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第7話 王子様系TS少女はロリ枠ヒロインとの過去に思いを馳せる その4

「さて、どうしたものか」


 ベッドに寝そべり保健室の天井を見上げながら、独り言ちた。

 先刻、テレーズの魔法をまともに受けたローズの身体は十数メートルも吹き飛ばされた上、強かに地面に打ち付けられた。制服は魔法の威力そのものは減弱してくれるが、その結果生じる物理現象にまで効果は及ばない。

 ローズは保健室に運び込まれ、テレーズは暴君の異名をさらに轟かせることとなったのだった。

 とはいえ、養護教諭の回復魔法でローズの身体はすでにあらかた癒えていた。

 戦闘訓練の次の授業はA組からE組まで合同の魔法学総説だ。魔法の仕組みを基礎から応用まで総ざらいする講義である。魔法初心者の原作主人公(アンリ)はそこで基本を固めるのだが、ローズや他のA組生徒には少々物足りない内容だ。

 ここはサボタージュと決め込んで、現状を整理させてもらっていた。

 原作ゲームにおいて、主人公(アンリ)は“暴君”テレーズの横暴な振る舞いを諫め、戦闘の末に勝利を収めることで彼女の関心を引くことになる。

 その後互いに切磋琢磨する中で、彼女の“母親に認められたい”という願いに気付き、奮闘することになる。魔法研究者である母親の目に留まるため、テレーズはアンリの協力の元で魔法使いとしての実績を重ねていく。ドキドキのお泊り勉強会や水着イベント―――海での特訓―――などを差し挟みつつ。

 そして遂には学園祭の出し物の一環で、この国最強の魔女である女王に模擬戦を挑み辛勝を収めるのだった。

 そこからもさらに様々なごたごたがある。

 テレーズが自身が魔法研究所で作られた試験管ベイビーであることを知ってショックを受けたり。実はルイーズも一般的な母親以上の愛情を娘に抱いていることや、それでも娘に対してどう振舞えば良いのか分からずに思い悩んでいる事が判明したり。


「あの真情を吐露するシーンが実に良いんだよなぁ。それまでお堅く冷たいキャリアウーマンのイメージしかなかったルイーズが泣き崩れてさ。そういえば彼女はファンディスクでのヒロイン化が望まれてたっけ。―――っと、いかんいかん」


 思考がすっかり横道に逸れてしまった。元々が大好きなゲームの話だから仕方がない、と自分に言い訳をしつつ本筋に戻る。

 攻略の第一段階。テレーズの関心を引いて切磋琢磨する関係になる。これは、限定的にではあるが成功した。


「ただ、ゲームのアンリと比べるとまだちょっと距離があるんだよなぁ。信頼感が足りないと言うか」


 善戦程度ではなく、しっかり勝利しなくては駄目と言うことなのだろう。


「というか、アンリは魔法を本格的に習い始めたばかりで、あのテレーズに勝ったのか。ちょっと凄すぎるな」


 さすがは主人公と言ったところか。

 このローズも、肉体も脳味噌も前世とは比べ物にならないくらいにハイスペックだ。

 現世なら女性アスリートとして大成したであろう身体能力に、一を聞いて十を知る理解力、数度聞いただけの呪文を諳んじる暗記力。そしてこの世界特有の魔力量も学園の中で五本、とはいかないまでも十本の指には入る。上に来るのはそれこそテレーズのような規格外の存在だけだ。そして、来たるべき日に備え努力を怠ったこともない。

 だから、密かに自信を持っていた。魔法初心者のアンリが出来ることは、たいがい自分にも出来るだろうと。

 しかしとんでもない。実際に目にすると、テレーズのあの魔法の完成速度は異常だし、適当なようでいて威力も精度も申し分ない。ローズ・ド・ボーモンにとって圧倒的に格上の存在だった。

 とはいえこのまま善戦を続けていても、いずれテレーズから飽きられて終わりだろう。何とかして勝利を収めねばならない。


「う~ん、風以外の属性を試してみるべきか」


 術者ごとに魔法の得手不得手があるが、ローズの得意な魔法は火である。

 火、水、風、土の基本四属性の中でもっとも威力を出しやすいのが火魔法である。大規模破壊魔法などと言われる類のものは大抵火魔法が基本となっている。

 一方で水に呑まれ、風に吹かれ、土に打ち消されと、他属性との相性は一方的に悪い。

 また風魔法よりも遠距離攻撃時の威力の減衰が早く、狙いもぶれやすい。飛翔魔法を有し、的も小さいテレーズ相手には得策とは思えない。


「んんー、どうしたものかな」


「―――何がです?」


「わわっ、エ、エリカ? どうしてここに? 授業は?」


「終わりましたよ。ローズさんは食事をどうするおつもりか聞きに来たのですけど。チャイムにも気付かないぐらいでしたら、もう少しお休みいただいた方が良いかしら?」


「いやぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだから」


「考え事?」


「―――噂のテレーズにのされちゃったんですってね、ローズっ」


 ベッドの上に身を乗り出してきたのはトリアだ。最近は大抵この三人で昼食を取る。

 そこにローズやエリカとお近づきになりたい下級生達が混じって来ることも少なくないが。


「ははっ、まあね。いやぁ、さすが神童」


「もうっ、あんまり心配させないでよねっ。いや、別にそこまで心配したってわけじゃないんだけどさっ。心配で、―――じゃなくて気になって、授業に身が入らなかったじゃないっ。しっかりしてくれないと困るのよ、あなた一応あたしの先生なんだからっ」


 と、言うことになっていた。

 原作では天才ながらも魔法初心者である主人公(アンリ)とトリアは競い合い励まし合う関係に収まるのだが、学年次席の秀才ローズでは初めの立ち位置が違い過ぎる。

 一方的に彼女に魔法を教える時間が長く続き、今ではトリアの母親であり女王にして学園長でもあるアイリーン・ファリアスも公認の個人教師(チューター)を務めていた。


「やはり手強いみたいですね、テレーズさん」


「うん。エリカも強いけど、ちょっと次元が違う。―――ああ、ごめん、別にエリカが弱いって言いたいわけじゃないんだけど」


「構いませんよ。ローズさんが一方的にやられてしまうのなら、私だって今はまだ勝つのは難しいでしょう」


 “勝てない”ではなく“難しい”と、そして“今はまだ”とエリカは言った。

 “難しい”というのは長年首席を保ち続けてきた自負が言わせた言葉であり、“今はまだ”というのは純然たる事実だろう。

 ローズ以上に秀才型のエリカの戦闘は、言うなれば詰将棋だ。それも自駒を好きな種類、好きなだけ選択出来るルールの。

 あるいはグー、チョキ、パーのどれか一つしか出せない相手に対して、彼女だけは全ての選択権を有するジャンケンとでも言えば良いか。

 基本四属性をまんべんなく高水準で使いこなす上に応用属性も多数を拾得する彼女は、相手の苦手をほぼ一方的に突くことが可能なのだ。

 テレーズの風魔法のような一点突破の火力には劣るが、相手の手の内を知れば知るほど勝率は高まる。


「さては、僕を生贄にする気だね?」


「いえいえ、まさか。大切なお友達をそんな風には思いませんわ。ただローズさんに粘って頂けると、結果的に私に都合が良いと言うだけの話で」


 当然、次席のローズに見切りを付けたなら次にテレーズの興味が向かうのは学年首席のエリカだろう。来たるべき時に備え、今はローズのやられっぷりを観察中と言うわけだ。


「せっかくだから聞くけどさ、何か使えそうな手は思いついたかい? 出来れば僕にも出来そうなやつでさ」


「ふふっ、さてどうでしょうか」


「―――? ――?」


 やり取りの意味が分からず、トリアが頭上に疑問符を浮かべ小首を傾げる。

 彼女には今のまま純粋でいて欲しいものだった。


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[一言] すれ違ってる親子か
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