死霊術師のふりをしているリリー
「ねぇリリー、次の試験なんだけど……」
「うう……『死体の持ち込み禁止』、終わった……どうしようラスティ……」
寮の一室で二人の男女が話していた。
一人はリリーと呼ばれた少女で、黒いローブにかかる白い髪が美しい。
もう一人はラスティと呼ばれた少年で、その顔は女の子と見間違えてしまうほどに幼く、可愛らしかった。
二人は幼いときからいつも一緒に居た。
「うーん、奇跡が起こることを信じて試験に臨むしかないよ。ボクにできることはなにも……」
「でもでも、私が死霊術を全然使えないからこうなっているわけで……」
二人が話しているのは次の試験についてのことだ。
二人が……いや、厳密にはリリーが所属しているのは魔術機関であった。
魔術機関は人類の敵たる”天変の四魔神”という存在に対抗するために作られた組織である。
前兆もなく突然現れ、数々の厄災を振りまいていく四体の”魔神”、そしてその眷属である”悪魔”に対して、人類はこれまでに多くのものを失い続けてきた。
たった四体しかいない”天変の四魔神”だが、その呼び名が変わったことは一度もない。
……つまり、これまで討伐を成し遂げた例は歴史上ただの一回もないのだ。
しかし、それでも知と技を結集してどうにか脅威に立ち向かおうとするのが人類である。
対抗する術として人類が選んだのは様々な奇跡を引き起こす”魔術”だった。
魔術を使う“魔術師”たちは対魔神の切り札になるのではないかと期待がかけられることになる。
そうして大陸中で魔術師の育成が盛んになり、魔術を使える者やその見込みがある者を集めて結成されたのが魔術機関であった。
魔術というものは生まれつき使える者も居るが、多くはその人にとってのなんらかの衝撃的な出来事を経て才能に目覚めるとされており、魔術機関ではそのような人を集めて魔術師としての教育と訓練を施す。
魔神や悪魔に対抗し、奇跡によって恵みをもたらす魔術師の存在は貴重であり、その魔術師の運用・育成を一手に担う魔術機関は非常に重要な組織だと言える。
……だが、あろうことか魔術機関の死霊術部門に所属しているリリーは死霊術が全く使えなかった。
なんなら、魔術を何一つ使うことが出来なかった。
機関の訓練を受ければ魔術が使えるようになるんじゃないかというリリーの考えは浅はかなものだったのである。
では、なぜ死霊術を使えないリリーが魔術機関の死霊術部門に入れたのか。
その鍵を握っているのが横にいる少年ラスティだ。
「と言っても、さすがにボクが”死体のフリ”をするのは無理があったんだって」
そう、これまではラスティが死霊術で操られる死体のフリをしていたのだ。
死霊術は霊魂を利用するものから死体を利用するものまで多岐にわたるが、特に有名なのは、やはり死体の操作だろう。
死霊術の才能は身近な人の死などをきっかけに発現することも多く、魔術師見習いの中にも特定の死体を連れている人が割と見受けられる。
そのため、機関ではそういった”持ち込みの死体”を使うことが許可されており、これを利用してリリーは死霊術部門への所属に成功したのだ。
他の部門ではこうはいかなかっただろう。
幸いラスティは魔術師としての腕は大したものであり、周囲には死霊術のかかった死体だと思わせるようにうまく立ち回ってくれていた。
「うう、ごめんねラスティ。私のわがままにつきあわせて……」
「別にそれはいいよ。ボクはリリーがやりたいことなら全力で協力するよ。でも、今回はちょっと厳しいかもしれないね」
「こればかりは自分で頑張ってみるよ。ううー、花開いて、私の才能!」
教本を見ながら必死に死霊術の練習を重ねるリリー。
手を振ってみたり、変なポーズを取ってみたり、彼女なりに色々と試行錯誤を繰り返しているようだ。
だが、試験までに残された時間はあと数日である。
試験で死霊術が全く使えないことがバレれば、魔術機関から追放されるのは間違いないだろう。
それでも、とにかく頑張るしか方法はない。
初めてラスティの助けなく、リリーは試験に臨むことになった。
本日はこのあと18時過ぎ、19時過ぎ、20時過ぎに投稿予定です!
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