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宿敵再び

「ルカ? いったい何なんだ?」


「ひゃっ? ちょっと! 耳元であんまり大きな声出さないで!」


「あっ、悪い」


「……言ったでしょう。虫よ、虫。ちゃんと追って来てるわね」


「追って……ってまさか精霊か?」


「そうよ、察しが悪いわね」


 風のコアストーンの力を纏い駆けるジルは、言葉足らずのルカに説明を求める。

 ルカが言う虫が何なのか分からなかったジルだが、ようやく事態を把握して冷や汗をかいた。


「それは分かったが何でこんなことしてるんだ?」


「何? この私とこんなに密着できてるんだから役得でしょ? ちょっとは喜びなさいよ」


「いや、まあ……そうだけど。でもそれとこれとは話が別だろ」


「はあ……あいつらと町中でやり合うのは気が向かないから開けた場所に向かってるのよ。速さに関してはあんたにコアを使わせた方が早いからこうして移動してるって訳」


 ルカは簡潔にジルの求めてる答えを説明する。

 精霊の存在を感知したルカは戦いになることを悟り、町中での戦闘を避けるために人通りのない開けた場所に移動しようとした。

 その際に二人の移動速度が最大になる手段を考え、互いが風の力で移動するよりも、ジルにコアストーンの力を使わせた方が早いと導いたルカ。

 そんな考えを聞いて現状況を納得したジルだったが、何やら不穏な言葉に引っかかりを覚え眉をひそめる。


「ん? あいつら?」


「虫が二匹追ってきてるわ。ほら、来た」


「ほらって言われても。うお、攻撃されてる?」


「適当に撃ってる牽制ね。当たりそうなのは私がガードするから気にせず走りなさい」


「……任せるぞ」


 ジルは自身の方に向かって何かが飛来し、地面に着弾する音を聞き、ようやく攻撃を受けていることを知る。

 攻撃が飛来する方向に背を向けているジルはそれを視認することはできないが、都合よくジルに抱えられて手の空いた者がいる。

 ルカはもぞもぞと動き、ジルの肩越しに飛んでくる攻撃を撃ち落としていく。

 そうしているうちにルカが指定した開けた場所に出て、ルカの言う虫とやらを待ち構える形となる。

 そして――――二人はやってくる。


「こんばんは。お楽しみだったところ失礼しますね」


「逃げるのはもう終わり?」


「うっさいわねー。別に逃げてたわけじゃなくて、あんたらを誘い込んだだけよ」


 聞いているだけで安心してしまうようなおおらかな声色。

 冷たく落ちつきはらった氷のような声色。

 ルカにとっては敵であり、せっかくの休日もといデートのいい雰囲気を壊した邪魔者。

 水の精霊レイと、光の精霊リンが、ジル達の前に姿を現した。


「一応聞いてあげるけど、二人して何の用?」


「聞くまでもないでしょう?」


「そうですねー。一つしかありませんよね」


「ま、そりゃそうよね。私達が顔を合わせる理由なんて一つしかないわ。で? あんたらは仲良しこよし何やってるわけ?」


「利害の一致。協力関係。それだけよ」


「偶然出会ったレイさんからお話を伺ったのですが、興味深い話を聞けました。ルカさん、私のコアをまだ持ってたいらしたんですね」


 一度はリンをやり過ごしたルカだったが、レイとジルの一件で光のコアストーンの所在が明らかになり、その情報が共有されたことで、ルカは再度怪しまれることになる。


「ふん。確かにあんたに一つ返したけどそれで全部とは一言も言ってないわ」


「では、ルカさんはまだ私のコアを隠し持っているのですか……?」


「さあ、どうかしら?」


「別に言わなくてもいいわよ。あなたが持っているコアはあなたを倒してから確かめればいい」


「やれるもんならやってみなさいよ」


 睨みい合いバチバチと火花を散らすレイとルカ。

 しかし、どうにも締まらないのはルカの状態が変わっていないことだろう。


「……あのー、いつまでそうしているおつもりなのでしょうか? いえ、仲がよろしいのはいいことだと思いますが……」


「この期に及んでいちゃつく余裕があるなんて……いい度胸ね」


「…………っ!!」


 ジルに抱きかかえられたまま、二人と対峙したルカは、そのことを指摘されて顔を真っ赤にして下ろしてもらう。

 そして、恥ずかしさにプルプルと肩を震わせながら、開戦の狼煙を上げる。


「とりあえずあんた達をしばいて記憶を吹っ飛ばせば万事解決よ!」


「あらあら、やつあたりはよくないですよー」


 ルカの放った闇弾はリンが前に出て防ぐ。

 リンがガード役、レイがアタッカーを担う布陣に、ルカは数歩距離を取り、中距離の撃ち合いに応じる。

 ジルははめたままの風のコアストーンの力を引き出し、緑色の変わった形の槍を現出させる。

 それを振り回してレイの攻撃を撃ち落としていくが、直線的な軌道の攻撃しか止められず、弧を描くような軌道の攻撃は通してしまう。


「うざったいわね」


 ルカはそれを何でもないかのように捌くが、この状況が続くのはまずいと唇を噛む。


(削り合いだと不利ね。リンのガードを突破できないままジルが消耗するのは避けないと……。じゃあ、分断するしかないわね)


「ジルッ! 一旦下がって!」


「分かった!」


 ルカは光の力で大きな結界を作り上げ、ジルをそこまで下がらせる。

 自分の短期で十分な準部も整えられずに戦いを始めてしまったことをやや悔いながら、対抗策を練る。


「どうするんだ?」


「あんた……リンのガードを貫く自信はある?」


「ルカの攻撃も平気で防ぐからなぁ……。正直ない」


「そ、なら私がリンを引き受けるわ。あんたにはその間レイの相手をしてほしい」


「分断するのか?」


「ええ。でも自分の力だけで倒そうとしなくていいわ。退き気味に戦って適当に引き付けてくれれば、私が隙を作るわ」


 ジルの担当が決定し、ルカは方針を告げ、火と闇のコアストーンをジルに向かって弾く。

 それを受け取ったジルは、これらの組み合わせを渡してきたルカの意図が読めずに困惑した表情を浮かべる。

 今所持している風はともかくとして、火は水精霊レイを相手するには相性が悪い。

 そして、これから光精霊リンと戦わなければならないルカが、自身の持つ闇のコアストーンを預けてきたのが何よりの驚きだった。


「これでいいのか? 闇のコアまで……」


「ふん、人の心配してないで自分の心配でもしてなさい。ま、あんたなら大丈夫だと思うけど」


「……そうか。分かった」


 ルカはジルの胸に握った手を当てる。

 疑わない視線と期待、そして信頼の証が熱を帯びる。


「行きなさい。頼んだわよ」


「おう!」


 ジルは風を纏い、最速最短でレイを捉える姿勢を取る。

 その直前にルカが特大魔力弾で周囲の景色を黒く塗りつぶす。

 視界が潰れた闇の中を、鋭い風の一閃吹き抜ける。


「くっ」


 その槍の一撃は防がれたが、槍とジル自身から吹き荒れる嵐が、レイの身体を確かに後方に押しのけて、リンと引き剥がした。


「お前の相手は俺だ」


「……一度勝ったからって調子に乗らないことね。預けてたコア……全部返してもらうわよ」


「やらねーよ」


 この二人は再度対峙する。

 レイにとっては屈辱を晴らすべくリベンジマッチ。

 だが、ジルにはそんなこと関係ない。


 ただ、相棒の信頼に応えたい。

 それだけを胸に、レイに槍を向ける。

 風が吹き互いの髪が揺れ、冷たい水滴が辺りに跳ねた時、青と緑の魔力がぶつかり合った。


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