表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

259/282

第259話 王子様系TS魔法少女は僕に恋をする その27

「―――ローズっ、ローズぅっっ!」


「…………んっ、くうっ」


「ああっ、ローズっ、気が付いたのっ!?」


 視界いっぱいにテレーズの顔があった。目に大粒の涙を溜めている。


「あぁ、テレーズ。怪我はないかい、―――いぎっ」


 今にも零れ落ちそうな涙に思わず指を伸ばそうとしたら、背中に激痛が走った。

 痛みはビリビリと全身に波及し、さらには悪寒やら吐き気やらありとあらゆる不快感がこみ上げてくる。


「むっ、無理に動こうとしちゃ駄目なのっ! 安静にっ、安静にしているのっ!」


「ああっ、―――くぅっ」


 テレーズの言う通り大人しくしていることにした。

 空中でテレーズの身体にしがみついて、何とか懐に抱え込んで、それで―――、そこで記憶が途絶えている。客席に突っ込んで、意識を失ったのだろう。

 身体は動かせないから眼だけを動かして自身を見下ろす。真っ赤な血で出来た水たまりに横たわっていた。幸いにして、と言うのもおかしな話だが、多量の血は全てローズ一人のもののようだ。観客席の生徒達は上手く避けてくれたらしい。

 手足はおかしな方向にねじ曲がっていた。これでは痛みなんて無くても涙を拭ってやることなんて出来そうにない。―――あっ、やばっ、出血と怪我を意識したらクラっとしてきた。


「テレーズ選手っ、離れてくださいっ! 回復魔法をかけますっ」


 どたどたと複数人が駆けて来た気配がして、ローズの周囲を取り囲んだ。


「あなた達の回復魔法じゃ駄目なのっ! アンリをっ、アンリを早く呼んで来るのっ! この傷を治せるのはアンリだけなのっ!」


 テレーズが声を張り上げて威嚇する。


「―――皆さんっ、どいてくださいっ!」


「遅いのっ!」


「あっ、あなたは怪傑ビル選手っ!? いったい何をっ!?」


「ローズさん、今、癒します」


 上気し汗ばんだ怪傑ビルアンリの顔が視界にのぞき―――


「―――――――。――――――。―――――――――――。“回復”」


 すぐに暖かな光が発され、ローズを包み込んだ。


「ふっ、くうぅっ」


 アンリの回復魔法を受けるといつもなら心地良いくらいなのだが、今日は体の内部で壊れていたものがゴリゴリと強引に組み合わされていく得も言われぬ感覚と、小さくはない痛み。それだけ重症だったと言うことなのだろう。


「ビル選手っ、回復魔法まで使えるのですねっ」


「ああっ、それにしてもこれは、なんと見事なっ」


 見る間に正常な姿を取り戻していくローズに、周囲を囲んでいた回復魔法適正持ちのスタッフ達が感嘆の声を上げる。やはりアンリの回復魔法の効果は破格である。


「ふうっ、ありがとう、ア―――、怪傑ビル選手」


「もうっ、ローズっ、無茶し過ぎなのっ!!」


 血塗れのローズにテレーズが躊躇なく抱き付いてくる。


「あっ、ちょっとテレーズ、まだちょっと手加減してっ、背中ビキってなったっ、ビキってっ」


「あわわっ、もっ、もう一度回復しますねっ。―――――――。――――――。―――――――――――。“回復”」


「いつつっ、……何にしても、君を守れて良かったよ」


 再び光に包まれながらテレーズの背中をどうどうと軽く叩いてなだめ、耳元に小さく囁く。


「ちっとも良くないのっ。私が平気でもっ、ローズがこんな大怪我してっ。もっ、もしかしたらっ、死んじゃってたかもしれないのっ。こんな無茶してっ、ローズは馬鹿なのっ」


「だって、僕がアンリと結ばれたら、テレーズは僕の大事な大事な義妹いもうとってことになるんだからね。そりゃあ身体を張って守りもするさ」


義妹いもうとっ!?」


 ちょっと声が大きい。が、周りの生徒たちも義妹という単語一つでは何の話か分かりはしないだろう。こちらは変わらず耳元で囁く。


「そうだよ、君とアンリは兄妹なんだから、僕にとってテレーズは義理の妹、テレーズにとって僕は義理の姉ってことになるのさ。まさか気付いていなかったのかい?」


「アンリにローズを取られちゃうって、ずっとそればっかり考えてたから。…………そっか、ローズが義理の姉。私のお姉ちゃんになるんだ」


「ああ、そうさ。可愛いお嫁―――お婿さんをもらうだけじゃなく、可愛い妹まで出来るんだから、僕は幸せ者だね。…………よいしょっと」


 ちょうどそこで回復魔法の光が収束した。テレーズを抱えたまま立ち上がる。もうどこにも痛みは残っていない。


「ちょっ、ちょっと、いきなり立ち上がって大丈夫なんですかっ、ローズさんっ」


「大丈夫。すっかり完治して、―――っと」


 さすがに失った血までは完全には回復しないのか。軽い眩暈に襲われふらつきかけたところを、腕が何本も伸びて来て支えられた。


「毎度のことながら無茶をし過ぎですよ、ローズさん」


「そうよ、心配したんだからっ」


「ほっ、ほんとですよぉ」


 いつの間にか解説席からエリカとジャンヌが、どこからかトリアまでやって来ていた。


「ちょっとテレーズ、いつまでローズに引っ付いてるのよっ。怪我が治ったばっかりなんだから、負担になるようなことしないっ」


「ローズは私のお姉ちゃんになるんだからっ、妹には甘える権利があるのっ!」


「ちょっとテレーズっ! それは言ったら―――」


「―――そう言えばテレーズさんはトリアさんとの決闘で負けて、トリアさんの妹分と言うことに落ち着いたんでしたねっ」


「そうそう、そうでしたっ。ですからローズ様が優勝されてアンリ様とご結婚された場合、トリア様を介してテレーズ様とローズ様も義理の姉妹と言うことになるんですねっ」


 エリカとジャンヌがすかさずフォローを入れる。


「ああー、そういえばそうだったわねぇ。……でもテレーズっ、そういうことならローズじゃなくまずはあたしに甘えるべきじゃないかしらっ! そういえば貴方、あたしのことお姉ちゃんって呼ぶ約束だったわよねぇっ!」


「うぐっ、い、いらないことを思い出させてしまったの」


 ずいぶんと久しぶりな気がするいつもの空気感。

 最近は時間があればそれぞれ大会へ向けて特訓に励んでいたし、対戦相手でもあるから交流は控えがちだった。


「と、こ、ろ、で、……話は変わるけど、ローズ? あたし一つ気になっちゃったんだけど。あたしとの試合でも最後に二人して場外に墜落したじゃない? あの時って、ローズはあたしを助けようとしてくれてたかしら?」


「いや、それはそのぉ、……あの時は僕も一緒に吹き飛ばされてたわけだし、テレーズほど速度が出ていたわけでもないし」


「つまり助けようとしてくれなかったってことよねっ。なんでよっ、助けようとする努力くらいしなさいよっ!」


「実際トリアは回復魔法も必要ないくらいピンピンしてたんだから、助ける必要なんかないのっ! ローズの判断は正しかったのっ!」


「本当、不思議ですよね、トリアさんの打たれ強さって」


「そうだね。僕はてっきり学園長先生が娘可愛さで一人だけ強力な耐魔法術式でも制服に組み込んだんじゃないかと疑ってたんだけど。でもトリアって魔法だけじゃなく物理にも強いから、それだけじゃあ説明が付かないんだよねぇ」


「トリア様、一度研究所で検査をしてみませんか? 何か特殊な魔法でも発生してるのかもしれません。魔物の中にはそういう魔力の使い方をする種が―――」


「ちょっ、ちょっとジャンヌっ、変なこと言わないでよっ。ていうか、その目っ、怖いっ」


「ああ、ジャンヌさんがまるで実験動物でも見るような目でトリアさんを」


「まっ、魔法狂いもたいがいにしなさいよねっ。ちょ、ちょっと、だからその目怖いって」


「―――あなた達、盛り上がっているところ悪いのだけれど、そろそろ試合の方の判定をお願い出来るかしら?」


 良い感じに和んでいるところに、聞きたくもない女王の声が割り込んできた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
瀕死の状態から立ち直ってすぐの相手に言う事じゃないっすよ女王様~?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ