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新たな地を見据えて

 ハルンド平原の魔神討滅戦から一ヶ月が過ぎた。


 魔神の討伐に成功するという歴史的な大事件であったものの、他の魔神や悪魔の脅威が消え去ったわけではない。


 それどころか、力の魔神が倒されて以降は次元の門から出てくる悪魔の数が多くなり、強くなっていると報告されている。

 これは「力の魔神が倒されたことによって他の魔神が怒ってより強力な悪魔を差し向けているのでは」と推測された。


 そのため、”悪魔殺しの傭兵”の二人の仕事も減ったわけではなかった。



「お疲れ様。リリーがいれば悪魔討伐は問題ないね」

「ラスティのおかげだよ」


 今日も悪魔の討伐を終えた二人は、あれからしばらく拠点にしているハルテアの街に帰ることにする。

 そして、二人はそのままとある施設に訪れ、その一室へと入っていった。


 そこに居た人物は……


「リリーとラスティか。お前らに限ってそんなヘマはしないと思うが、怪我とかしてないだろうな?」

「大丈夫ですよ、ファルヴァさん」


 魔神討滅戦の功労者であり、魔神にとどめを刺したファルヴァその人だった。


 ここはハルテア総合病院。

 その中でもファルヴァは大きな一室を貸し切る形で治療が続けられていた。

 魔術機関としても、魔神討伐の英雄を死なせるわけにはいかない。


「それより、ファルヴァさんこそ大丈夫ですか?」

「おいおい、この状態で大丈夫って言えるわけねーだろ」


 ベッドに寝ているファルヴァは全身包帯でぐるぐる巻きだ。

 左腕は少しも動かせないほどに固定され、それ以外も首から下は余すところなく包帯で処置が施されていた。


 さらに、右肩から先はすでに切断処置が行われ、あるべきはずの右腕はなくなっている。


「ま、元気かどうかで言えば元気だがな」

「それならいいんですけど……」

「あー、そうだ。頼んでた葉巻、買ってきてくれたか?」

「もちろんです」


 リリーが葉巻を取り出し、火を付けてからファルヴァの口に加えさせた。

 全身を動かせないファルヴァの代わりに、葉巻を吸わせてあげる。


「いやー、すまないな。医者が葉巻はダメだって言うんで困ってんだ」

「……え、医者にダメって言われてたんですか!?」

「あ、言ってなかったか。……ま、気にすんなよ。アタシの身体はそんなにヤワじゃねぇよ」


 リリーは葉巻を与えるのをやめようかと思ったが、もう仕方がないのでとりあえずこの一本は吸わせることにする。


 ただ、元気そうで本当に良かった……とリリーは考えていた。


 あのとき、戦いを終えて瀕死だったファルヴァは、リリーの死霊術によって一命をとりとめた。

 リリーはあの土壇場で本当に死霊術による傷の治癒を実現し、ファルヴァの命が失われることを阻止したのだ。


 ラスティもまた力を振り絞ってファルヴァを担いで運び、可能な限り早く救護部隊にファルヴァを引き渡した。


 結果として二人の努力と思いは天に届き、ファルヴァはなんとか一命をとりとめたのだ。

 あの傷であったことを考えれば、命があっただけで奇跡の中の奇跡と言っても良いだろう。


「……それにしても、本当にありがとうな。お前たちが居なかったら、アタシは魔神討伐を成し遂げられてはいなかった。生きてもいなかった。それに、こうやって見舞いに来てくれることもそうだ。本当に感謝しかないよ」

「どうしたんですか? ファルヴァさんらしくもないですけど」

「いや……アタシはただ、お前たちの足枷になりたくないだけだ。お前たちから受け取るものは十分にアタシは受け取った」


 ……ファルヴァが危惧していたのは、自分のせいでリリーたちをハルテアに縛り付けてしまうことだった。


 悪魔の力が増していることはすでにファルヴァの耳にも入っている。

 ”悪魔殺しの傭兵”である二人の実力をよく知るファルヴァからすれば、自分のせいで悪魔の脅威から救われるはずの人を減らしているようにも感じられたのだ。


「あのときデータを見たお前たちなら分かってるだろ? 今日の次元の門を最後に、しばらくこの地域は次元の門が現れない傾向だ。お前たちの実力なら、ハルテアを離れていたほうがより多くの人を救える。失われることを防げる」

「……」


 リリーもそれは分かっていた。

 それでも、ファルヴァのことが心配だった。


 それに、ファルヴァが一騎打ちをしないといけなくなったのは自分の実力が足りていなかったせいではないかと……右腕を失うことになったのは自分のせいではないかと……責任を感じていたというのもある。


 だが、ファルヴァの次の一言は、リリーの心を見透かしたようなものであった。


「言っとくが、責任とか感じてくれるなよ。さっきも言ったようにアタシはお前たちに感謝してんだ。だいたいお前ら以上の実力者が他にどこに居るってんだ。本当にアタシのためを思ってくれるなら、ハルテアを離れて悪魔と魔神に怯える人々を救ってやってくれ」


 ラスティが強く頷く。


 リリーもまた、ファルヴァの心を理解し、答えを返した。


「わかりました……明日、ハルテアを発って西方のオルトレイドに向かいます。これでいいんですよね……ファルヴァ大将」

「よろしい。百点だ」


 ファルヴァはカッコよく笑った。

 つられてリリーとラスティも笑みを浮かべ、そして、病室を後にした。


 ……残されたのは葉巻の香りと、心地よい満足感。

 ファルヴァはポツリと呟く。


「動けなくて退屈続きだったが、今日は気持ちよく寝れそうだな」


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