう。久しぶりだな。最近見なかったがどうしてたんだ?」
「活動拠点を変えて活動してたんだが、先日こっちに戻ってきたところだ。それで、今からこの騒ぎの調査に向かうところだ」
冒険者が活動場所を変えるのはよくあることだ。
パーティを抜けて以来ジルが彼らを見かけなかったのは、彼らがこの町からいなくなっていたから。
だが、何の因果かこうして戻ってきた。
それでいて、ジルでは受けられなかった依頼を受注できているあたり、パーティランクは維持できているようだ。
「へ、へえ、調査か。それは奇遇だな」
「奇遇? 何それ。まるであんたも調査をしに行くみたいな言い方ね」
「みたいも何も、そう言ってるつもりだが」
「はぁ? あんたみたいな無能が危険な調査依頼を受けられるわけないでしょ? 馬鹿は休み休み言いなさいよ」
偶然にも目的地は同じ。
だが、依頼を受けるシュウ達と、自主的に動くジルでは立場が違う。
ジルが依頼で動こうとしている訳ではない事を知らないエレンは、ありえないと言ったように食ってかかった。
「俺がどう動こうとお前たちには関係ないだろ?」
「そうだな。俺達の邪魔にならなければどうでもいい」
売り言葉に買い言葉で更なる言い合いに発展しそうな所を、シュウがエレンを宥める。
「……ふん。のこのこ危ないところにやってきても、前みたいに助けてあげないから」
「そうか」
以前はパーティだったから仕方なく助けてやっていたとでも言いたげな顔に、ジルはぶっきらぼうに返す。
「そういえばそちらの方はジルさんの新しい仲間ですか?」
「まぁ、そうなるな」
「そうですか」
これまで口を開かなかったミリアは、ジルの隣で黙って見ているルカについて触れる。
そして、つかつかとルカに近付いて正面に立つと、大胆にも言い放つ。
「悪いことは言いません。この人と組むのはやめておいた方がいいですよ」
「は?」
「私達はこの人にとても迷惑をかけられました。あなたにはそのような思いはしてほしくありません」
「……あっそ。余計なお世話よ」
「忠告はしました。では私達は依頼をこなさなければいけないので失礼します」
言いたいことを言うだけ言い、ミリアはもう用はないと言わんばかりに歩き出した。
それに続いてエレンはわざとらしくジル達に聞こえるように大きな舌打ちをして、侮辱の意を示しながらミリアを追いかける。
リーダーのシュウは、ジルに特に何かを言うでもなく、黙って去っていった。
「何よあいつら。ムカつくー!」
「何でルカがそんなに怒ってるんだよ。ちょっと落ち着け」
「なんであんたはそんなに落ち着いてるのよ! あんなのに好き勝手言われて悔しくないの?」
「あいつらが知ってる俺はあんなもんだ。実際に迷惑もかけてきたしな」
悔しいか悔しくないかで言えば、もちろん悔しい。
だが、ジルが言葉で対抗しようと、彼らの記憶に刻まれたジルという男の像は変わらない。
「あんなのは言わせておけばいいんだ」
「で、でも……」
「大丈夫。俺はもう無能なんかじゃない。それは俺自身が分かってるし、ルカが証明してくれるだろ?」
シュウ達は今のジルを知らない。
ルカという精霊と契約を結び、どのような進化を遂げたのか知らない。
たとえ冒険者ランクが伴っていなくても、自信を持ってそう言える。
だから、何を言われても気にする必要は無い。
ジルはそう考えている。
「そうよ……そうだわ! あいつらがあんたを捨てたバカだったから今の私達がある。そう考えたらちょっとは感謝してやっても……いえ、それはやっぱり無理ね。なんかムカつく」
全ての出来事は繋がっている。
ジルがルカという精霊と運命的な出会いを果たすことになったのは、彼にとって悲哀な思い出であるパーティ追放があったからだ。
ジルが一人になったから。金策に走らなければいけなくなったから。
ルカとの出会いの機は訪れたのだ。
そう考えたら散々好き勝手に言ってどこかへ行ったジルの元仲間たちへも感謝の念が生まれるかもと思った闇精霊だったが、苛立ちが勝ったのか苦い顔を浮かべて首を横に振る。
「とはいえ、あいつらも森に向かったってことよね……鉢合わせたら面倒ね」
「まあ、その時はその時だろ」
短い接触の中で判明したシュウ達の目的。
奇しくも同じ目的地に足を踏み入れなければいけない嫌な偶然だが、四の五の言ってられない。
彼らに依頼達成という目的があるように、ジル達にも探りたい事情がある。
「俺達も調べに行こう。仮説が正しいかどうかは――――行けば分かるだろ」
「そうね」
この非常事態を何とかしないことにはいつもの日常は帰ってこない。
そんな当たり前を取り戻すために、二人は吹きすさぶ向かい風に足を踏み出した。




