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精霊術師vs水精霊

 ジルはルカに託されたコアストーンを片手に水精霊レイと対峙する。

 彼女の整った綺麗な顔か不機嫌で歪み、随分嫌われてしまったと苦笑いを浮かべ言葉を投げる。


「そんなに睨むとしわが増えるぞ」


「余計なお世話です。人間風情が」


「その人間風情に大切なコアを何個も取られたのはどこの誰だったかなー?」


「……あなた、ルカの傍にいられるだけあってそっくりです。とても腹が立つ」


「いや、あいつならもっとボロクソ言うだろ。一緒にしないでくれ」


 ルカの日頃の言動を思い返し、さすがに彼女ほどは酷くないはずだと遺憾に思うが、どのみち敵であるレイにはジルの心情など関係ない。

 一瞬でも揺さぶることができたのならば、挑発として意味があったと前向きにとらえ、槍を持つ手に力を込める。


「まあいいわ。私のコアさえ返してもらえたら、命だけは助けてあげる」


「残念だが、今回はあんたのコアは持ってないんだ。ルカは結構用心深いんでね」


「何? ルカ……っ!」


 そう告げるとレイの視線はジルから外れ、リンを相手に派手な空中戦を繰り広げるルカに向く。


(多分これもルカの想定内なんだろうな)


 ルカは多くを語らなかったが、おそらくこの状況を作り出せることも狙い通りなのだろう。

 水精霊レイも光精霊リンと同じく、第一目的は自分自身のコアストーン。

 特にレイは水のコアストーンを多く失っているため、何がなんでも取り返したいはず。

 しかし、肝心のそれを目の前の男が持っていないとなれば、相手にするだけ時間の無駄だ。


 そんな心理を逆手にとったルカの策略。

 たった一人でリンの相手をしつつ、離れた場所にいるレイの集中を乱す働きぶりに、ジルは素直に感心した。


「……ふぅ、危ないわね。まんまと信じ込むところだったけど、それも嘘かもしれない」


「さあ、どうかな?」


「それはあなたを倒してから確認すればいいだけのこと」


「フンッ、寝言は寝てから言いなさい……おっ、今の結構似てなかったか?」


 ジルはルカを真似て裏声で話す。

 レイはそれに対して明らかな怒気を持って、言葉ではなく攻撃にて返事をする。


 ジルは風のコアストーンの力を使い、ふわりと身体を浮かし素早くそれを避ける。

 風のコアストーンをセットしてるときは風を纏った高速移動や風で身体を浮かせた飛行などが可能になる。

 移動速度や回避能力、攻撃力なども大きく底上げされる力だが、その攻撃はやや直線的になってしまう。

 ジルは反撃で槍を振るい、風の刃を作り出してレイに向かって飛ばすが、彼女のガードを貫くには至らない。


「ちょこまかと……。ですが、いつまでも持ちますかね?」


「ちっ、うざいな」


 それに対してレイの攻撃はその精密性を活かした変幻自在。

 四方八方から蛇のように襲い掛かる。

 しっかり知覚していれば持ち前の速さで避けることは容易いが、レイも風の力を宿しているため速度で完全に上回っている訳ではない。

 決して油断できない状況が続く。


「うざいうざい……でも、それは一度見た」


「余裕ね。でも私は油断しない」


「さっきからルカの方を気にしてるみたいだけど……それは油断じゃないのか?」


「うるさい」


 風の槍は接近戦にて最も効果を発揮するが、レイ相手に思うように近付けないジルは、中距離で撃ち合うことになる。

 そのため引き気味に戦う事になるのだが、それはレイにとっても戦いやすい距離。

 自分の得意な間合いで余裕があるのか、先程からチラチラとルカ達の方を見ている。


(いいぞ、もっとそっちを気にしろ。俺から意識を逸らせよ、お前のコアがあるのはそっちなんだから)


 ここでジルは風のコアストーンを腕輪から外す。

 身体に纏う緑色のオーラが掻き消え、携える槍も空気に溶けて消えた。

 コアストーン使用時は強大な力を得る代わりに、対応のコアストーンの属性に染められて、精霊契約の力を引き出せなくなる。

 だが、こうすることでジルは普通の精霊術師に戻り、契約精霊と同じ属性を扱えるようになる。


「やっぱこれだろ」


「……っ! 水の力……! ルカがコアを持ってるのは本当なのね」


 ジルが水属性の力を使った。

 それが意味するのは、彼の契約精霊であるルカが、水のコアストーンの所持していること。

 それはレイも分かっていて、無視できない事実。

 ジルはコアストーンモードを解除して、水の力を見せつけることでルカが最低でも一つは持っていることをレイの意識に刷り込んだ。


 レイは敵の言葉には耳を貸さない、すべては自分で確かめると頭では思っていても、やはり自身の力を我が物顔で使われては腹立たしく苛立ちが募る。

 以前一杯食わされたこともあり、目の前の男に集中してかからなければならないのに、どうしても向こうの戦いが気になってしまう。


(気になるか? リンの方に加勢しに行きたいか? 残念、行かせねーよ)


 ジルにとってコアストーン使用の解除は敵の前で武装を外す隙となる可能性も高かったが、水のコアストーンの所在をちらつかせるのは効果的だったようで、レイはどうにも集中を乱されている。


「ルカ風に言うなら……闇に飲まれて消えなさい……ってね」


「死にたくないなら邪魔するなっ!」


「おーこわ。せっかくの美人が台無しだな、おい」


「うるさい、余計なお世話ですっ!」


「うおっ、ちょっとやりすぎたか?」


 必要以上に挑発してしまったため、ジルは怒りの猛攻撃にさらされることになる。

 咄嗟に風のコアストーンを腕輪にはめなおして、四方八方から襲い掛かる水流撃を何とか凌ぎつつ、距離を取る。

 そこでジルは後方上空にて大きな闇の力の波動を感じて目線だけをそちらにやる。


(何だあれ……ルカがなんか面白いことやってるな)


「よそ見なんて随分余裕ね」


「さっきからよそ見ばっかしてるのはそっちだろ? あいにくこっちは余裕なんかねーよ」


 そう言ってジルは懐から赤い輝きを放つ石を取り出した。


「今度はこいつでいってみるか!」


「それは……ラナのコアですか。火で私に勝てると思っているんですか?」


「あんたが水属性だからって、火属性の攻撃力を甘く見るなよ。この()()()()()は多分強いぞ」


「何? コアの変更ではなく、追加……っ?」


 火属性と水属性。

 単純な相性なら確かに火の方が悪い。

 だが、ジルが選択したのはコアストーンの変更ではなく追加。

 火と風の組み合わせは攻撃力に優れた組み合わせ。

 少しの相性差なら覆すことのできる攻撃特化フォームにチェンジし、ジルは炎と風を纏う槍を振るう。


「おら、燃えろ燃えろ!」


「ぬるい!」


 ジルの持つ槍を起点として発生した炎の竜巻がレイを襲う。

 だが、火属性の攻撃はやはり効き目が薄いのか、弾ける水と共に掻き消されてしまう。


「もう一発!」


「何度やっても無駄です」


 今度は竜巻の陰から火炎弾を曲射で打ち上げる。

 レイは眼前の竜巻を冷静に対処しながら、ジルの仕込んだ火炎弾にも気付いてそちらも撃ち落としてしまおうと視線を上に上げた。

 そこで不意に映りこんだ光景に、レイは目を見開いた。


「……っ! リン!」


 ジルの後方で爆発が起こり、轟音が鳴り響く。

 爆風が身体に突き刺さるが、それが狙い通りであるジルはにやりと笑う。

 その瞬間レイの視線はジルを通した向こう側へと釘付けになった。


(後ろで何が起こっているか知らないが、やってくれると信じてたぜルカ!)


「よそ見は……なんだっけ?」


「っ! くっ!」


 風を纏い、一瞬で懐に潜り込む。

 策を練り、敵の心理を逆手に取り、ようやく作り出したチャンスを無駄にしないために、今できる最高の一撃を叩き込む。


「このっ……調子に乗るなっ!」


「遅い! ボンバーランス……ッ!」


 レイはジルを迎撃しながら退こうとするが、風の力を使って加速しているジルの方が一瞬速い。

 風を纏う槍がレイの身体に突き刺さり、爆炎が内側から爆ぜるように炸裂した。


「もーらい!」


「う、あっ。また……やられた……?」


 吹き飛ばされて苦しそうに呻くレイから弾き出された赤の輝きを見逃さずジルは手を伸ばす。

 火のコアストーン新たにひとつ獲得して、ジルは満足そうに頷く。

 そのまま勝ち誇った顔で、レイに近付く。


「おーおー、あっちも終わったみたいだな。さすがルカ。うまいことやってくれた」


「リン……! うああああああっ!」


「しまった! まだ動けたのか!」


 ジルはコアストーンを奪ったことで、レイを再起不能に追い込んだと思ったが、それは見当違いだった。

 ダメージを与えた事に変わりないが、一度レイを撤退に追い込んだ致命的な一撃とは違い、まだ彼女には力を振り絞って動く余力が残っていた。


「それだけはやらせないっ! 間にっ……あえっ!」


「ちっ」


 レイは威力に特化した、普段の彼女なら行わないような攻撃を選択し、彼女よりも一回りも大きい水の砲撃を放つ。

 一見精度度外視のように思われる攻撃だが、きちんと制御されていて、リンを巻き込むことの無い軌道で、ルカに向かい勢いよく進む。

 ルカはそれに気付いて舌打ちをし、リンに落とすはずだった特大の闇の塊を迫り来る一撃の迎撃に使った。


「悪い、油断した!」


「別に、このくらいどうってことないわ。それ、貸しなさい」


 ジルは少し遅れてルカの隣に降り立ち、レイを取り逃がして邪魔を入れさせてしまったことを謝罪する。

 ルカは大して気にしないといった様子でジルの腕を取り、腕輪から風のコアストーンを外し取り込んだ。

 そして、レイの水砲の迎撃で立ち込める煙を風で吹き飛ばす。


 一瞬分からなくなっていた辺りの様子が明らかになる。

 ルカとジルの立つ場所からやや離れた位置で、力なく横たわるリンの傍にレイが寄り添っていた。


「レイ……さん。私の事は構わず……お逃げ下さい」


「それは無理。リンを見捨てたらルカにコアストーンが集中してしまう。それだけは何としても避けないと……っ!」


「では……これを……」


「っ! 分かった!」


 リンの手からレイに渡ったのは風のコアストーン。


(レイに風のコアを取り込ませて逃げる気か!)


「逃がすかよっ……ってあら?」


 その意図を理解したジルは二人を逃がすまいと追撃しようとして先程入手した火のコアストーンを腕輪にはめる。

 しかし、燃え尽きたかのような音と共にジルは膝から崩れ落ちた。

 モヤがかかったように働かない頭を回して、そこで限界を迎えてしまったことを悟る。


「ジルっ!」


「ルカ…………悪い」


 倒れゆくジルをルカは咄嗟に抱き留めた。

 ジルとしては地面に身体を打ち付けられることにならず助かったが、そのせいで風を纏って飛び去って行く二人をルカはすぐに追うことができなかった。

 しかし、レイは少なからずダメージを負っていて、手負いのリンを抱えている。

 いくら風のコアストーンの力があるとはいえ、ルカが追えば追いつけるかもしれない。


「俺を置いて、二人を追跡しないのか……?」


「バカ、するわけないでしょ」


「そうか……ありがとな」


「お疲れ様、今は休みなさい」


 そう言ってルカは心配そうな顔でジルを優しく抱きしめた。

 それが意味するのは、目先のコアよりもジル(相棒)を優先したということ。


 コアストーンを大量獲得する機会を逃すきっかけを作ってしまった罪悪感。

 それよりもルカのつけた優先順位に、どうしようもなく嬉しく思い、ジルは意識を落とした。


アメジストの宝石言葉

『真実の愛』『心の平和』『誠実』など

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