第92話 王子様系TS少女は婚前お泊りハーレム旅行に繰り出す その3
「―――皆さん、間もなく目的地に到着いたしますよ」
トリアにかしずいていると、馬車の外から声が掛かった。
「へえっ、あれが」
「ちょっとトリア、そんなに窓に張り付かないでっ。私が見えないのっ」
トリアとテレーズが馬車の一方の窓際に殺到した。
「あれがローズ様のお家」
「と言うよりボーモン伯爵領の領都ですね」
もう一方の窓からは平和的にジャンヌ、エリカが交互に外を覗き、次いでアンリが窓の前に立つ。
「あれが。……何と言うか、想像していたよりもずっと―――」
「小さいかい?」
「その逆です。想像してたよりずっと立派で。まるで、王都みたい」
「……ああ、アンリの地元には城壁がないものね」
領都は高さ十メートルもある壁で覆われた城郭都市である。
見た目の威容はなかなかのものだが、この世界では土魔法のお陰でお手軽に―――と言っても複数の魔女を動員し月単位での事業とはなるが―――城壁の類は建造することが出来る。
「これはこれはお嬢様、お帰りなさいませ」
「遅くまでお仕事お疲れ様です、衛兵の皆様。―――学園の友人達とその護衛の方々がご一緒なのですけれど、通らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はっ、領主様からお話はお伺いしております。おい、お前たち、お嬢様に道をお開けしろ」
「では皆様、御機嫌よう」
城門を顔パスする。
「……ぷふっ、お、お嬢様だって」
「ローズがお嬢様って、変なのっ」
「み、皆様、そんなに笑っちゃ悪いですよ、ふふ」
「くくっ、と言うか口調までお変えになって。ローズさん、領地では猫をかぶっていらっしゃるんですね」
「たまにやって来る次期当主があんまりおかしな人間じゃあ、領民が不安がるだろ?」
「おかしな人間だってご自覚はお持ちだったんですね」
「もうっ、アンリまで」
「うふふ、ごめんなさい」
ちろっと舌を覗かせて頭を下げる。
「…………くっそう、可愛い」
「?」
二次元美少女だから許される“てへぺろ”を、実写化してなお余裕で使いこなすとは。男の娘のポテンシャルや恐るべし。
益体もないことを言い合っていると、馬車は城門から続く街の大通りをまっすぐ進み、やがて―――。
「見えてきたよ」
「これはまたご立派なお屋敷ですね、ローズ様。本当に私なんかが泊めて頂いてよろしいのでしょうか。―――あっ、罰ゲーム、えいっ」
「ローズローズ、私、ローズと一緒のお部屋に泊まりたいの」
「あっ、こらっ、テレーズ、駄目よそんなのっ。ふしだらよ、ふしだらっ。それとジャンヌっ、そういえばあなたポーカーをやる前に罰ゲームとかやだって言ってなかったかしらっ?」
「もう、最後まで騒がしい方々ですねっ。少しは落ち着きと言うものを―――」
元々仲良しだったメンバーだが、一日狭い車内で共に過ごしたことでさらに気兼ねなくなっている。
一人男性のアンリだけはまだ一歩引きがちだが、地道な好感度稼ぎが実を結んだかローズに対しては他よりいくらか遠慮がない。すでにしてローズ的には大成功の旅行と言えよう。
とはいえ、旅の日程は始まったばかり。いや、まだ始まってもいないと言うべきか。
「―――ようこそお越し頂きました、ヴィクトリア殿下、それに他の皆様も」
屋敷の門扉前に並んで出迎えてくれたのは、ボーモン家当代の当主とその夫。要するにローズのお母さんとお父さんだ。屋敷の使用人一同もずらっと並び頭を垂れている。
家族揃っての帰省が例年のことであるが、今夏はローズが友達を―――それもそのうち一人は王女様―――を連れて帰ると言うことで、両親は日程を繰り上げ歓迎の準備を整えてくれていたのだ。女王からも呼び出しを受け“娘を頼む”と脅し、もといお願いをされたらしい。
「ご無沙汰しております、おば様、おじ様」
「お久しぶりですね、エリカ・ステュアートさん。大きくなりましたね」
「ご活躍は色々と聞いているよ」
エリカが頭を下げる。
初等部の頃はステュアート邸によくお邪魔したものだが、エリカの方をボーモン邸に招待することも少なからずあった。
「他の皆も紹介するね。ではまずは、―――ヴィクトリア姫、こちらへお願いできますか?」
恭しく足下に跪き、手を取る。
「……ちょっ、ちょっとローズ、それご両親の前でも続けるわけ?」
「もちろん。旅行中はお姫様扱いするという約束でしょう、姫様」
「ぐっ」
手を引き両親の前に進み出る。
「この美しく可憐な御方がヴィクトリア王女殿下。光栄なことに学園では仲良くさせて頂いてるんだ」
「殿下、ボーモン伯爵家当主、リリアーヌ・ド・ボーモンです。よくぞお越しくださいました、歓迎いたします」
「ありがとう。一週間、よろしくお願いするわね」
「はっ。家人一同、殿下にごゆるりとお寛ぎいただけますよう努めさせていただきます」
「えっと、そんなにかしこまってもらわなくても良いんだけど」
両親揃って深々と一礼をし、トリアが戸惑いを見せた。
古い貴族の家系だから、日頃トリアが王宮で顔を合わせる機会の多い宮廷貴族とは忠義の年季が違う。
「それじゃあ次はテレーズ」
「んっ」
名前を呼ぶと、とてとてとてっと小走りに駆け寄ってきた。
「この可愛い子がテレーズ。有名人だし知ってるかな? 研究所のルイーズ所長の娘さんだよ。四つ飛び級してて、僕とは同級生」
「よっ、よろしくお願いします、ローズのお母様、お父様」
「まあまあ、可愛いらしい」
「はい、よろしくお願いします」
テレーズはよそ行きのちょっと緊張した顔で頭を下げた。
両親は微笑まし気に少女を見つめる。自分にはこんな時期はなかったから、ちょっと申し訳ない。
「次はジャンヌ」
「はいっ」
圧巻の爆乳をバルンバルン揺らして寄ってくる。
うろたえた様子もなくさっと視線を逸らした父の紳士っぷりに胸中で賞賛を送りつつ、紹介する。
「この、何と言うか色々と立派な子がジャンヌ。先日の期末試験の課題発表は王都ではちょっとした評判だから、もしかしたら耳に入っているかな?」
「ジャンヌ・ベルナールです。一週間、よろしくお願いします」
「ああ、君が。君のお陰で、私たち男も魔法が当たり前に使えるようになるかもしれないんだってね。期待しているよ」
いつも控えめな父が食い付いた。
やはり爆乳に目がくらんだ、というわけでは無く魔女家系の男子としては単純に気になる話題なのだろう。
「じゃあ最後に―――」
「はい」
ツカツカと、颯爽と。
モデルウォークのように歩くだけで妙に様になるのは、本人なりに女性を意識した結果だろうか。どこからともなくほうっと熱い吐息が漏れる。
両親と使用人の目を奪い、アンリはローズの隣に並んだ。
「こちらの美人はアンリ、いや、アンリエッタ。自由課題について言うなら、彼女はさらに話題の人だから知ってるよね? 学園始まって以来の転入生にして、国父様以来の光魔法の使い手だよ」
「アンリエッタ・マルタンです。よろしくお願いします」
「ああ、貴方が噂の」
「よく来てくれたね」
“将来の僕の旦那さん、そしてあなた達二人の義理の息子です”とは心の中だけで付け足しておく。
「以上、今回は僕も含め六人がお世話になるから、お母様にお父様、それに使用人のみんなもよろしくね」
「よろしくお願いします」
ローズの言葉に合わせて、五人が頭を下げた。
「うんうん、みんな良い子そうだね」
「ええ、何とも素晴らしい友人に恵まれたものです。ローズ、貴方が魔法学園で本当に上手くやれているのか、私達は心配していたのですが」
「そうだね、ローズは少し変わった子だったからね」
「少しなもんですか」
「ははは、冗談きついなぁ、お母様」
「冗談なものですか。まったく、貴方には何度迷惑を掛けられたことか」
母はぴしゃりと切り捨て、父とローズを交互に睨んだ。
「ま、まあまあ、母さん。もう時間も遅いし、夕食の準備も出来ている。皆さんには屋敷に入ってもらおうじゃないか。ああ、誰か護衛の皆さんを馬屋まで案内してくれるかい」
父は母の肩をぽんぽんと叩きながら屋敷内へと誘導していく。父の得意技、妻特攻のなだめすかしだ。“いらんことは言うな”と娘への目配せも抜かりない。
一瞬険悪になりかけた空気は何とかまぎれ、そしてお泊りハーレム旅行がついに本格的に開始された。




