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元素の魔神

「…………おかしい」


 リリーが拘束されてから、すでに一時間ほどが経過しようとしている。


 その間、ルドーはずっとリリーの拘束を解くことはせず、ただ沈黙の時間が続いていた。

 その沈黙が、ルドーの呟きによって破られたのである。


 ルドーは杖を地面につくとルドーとリリーを隔離していた岩の壁が一枚崩れる。

 そこに立っていたのは一人の杖を携えた魔術師だ。


 魔術師はルドーの元に近づくと、なにやら耳打ちを行った。


「…………魔神……西…………ルドー様………」


 リリーはその内容をあまり聞くことが出来なかったが、聞き取れた単語からおそらくは魔神について話しているのだろうということが分かる。


 耳打ちを行った魔術師はルドーに対して礼を行ってからその場を後にしていく。


 ルドーは少し考えた素振りを見せると、リリーに向き直った。


「……これまでよりも魔神の被害が拡大しています。あなたがたが余計なことをしなければ、こうならなかったのかもしれないのですよ」


 ルドーが杖をつくとリリーを拘束していた岩が崩れた。

 同時に、周囲を隔離していた岩壁がすべて崩れ去る。


「まぁ……しかし、魔神と決着をつけるには良い機会かもしれません。あなたはここで大人しくしていてください。これ以上、手を出すようなら容赦はしません」


 そういってルドーは魔術を使って岩の板のようなものを作り出すと、それに乗って高速で移動していった。


 残されたリリーは固定されていた手足を動かして動くことを確認すると、すぐに心を決めた。


「……追いかける!」


 ルドーは大人しくしていろと言っていたが、リリーがそれに従うはずがなかった。

 自由に動けるのなら、少しでも多くの人達を助ける……!


 すぐに、リリーはオルトレイドの街を全力で駆け抜けていった。


*


「誰か助けてくれぇー!」

「ダメだッ! もう北区はヤバイ! 西区も被害が拡大してるぞ!!」


 オルトレイドの街は阿鼻叫喚に包まれていた。

 リリーが拘束されていた一時間の間に北区の半分以上が魔神の手によって滅ぼされている。

 加えて、魔神は西区にまでその破壊の手を伸ばそうとしていた。


 ルドーを追いかける途中で、リリーはラスティと合流したようだ。


「ラスティ、どうだった?」

「ボクの手が届く範囲で北区の救助を手伝ったけれど、魔神はどんどん西区に移動していっているみたい! 急いだほうが良いかもしれない!」

「わかった、魔神の周囲の人物から逃していこう! ルドーさんが魔神のところに向かっていったはずだから、ここを真っすぐ行って!」


 ラスティはリリーを抱えると、一段と速く走っていく。

 ラスティは自分では気づいていないようだが、強化術の扱いはどんどん上達していっていた。

 その速度はリリーを抱えていてもなお、風のような速さである。


 そうして魔神の方向へ向かうこと数分……あちこちで火が上がる戦場のような只中で、一人の男と一人の女が相対していた。


「魔神よ。契約と違いますよ」

「契約ってなんよ? 今のあーしはこんくらいじゃ足んないのよ。いつもよりもっと必要なわけ」


 男は地面からせり上がらせた台座のような岩に立っていた。

 リリーたちも知る男、ルドーだ。

 魔神を追いかけたリリーたちは、この様子を少し離れたところから見ている。

 救助すべき人たちに避難すべき方向を指示しながら、ここまでやってきた。


 もう一方の女は風を纏わせ空を飛んでおり、長いうぐいす色の髪が揺れていた。

 魔女を象徴するトンガリ帽子に杖、そして露出度の高い軽装改造のローブと服のその女は、ルドーを少し見下ろす形で飛んでいる。


「契約は契約です。かつてのオルトレイドの長は、あなた……つまりは元素の魔神と契約を結んでいたはずです。今回の破壊行動はこれまでよりも多すぎます」

「はぁ? 知んねーし。別ん奴と勘違いしてんじゃないの?」

「いえ、すべての魔神と契約したとあります」


 女は”天変の四魔神”の”元素の魔神”であった。

 あらゆる自然を操る破壊の化身である。

 火・水・風・土の四大元素……つまりは元素術と同じ力を操ることが知られているが、どの元素を操ろうとその力はやはり魔神と言うべきそれだ。


 実際、彼女が通り過ぎたオルトレイドの街は、人も家も無残に破壊されていた。


「ま、とにかく、あーしは足りない分を補充したいだけだから」


 そう言って魔神はふわふわとそこを飛び去ろうとしたのだが……


「止まりなさい」


 鋭く尖った岩が魔神の行く手を遮るように浮遊していた。


「は? なんのつもり? あーしは疲れてるし、できるだけ力を使いたくないわけ。通してくんない?」

「これ以上の破壊活動は目に余ります」


 ルドーはフードを肩に下ろすと、杖を構えた。

 常に笑みを浮かべたルドーの顔から、その瞬間だけ笑みが消える。

 鋭い殺気……これこそがルドーの本質なのだろう。


「魔神……思い上がるなよ。契約があるから今まで狩らないでやっただけだと、その身に教えてあげましょう」


 ルドーが杖を大きく振るった。

 その瞬間、大地が震え始める。


「"女神なる大地・合掌(クィアヌ・オランディ)の章”」


 ルドーの使うその魔術は、元素術の中でも土元素を特化させたものだ。

 加えて、オルトレイドに伝わる特殊な技術を使っているため、他の地域ではあまり見ることのない魔術である。

 一見すると同じように見える魔術であっても、土元素の分野ではルドーの魔術は圧倒的なまでの破壊力を誇っていた。


 ルドーの杖の動きに合わせて、大地から次々と岩の棘が魔神へと射出されていく。

 最初から魔神の進行方向に置いてあった棘も、同時に魔神へと向かってくる。


 二箇所から放たれているその岩の棘は五秒ほどずっと勢いを緩めることなく続き、棘同士がぶつかる場所……つまり、魔神の居た場所はたちまちに土煙に包まれた。


 リリーたちの目から見ても、この魔術の威力は凄まじい。

 悪魔たちと戦う中で様々な魔術師を見てきたリリーたちだが、この威力は並の元素術師の五倍……いや、それ以上の威力だと言っても良かった。


「はー、ここで力使ったらその分を回収しないといけないわけ。まぁやるってんなら、あーしも遠慮はしないけどね」


 土埃が晴れ、そこから現れたのは無傷の魔神。

 どのように身を守ったのかは不明だが、一切のダメージを与えられていないように見える。


「それで、まさかこの程度で終わりってわけないでしょ?」

「当たり前です。あなたはここから、私の力を嫌でも知ることになりますよ……」


 ルドーがさらに杖を振るい、掲げた。

 大地が震え、膨大な魔力がルドーから解き放たれる。


「"女神なる大地・低頭敬礼(クィアヌ・ディリス)の章”」


 魔神の頭上に突如現れたのは、巨大な岩塊だ。

 その大きさは、もう一つの大地が太陽の光を遮ったかのように錯覚するほどである。

 そう、それはもはや天空に浮かぶもう一つの大地だった。


 事前の準備もなしにこれほどの規模の魔術を振るうその力は、まさに規格外。

 魔術機関にすらこれほどの魔術を扱える者は居るか分からない。


 その圧倒的な出力の魔術を前に、リリーたちはただ、太陽が見えぬ空を見上げた……


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