運命の出会い
パーティを追放されたジルは端的に言ってしまえば稼ぐ手段を失った。
厳密に言うと稼げなくなったわけではないが、精霊術師であるのに精霊術師の力を振るえない可能性がある中、ソロでこれまでのように稼ぐ手段は取れなくなったというだけだ。
これまでは戦えなくてもそれをカバーして助けてくれる仲間が傍にいたが、今はもういない。
力を振るえなくなった瞬間に力なき一般人に逆戻りしてしまう。
そんな中でこれまでと同じように魔物討伐など戦闘が絡む手段でお金を稼ぐのは危険極まりない。
とはいえ人間生きていくのにどうしてもお金は必要になる。
何かしらをしてお金を手に入れなければジルの貯金もやがて尽きてしまうという訳だ。
そこでジルが選んだのはとある洞窟で鉱物を発掘するという肉体労働だ。
ジルの拠点とするロゼルという町から出て少し離れた場所に位置する鉱山にての作業。
鉱物採取はいいのが見つかれば大儲けも狙えるが、めぼしいものが見つからないと稼ぎの割に疲労が大きい仕事になってしまう。
現在の成果は良いものとはいえず、手に入れた鉱物をしまっておく袋はまだ軽いままだ。
「このままだと帰れないな……。少し危険だけどもう少し深いところに潜って頑張ってみるか……?」
下の階層に行けばレアな鉱物も多くあり一発大儲けの可能性も高まるが、その分強力な魔物がうろついているという危険性もある。
これまでは比較的浅く魔物も少ない階層での発掘作業をしていたジルだったが、あまりの成果の無さに少しだけ下の階まで行ってみることにして立ち上がった。
その時だった。
「ん……なんだこれ……?」
移動をしようとして立ち上がり、少し歩いたところでジルは壁にできたヒビから薄く光りが漏れていることに気付いた。
まだ壁の中に埋まっているのにもかかわらず、ヒビから淡い光が漏れる上玉の可能性。
感じていた疲労感が一気に吹っ飛び、期待が高まる。
慎重に、かつ大胆に、ヒビの入った壁を掘り起こしていく。
「……………よし、見えた。初めて見るやつだ……綺麗だな」
姿を現したのは綺麗な光を放つ、色とりどりの整った石。
自然物とは思えないほどに綺麗な、まるで宝石と言っても過言ではない石。
ジルはその内の一つ、紫色の石を掴んで壁から取り除いた。
「すげえ……これならかなりの額で売れるんじゃないか……? それがこんなに……?」
初めて見るものなので具体的な買取額などは分からないが、ジルはかなり高額になると確信した。
そして、それは今手元にある一つだけではなく、まだ眼前に広がっている。
それらもすべて回収したらさっさと帰って売りさばこう。
そう思って残りの石も取り出そうとした時、壁から姿を覗かせている石から放たれていた淡い光が強くなり出してカタカタと震え出す。
「なんだ? 勝手に動き出した?」
壁に埋まる石はひとりでに動きだそうとし、ピシピシと壁に亀裂を作っていく。
放たれる光が強くなり、ジルはあまりの眩しさに目を開けていられなくなり思わず後ずさった。
「やばいぞ、何かのトラップか? まずい……早く逃げないと……っ」
様子がおかしい。
このままでは何かまずいことが起きる。
そんな予感がジルの頭の中で激しく警鐘を鳴らす。
すぐさまこの場から離れた方がいいと判断するも、目と鼻の先に姿を現した一獲千金のチャンスに退却の判断が鈍りジルは足を止めてしまう。
「何? 床がっ……崩れる……っ?」
その一瞬の迷いの内に壁から広がった亀裂はジルの足元まで伸び、呆気なく床が崩れ去った。
宙に投げ出され浮遊感を感じる。
下を見れば暗闇、上を見れば淡い光と共に崩壊した壁などの瓦礫が降り注いでくる。
どこまで落ちていくのかは分からないがこのままではかなり深い階層まで真っ逆さま。
仮に無事着地できたとしても上から降り注ぐ瓦礫をどうにかする力は今のジルは宿していない。
もうただでは済まないと覚悟を決めてジルは目をギュッと瞑った。
「うおっ! 眩しっ!」
目を閉じているのに視界は紫色の光に塗りつぶされる。
カッと炸裂する音と共に爆風が巻き起こり、破壊音があちこちから聞こえてくる。
それと同時にしたから風が舞い上がるようにジルの身体を少しばかり浮かせ、地面と激突する勢いをややかき消した。
「いってぇ……何が起きた……?」
身体を打ち付けた痛みはあるが、身体が浮いたおかげで致命傷は免れた。
それに覚悟していた生き埋めも起こっておらず、小さな欠片がぽつぽつと降り注ぐ程度で済んでいる。
ジルは倒れ伏せたまま何が起こったのか分からずにいた。
倒れたまままばたきを繰り返すも先程の光が強烈過ぎたのかまだ視界はぼやけている。
だが、ジルの耳にはぼんやりと何か聞こえていた。
「――――と――――た――――る――――」
しかし、それをよく聞き取ることができない。
だが強弱のついたそれは音というよりは声なのではないか。
そう感じたジルはだるさを感じる身体に鞭を打ち、力を振り絞って何とか身体を起こそうとする。
光に塗りつぶされた視覚、音に揺らされた聴覚が戻ってくるのを感じ、ジルは聞こえてくる音に耳を傾けた。
「――――あんたが私の封印を解いたのね?」
「…………は?」
今度ははっきりと聞こえた。
その言葉の意味を飲み込むことはできなかったが、その声は確かに自分に向けられていることを認識してジルはその声が発せられている方を向いた。
その方に顔を向けたジルは硬直した。
紫色の長い髪、紫色に輝く瞳。
すらりとした手足に控えめに言って美少女と言わざるを得ない整った顔立ち。
身体の膨らみはそれなりにあり、出るところはしっかりと出ている。
そんな少女が――――生まれたままの姿でジルのことを見下ろしていたのだった。




