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力の魔神との戦い1

 分厚い雲が太陽を遮り、少しの薄暗さを感じる昼……

 次元の門は突然現れた。

 空間に亀裂が走り、徐々にその亀裂が広がっていく。


 その状況を見て、一気に簡易拠点は慌ただしく動き始めた。


「出現推測地点より西方の地点に次元の門出現の予兆!」

「陣形を組め!」


 次元の門が開く兆候である亀裂を確認し、そこを起点に街に背を向けるような方向で陣形を整える。


 放った魔術が味方に当たらぬように、次元の門を約百五十度ほど囲む形で展開した。


 初手で大火力を叩き込んでから後方に退くため、元素術および純魔術部隊が最も前に配置されている。

 その後に前衛を務めるのは強化術部隊。

 そして、後方には支援役および被害が大きくなってから最大限の力を発揮できる死霊術部隊の布陣である。


 それに加えて、志願兵士は弓での支援ができるように配置されていた。

 ただし、魔神は一人であり乱戦が予想されるため、弓にそこまで多くの人員は割かれていない。


 以上を合わせて、総勢は約七千名ほどだ。

 一部は弓兵と言った魔術師ではない人員が混ざっているとは言え、魔術師だけでも五千名は越える。

 これほど魔術師が集められた戦いは歴史上を見ても存在しないだろう。


「亀裂の広がりが止まったのを確認……!」


 やがて、次元の門が開く時が来る。

 亀裂が完全に広がると、その中心部分が砕けて真っ黒の空間が姿を表した。


 そして、そこから現れたのは一人の異形……


 全身が赤と銀の甲殻に覆われたような姿で、人型をしているが頭はフルフェイスのヘルメットに覆われているかのようになっていて顔は確認できない。

 また、全身が甲殻のような見た目の割にしなやかさも持ち合わせているらしく、次元の門から降り立つ動作は非常にスムーズだ。


「オレは力の魔神ダ。こんな歓迎を受けたのは初めてダ……。早速、戦おウ」


 どこからともなく声を発した魔神は、即座に体勢を低くした。


 ――その動きに合わせて戦いの火蓋が切って落とされる。


「魔神に魔術を叩き込めーーー!!!」


 力の魔神に向かって大出力の魔術が次々に放たれた。


 純魔術師が扱うは純然たる魔力による破壊。

 最も原始的かつ破壊的な魔術と称される純魔術は魔力をそのまま力として放出し、敵にぶつける。

 魔神に向かって放たれた魔力はただひたすらに破壊の嵐として吹き荒れた。


 元素術師が扱うは火・水・風・土の四大元素を具現化させて操る魔術。

 猛り走る業火、荒れ狂う津波、すべてを薙ぎ倒す暴風……それらが魔神に向かって襲いかかり、その後は即座に揺るがぬ岩壁が盾として出現する。

 この盾を起点にして強化術師と純魔術師は後ろに下がり、次の魔術の準備を整える作戦だ。


 この世のものであれば絶対に逃れられないであろう規模の攻撃を前にして、魔神はポツリと呟いた。


「良き……”(ちから)”ダ」


 魔神は前方約百五十度の角度から放たれる魔術の集中砲火を前に――



 ――ただ、拳を振るっただけだった。



 最初にその角度のほとんどをカバーするように右腕を使った右から左への薙ぎ。

 これにより、魔術師たちが放ったほとんどの魔術はかき消えた。


 何も魔神が特別な術で消したというわけではない。

 その圧倒的な威力によって、”相殺”したのだ。


 そして、魔神は一部のカバーできていなかった魔術をギリギリまでひきつけて力をためると、左腕でその部分に向かって掌底を放つ。


「ぬるイ」



 ――その一撃で、右方に配置されていた約三百人が死んだ。



 多くの者が魔神の強さに対して覚悟を決めてきたことだろう。

 だが、魔神はその想像を遥かに超えてきた。


 ただの掌底。

 されど、そこから放たれた衝撃波は魔術を相殺するだけに留まらず、陣形の一部を削り取った。


 当然、その部分にも元素術師の作った岩壁があったが、衝撃波はそれすら貫いて魔術師たちを襲った。


 突然の出来事に対応が遅れ、多くの魔術師は衝撃波を受けて気絶している。

 運悪く前方で衝撃波を受けてしまった者に至っては、全身から血を流していた。

 確実に助からない。


「どうしタ。もう終わりカ」


 魔神の一撃を目の当たりにした一部の魔術師たちは戦意を喪失してしまったが、それでも多くの魔術師たちは作戦通りに動いた。

 つまり、強化術師とのスイッチである。


 次々に強化術師たちは前に出て、攻撃の機会を窺った。


 そして、一人の強化術師が飛び出していく。


「ウオォォォォ!!!!」


 彼の名はアンドリュー。

 鍛え上げられた肉体に加え、強化術師としての実力は高い方であり、これまで多くの悪魔を屠ってきた魔術師である。


 アンドリューもまた力の魔神によって大切な人を失っており、その怒りを力の魔神にぶつけるために前に出たのだ。


「"野獣の連撃ベスティア・ストライクス”!!!」

「面白イ」


 周囲からはアンドリューの身体が四人に分かれたかのように見えた。

 "野獣の連撃ベスティア・ストライクス”はアンドリューが作り出した複数の強化術の重ねがけ魔術であり、圧倒的な速度と力を持って連撃を繰り出す。

 いまだかつてこの技を耐えきった者は居ない。


 アンドリューの機関銃のような超威力の連撃が、魔神へと放たれた。


 ……だが、アンドリューは打ち込みながら感じていた。


 ――すべて、捌かれている。


 魔神はアンドリューの速さに合わせてすべての攻撃を弾いていた。

 ほんの数秒、しかし、アンドリューが繰り出した打撃は約三百発にも及ぶ。

 そのすべてを、魔神は対処していた。


「悪くないが、足りなイ」


 魔神が右手を前に突き出すと、その戦いはあっさりと終わりを告げた。


「あ……ぐ……」


 次の瞬間に周囲の者が見たのは、アンドリューの腹から突き出す魔神の右腕だ。

 致命傷であることは誰の目から見ても明らかだった。


 ズボリ、と魔神が手を引き抜くと、アンドリューは力なく倒れていく。


 この光景もまた、一部の魔術師の戦意を削ぐには十分であった。


 ……だが、そんな者たちだけではない。

 それを見ていたアンドリューの部下だった強化術師たちは一斉に飛び出した。


「師匠が、師匠が!!!! 師匠の仇ィィィィ!!!!」


 アンドリューに育てられた強化術師たちは誰もが優秀であった。

 しかし、悲しきかな。

 その者たちはまだまだこれからの者たちであり、アンドリューには劣っていた。


「遅イ」


 もはや説明するまでもない。

 圧倒的な暴力を前にして、アンドリューの部下たちは一瞬にして見るも無残な姿に変わり果てた。


 そして、アンドリューの部下たちを蹂躙したあと、突然、魔神は振り向いて手を軽く振った。


「気づかぬと思ったカ? 分かっていル」

「ばか……な……」


 魔神の背後に立っていた男の首がズルリと落ちた。

 また一つ命が消えていく。


 強化術とは身体を強くすることだけがその分野ではない。

 ありとあらゆる付与効果を与えることこそが強化術の真髄だ。


 彼は隠蔽の魔術を使って背後に回り込み一撃を加えようとしたのだが、あえなく失敗に終わってしまった。


「薄そうなところから薙ぐカ」


 背後の対処を終えた魔神がまた力を貯めるモーションを行う。

 それを見て魔術師たちは最初の一撃を思い出し、防御を固める判断をした。

 特に前衛である強化術師は自らの身体を強化して非常に強固な守りを発揮できる。


 当然生身で受けるため危険だが、元素術の岩壁よりも魔力をフルで利用できるために高い強度を実現することが可能だ。


 魔神が右腕による掌底を放つ。

 その掌底が向けられたのは先程の逆、魔神の左方であった。


「絶対に、受け止めてみせる――!」


 その前に立つ強化術師たちは全力を持って防御姿勢を取った。

 自分が生きるためでもあるし、後方の魔術師たちを守るためでもある。

 もしも自分が持ち場を離れれば、後方の魔術師たちは全滅だ。

 強い覚悟を持って、その衝撃波に備えた。


 ……しかし、人知を超えたその一撃の一端を味わった瞬間、その覚悟は恐怖へと変わっていく。


 そして、恐怖のままに、強化術師たちは弾け飛んだ。

 文字通り、衝撃波に耐えられず四肢がバラバラになって弾け飛んだのだ。


「脆いナ」


 強化術師の必死の防御のおかげで後ろに居た魔術師たちは最初の一撃と比べて比較的被害が少ない。

 しかし、今の衝撃波を正面から受けてしまった強化術師たちは全滅だ。

 約百五十名が一撃で死んだのである。


「取り乱すな! 第二射を行え!!」


 その号令とともに前に出ていた強化術師たちが伏せる。

 後ろに下がった魔術師たちの魔術の準備が終わったのだ。


「"紅蓮の炎柱(ルーベル・ピラー)”!!」

「"堅岩の鋭牙(サクスム・ファング)”!!」

「"豪嵐の連刃(テンペスタス・エッジ)”!!」

「"破壊の一矢インテリトゥス・アロー”!!」


 放たれたのは強烈な元素術と純魔術だった。

 初撃でも最大火力を放ったが、今回はさらに力を増している。

 なぜならば、最初の一撃は魔神の動きが読めないために一部の人員は攻撃に参加していなかったからだ。


 今回は正真正銘、全元素術師と純魔術師の最大火力である。


「ほウ……これは骨が折れるナ」


 魔神は姿勢を低くすると飛んでくる魔術の方を見据えた。


 ……魔術は前方約百五十度の全てから放たれてはいるが、魔術師の配置の関係ですべてが均等な威力というわけではない。

 布陣の中央に近いほど強力な魔術師を配置しているため、必然的に端のほうが対処が簡単であり、中心に近づくにつれて対処が難しくなる。


 無論、常人であればどこを受けても死に至ることは間違いないほどの威力であるが、今回の相手は人智を超えた”天変の四魔神”なのである。


「まずここダ」


 魔神が最初に対処を行ったのは、最も強力な中心部分からだった。

 手刀を目にも見えない速さで走らせると、岩の棘などを始めたとした形ある元素術が空気の刃により的確に砕かれていく。


 次に、軽い掌底を連続で放つと、対照的に形のない純魔術などが次々に相殺されていった。

 相殺しきれないものも目に見えて威力が減衰している。


 無論それだけで対処が完了するほど少ない物量ではないが、魔神は魔術が着弾するまでの僅かな間に的確に手刀と掌底を放っていく。

 さらには、風圧を利用して魔術同士を相殺させるなど、普通では到底考えられない方法で魔術の威力を減衰させていった。


「これぐらいならいけるカ」


 最後に魔神は地面に手をつくと、全身をひねるようにして蹴りを放つ。


 その蹴りから放たれた衝撃波によって、ついにすべての魔術は相殺されてしまった。


「物量に頼るナ。魔術同士がぶつかれば威力が下がル」


 魔神は立ち上がり首を鳴らすような動きをすると、腰を落とし、両肘を後ろに持っていく。


 明らかにこれまでとは違うモーション。

 多くの魔術師が大きな一撃が来ると予想していた。


「ハッ!」


 そして、そのまま魔神は両の手で掌底を放つように両腕を前に突き出したのだった。


ついに力の魔神との死闘が幕を開けます。

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