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闇精霊の看病

「げほっ、げほっ。ぁぁ……死ぬぅ……」


「……人間は軟弱ね。情けない」


 ベッドに横たわり激しく咳き込むジル。

 どうやらこいつが言うには風邪という症状らしい。

 なんでも頭が痛く、咳が止まらない。

 身体もだるく、熱もあるらしい。

 ジルの身体はとても熱を帯びていて熱かった。


 この前の戦い……レイとリンに襲撃された時にジルはレイと対峙した。

 正確に言えば私の指示に従って、レイとリンを分断するのに力を貸してくれた。


 レイの攻撃は直撃はしないように立ち回ったのだろうが、水のしぶきなどは浴びていたのだろう。

 最後に倒れたのを抱き留めたとき、こいつの服は結構濡れていた。

 日も暮れ始めていて肌寒くなっていたのも原因の一つ。

 そして……火のコアで急激な体温の上昇が起きたのも原因の一つだと私は踏んでいる……が結局のところ原因なんてどうでもよくて、こいつがこうなってしまったという結果が問題。


「うぅ…喉が痛い……。水……くれ……」


「何? 私を扱き使うつもり?」


「……すまん……頼む……」


「ああもう! 仕方ないわね! 持ってくるから大人しく待ってなさい!」


 まったく……本当につらそうね。

 しばらくは別行動は取らないって約束だし、こいつがこんなんだと無理に連れ回すわけにはいかない。

 私は水をコップに注いで持っていく。

 寝たまま飲もうとしてはこぼしてしまうので、身体を起こすジルを支えてあげなければならない。


「……悪い……助かった……」


「別にいいわよ、このくらい。仕方ないからあんたがよくなるまではあんたのために働いてやるわ。してほしいことがあったら言いなさい」


「……ありがとう」


 かすれた声でお礼を言われる。

 それ自体はいいのだけど、私自身どうすればいいのかよく分からない。

 こういう時何をしてあげたらいいのか、分からない。


 とりあえずは……傍にいて経過観察ね。

 あんたがそんなんだと、つまらないからさっさとよくなりなさいよね……このバカ。











 あれからしばらく眠っていたジルが激しい咳き込みと共に目を覚ました。

 水を渡して背中をさすってあげると楽になったようだ。

 でも、肌に触れた感じまだ熱いわね。

 熱は下がってなさそう。


「何かしてほしいことはあるかしら?」


「薬を飲みたい……」


「薬? どこにあるの?」


「俺の……鞄に入ってる」


 そう、なら私が漁って探すより、鞄を渡した方が早そうね。

 鞄は……あった。

 でも、薬って服用する前に何か胃に入れないといけないんだったかしら?


「食欲があるなら何か食べる? 簡単なものでよければ作ってあげるわよ」


「……いいのか?」


「ということは食べれそうなのね。分かったわ。ちょっと待ってなさい」


 簡単なもの……消化にいいおかゆでいいかしら。

 料理なんてまともにしたことないけどそのくらいなら本を見ながらやればできるでしょう。

 できる……わよね?







 ま、こんなもんね。

 若干焦げてるような気がしなくもないけど、このくらいならいいでしょ。

 味見もした感じそこまで悪くないはず。


「待たせたわね」


「……いや、そんなことないよ」


「そ、そう? ならよかったけど……自分で食べられそう? それとも食べさせてあげましょうか?」


「……ああ、頼む」


 はっ!?

 冗談で言ってみたのに……本当に?

 でも今更引っ込めるなんてできないし、恥ずかしいけどやるしかないわね……!


「ほ、ほら……口を開けなさい」


「あ、あー……アチッ」


「あっ、ごめん……」


 アツアツのおかゆを冷ましもせずに口にぶち込んだら当然そうなるわよね。

 ぬかったわ。

 ちゃんとこうして……ふーふーしてあげてから……これでいいでしょ?


「……うまい」


「っ! 当然でしょ! この私が作ったんだからね。もっと食べるわよね」


 こんな事を言っていても内心はびくびくだった。

 美味しくなかったらどうしよう、食べてもらえなかったらどうしようって不安だったけど。杞憂みたいで本当によかった。


 口の前に差し出したおかゆはみるみる内に消えていく。

 自分で作ったものを美味しそうに食べてもらえると何となく嬉しいわね。

 悪くない気分だわ。


「最後の一口よ」


「むぐ……ごちそうさん。うまかった」


「……薬飲んでさっさと寝なさい」


「ああ、そうするよ」


 おかゆを完食したジルに薬を飲むための水を渡す。

 食欲があったのはよかったけれどまだ熱がある事に違いはない。

 温かくして寝るのが一番いい。


 薬を飲んだこいつはすぐに眠りについた。

 さっきみたいな息苦しさやうなされているような感じはないからちょっとは良くなってるのかしらね?


 あ、そろそろ濡れタオルを変えてあげましょ。

 こういうことしかやってあげられないけど、できることしかできないから仕方ないわよね。


「まったく……世話かけさせて……。情けない」


 こんな事をぼやく私は今どんな表情をしているのだろう。

 こいつの寝顔を眺めて、ちょっとだけ笑っている……?

 ジルからしてみれば引きたくて引いた風邪じゃないし、辛いだろうから本人には言えないけど、こうしているのも何だか楽しい。

 そう思うわ。


 でも……ちょっとだけ退屈なのも事実。

 一緒に依頼を受けたり、休みの日に出かけたり、こいつがいないと何だかつまらない。


「暇ね。また本でも読んでましょうか」


 こいつの寝顔を眺めているのもそれはそれで楽しいが、やることが他にないのは退屈だ。

 そう思い本をいくつか見繕って持ってこようと立ち上がろうとした時、私の手が引っ張られた。

 熱い……ジル?


「何よ」


「……いかないでくれ」


「そんな不安そうにしなくても、私はどこにもいかないわよ」


「手、握っててくれ」


「……仕方ないわね」


 風邪を引いた時に限らず、何かしらの病気になった時、一人にされるのは心細いと耳にしたことがあるわね。

 私は部屋から出ていくわけでもなく、ほんのちょっとこの場を離れるだけだというのに……こいつは私はどこか行ってしまうように見えたのね。

 まったく……仕方ない。

 本は諦めましょ。


 それに手を握っててほしいなんて、甘えすぎよ。

 でも……それでこいつが安心して眠れるのならいくらでも握っててやるわ。


「大きい……それになんかごつごつしてる」


 ジルの手は大きく、私の小さい手がすっぽりと収まってしまう。

 ふふ、これじゃ私が手を握ってるんじゃなくて、握られてるみたいね。

 でも、それも悪くない。


「おやすみ、ジル」


 ジルは私を手を握って怖くなくなったのか、安らかな表情ですやすやと寝息を立てる。

 私はそれをただ眺めているだけだった。









 物音がして眼が覚める。

 どうやら私も眠ってしまったらしい。

 窓から日の光差し込んでくる……。

 朝を迎えているということは結構長いこと寝ちゃったわね。


「……ジル?」


「おう、おはよう」


 握られていたはずの右手が自由になっていて、ジルがベッドにいないことに気付く。

 無意識の内に名前を呼ぶと、後ろから声をかけられた。


「あんた……もう起き上がって平気なの?」


「ああ、おかげさまでな。熱でぼうっとしててよく覚えてないんだが、ルカが看病してくれたんだろ? ずっとルカが傍にいてくれたような気がする。ありがとな」


「別に……いいわよ」


 あんたが覚えてないだけでちゃんと傍にいたって言うのにこいつはまったく……。

 でも、よくなったのならよかったわ。

 これで私も退屈しなく……?


「くしゅんっ!」


「おいおい、大丈夫か? もしかしたら移しちゃったか?」


「ちょっと鼻がムズムズしただけよ。そもそも人間と違う身体なんだから風邪なんか引くわけ……くしゅっ!」


 まさかこの私が……?

 そんなはずはない……わよね。

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