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第178話 王子様系TS少女は魔王と対面する その1

「―――馬車が王宮を出立いたしました。生徒会役員の皆様は校門前へ御集合ください」


 魔導拡声器を用いた校内放送が、その時を告げた。


「行きましょうっ」


 ローズ達は一度顔を見合わせ、廊下へ出る。


「―――あっ、まってまってっ、あたしを置いてかないでっ!」


 C組からトリアが飛び出してきて合流し、途中で一年生メンバーと元役員の三年生達も加わり、エリカを先頭に校門へと至る。

 振り返り見上げると、校舎の窓には高等部の生徒達がずらっと顔を並べ、こちらの様子を伺っている。さらに言うと校門前の通りには出席停止扱いの初等部中等部の生徒達までが大勢詰めかけていた。対応に追われる警備の兵士の皆さんには申し訳ないが―――


「学園生達の気概たるや、まったく誇らしいね」


「ええ」


 生徒会長エリカは晴れがましい表情。俗っぽく言うとドヤ顔だ。―――高等部三学年全員出席という想定外の事態に授業形態から警備体制まで見直しを迫られてグチグチと恨み言を吐いていた土日の姿が嘘のようだ。


「い、いよいよですね」


 アンリはさすがに神妙な顔付き。

 魔王の狙いが光魔法の使い手のアンリである可能性は、当人はもちろん他の生徒会メンバーにも共有してある。緊張も当然であろう。


「大丈夫、いざとなったら僕が守るから。怖かったら僕の後ろに隠れてくれていいんだからね」


「いやいやっ、守るのは―――僕の役目ですからっ。ローズさんこそ、怖かったら僕の後ろに下がっていてください」


 途中ごにょっと濁したが、他に人目が無ければ“男の”僕の役目と言おうとしたのだろう。


「アンリエッタの出る幕なんてないのっ! 魔王のやつがもしローズに何かしようものなら、私がただじゃ置かないのっ! アンリエッタも、そっちの一年生たちも、自信がないならもう少し下がっているのっ!」


「テレーズはいつも通りだねぇ」


 母親ルイーズへの執着やローズへの偏愛っぷりが示す通り好きな対象への依存度は高い彼女であるが、逆にそれ以外の存在に対しては無関心と言って良い。魔王すらもローズに敵するかどうかが判断基準となるらしい。いや、不安そうにしている一年生メンバーへのぶっきらぼうな気遣いが見られるあたり、テレーズも成長していると言うべきか。


「う、ううっ、ま、魔王。まさかあの日のリザードマンの革から、こんな大事に発展するだなんて」


 この中で唯一自前の戦力を持たないジャンヌは、さすがに不安そうな表情。


「大丈夫、ジャンヌのこともいざとなったら僕が守るからね」


「は、はいっ。ありがとうございます、私なんかを、―――あっ、罰ゲームっ」


 いや、案外平常運転か。肝が据わっている。


「トリアさんとマーガレット殿下は昨日会われたんですよね?」


 エリカが王族二人に話題を振る。


「そうよ、到着してすぐにお母様達と一緒にご挨拶して」


「その後に晩餐もご一緒させて頂きました」


 当然、魔王のファリアスでの滞在先は王宮である。昨夜遅くに王宮内の中庭にワイバーンで乗り付けたと言うから、今のところ魔王の姿は王族と近衛、王宮内で働く一部の人員の目にしか触れていない。


「どんな人、―――いや、どんな魔人だったんだい? 晩餐会では、どんな話を?」


「……うう~~ん」


「ちょっと一言で言い表すのは難しいですね」


 トリアと元会長は二人して頭を悩ませる。


「あんまり会話が弾まなかった感じですか?」


「う~ん、あれは弾んだって言って良いのかしら?」


「魔王様はずいぶんと打ち解けたご様子でお話になっていましたけど、会話が弾んだというのとはちょっと違いますかね」


「そうよね、一方的にまくしたてられただけというか。あの訳分からない感じは―――」


 会長とトリアはちらっとローズに視線をくれた。


「あっ、やっぱりお姉様もそう思った?」


「……まあ、ほんの少しだけ」


「?」


 何やら二人して通じ合う。


「あ、そういえば、そもそも見た目はどんな感じの方なんですか? 魔人って言うくらいですから、魔物と言っても人に近い姿をしているんですよね?」


 アンリが次の質問を投げかけた。


「ん~、何と言うか、ちょっと独特の色彩をしていたわね。肌が青紫で、目は白目と黒目が反転してて。けど、オークやゴブリンなんかとは比べ物にならないくらい人っぽくはあったわね」


「そうですね、頭の角を隠して、あとは化粧か何かで肌と瞳の色さえどうにかしてしまえば、ほとんど人間と見分けがつかないんじゃないでしょうか。ああ、二メートル近い長身なので、それでもかなり威圧感はあると思いますけど」


「まとめると、角が生えてて、青紫の肌で、目は白黒反転してて、二メートルの長身か」


「こ、怖いですね」


「それ、本当に人間っぽい見た目になるの?」


 ジャンヌがぶるっと身を震わせ、絵面が思い浮かばないのかテレーズは胡散臭げな視線をトリアと元会長に向ける。

 が、言葉を選ばず言うなら、ローズ的には割とよくある魔王の造形だ。前世では青肌で人間形態の魔王とか悪魔とかは定番のキャラデザである。そういえば“まほ恋”にも―――


「あっ、来ましたよっ」


 アンリの声でローズは現実に引き戻された。

 金と赤を基調としたファリアス王家の馬車が一台、王宮の方から駆けてくる。御者をしているのはローズ達も何度かお世話になった学園出身の近衛兵おねえさんだ。

 大勢の学園生が見守る中、馬車は校門前で停車する。


「―――陛下、こちらが我がファリアスが誇る教育機関、王立魔法学園です」


 まず馬車から降りてきたのは学園長である女王だ。車内に“陛下”と呼び掛けているが、当然その陛下というのは自身のことではなく―――


「うむっ、ついにこの目にする時が来たかっ!」


 次に馬車から―――先に降りた女王を急かすように慌ただしく―――長身の人影が一つ飛び降りてきた。たった今トリア達に聞いた通りの容貌をした人物。


 ―――これが魔王っ!?


 トリアやアンリと比べても一回りも二回りも大きい魔力の塊に、思わず息を呑む。ただ大きいだけでなく、濃密とでも言えばいいのか。魔力探知を使うまでもなく、意識を研ぎ澄ませるまでもなく、否応なく感じさせられる威圧感。


「―――っ」


 先頭に立つエリカは魔力に当てられたか色を失い、白い顔をさらに蒼白に。

 半歩後方のローズも胸に重苦しいものを感じる。―――感じるが、そんな重苦しさなど驚きの前に吹っ飛んでいた。


 ―――“謎の男”だっ!


 それは前世で“見た顔”だった。似たようなキャラデザを、ではなく、そのものずばりのキャラクターを。

 まほ恋初回購入特典の設定資料集に収録された数枚のラフ画。その中に描かれていた人物だ。

 この手のゲームには主人公の悪友ポジションの男性キャラクターが付き物だが、女学園潜入もののまほ恋ではその役割を振られたのはローズであり、同年代の男子は登場しない。そんな中で明かされた若い男性キャラクター、しかも人間離れした容貌とあって、ファンの間では“謎の男”と呼ばれ様々な憶測が飛び交っていた。とはいえ公式からは特に何の解説もなく、結局はただの没キャラだろうと言う結論に落ち着いていた。それが、まさかの魔王だった。


「ファリアスの陛下、案内ご苦労であった! いや、ここでは学園長殿と言うべきかなっ!」


 魔王が上機嫌に話すと、大気が揺れた気がした。いや、揺れたのは大気中を漂う魔力であろうか。


「それにしてもなかなか盛況ではないかっ! 皆の者っ、お出迎え感謝するっ!」


 初等部中等部の生徒達が詰めかけた沿道と、学園校舎を見回して魔王が言う。


「ええ、学園を挙げて歓迎いたしますわ、陛下。そして、こちらへ控えておりますのが学園内で主に陛下の供応役を務めます、我が校の生徒会のメンバー達で―――」


「―――おうおうっ、麗しの漆黒の君よっ!」


「―――っ!?」


 女王の紹介を待たず、魔王は両腕を開きつかつかと歩み寄る。まだ白い顔をしているエリカの元へ。


「―――うちの生徒会長に何か御用ですか、魔王陛下?」


 ローズは一歩前へ出ると、エリカを背後に庇う。


「生徒会長? ほう、エリカ・ステュアートが生徒会長の座を射止めたのか。なるほど、なるほど」


 魔王は何やら訳知り顔でうんうんと二度三度首肯する。


「―――っ、へ、陛下、ようこそお越しくださいました。歓迎いたします」


 エリカはその間に態勢を立て直すと、ローズの隣に並んで頭を下げる。一方のローズはと言うと、とっさに前へ出たは良いものの―――


 ―――“麗しの漆黒の君”、だって!?


 そのフレーズに頭の中を支配されていた。

 それは原作まほ恋でのエリカ・ステュアートのキャッチフレーズのようなものだった。例えばオフィシャルホームページのキャラクター紹介や、ゲームのオープニングムービーでエリカの名前と共に併記されるいわゆる二つ名だ。他にもトリアなら“暴走お姫様”、テレーズなら“小さな最強”など。いずれも彼女達のキャラクター性を端的に表したキャッチフレーズなのだが、ゲーム本編中では使用されることの無い表現であり、加えてこの世界においてもエリカにそんなあだ名は存在しない。


「うむ、歓迎感謝するぞ、エリカ・ステュアートっ! ―――おおっ、それに隣の君は“学園の王子様”ローズ・ド・ボーモンかっ!」


「―――っ!」


 白黒反転の目をエリカからローズへ移し、魔王が再び興奮気味に口走った。


 ―――“学園の王子様”。


 確かにそれを自認するところではあるローズだが、実は実際に自称した覚えもなければ学園内で他称された記憶もない。時折興奮したファンの子達が“王子様みたい”と黄色い声を上げるぐらいか。現実のローズのあだ名はあくまで“学園のお兄さま”である。

 そして“学園の王子様”とは“麗しの漆黒の君”と同じく、原作ゲームにおけるローズ・ド・ボーモンのキャッチフレーズであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ…他にも居るだろうとは思ったけどそこに入ってたかぁ… 上手くやれば和平を結べそうだけど、性格次第か?
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