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第11話 王子様系TS少女はロリ枠ヒロインとの過去に思いを馳せる その8

「テ、テレーズ、落ち着いてっ。学園長先生のっ、陛下の御前だよっ」


「……ローズ。―――“ローズのっ”、“嘘つきっ”」


「おわっ、そうか、僕も標的になるのかっ」


 横っ飛びに圧縮空気を避ける。

 的外れなアドバイスをしたローズも今のテレーズにとっては敵と言うわけだ。

 床を転がりながら視線を走らせると、学園長とルイーズはすでに風の障壁魔法を展開している。さすがはこの国最強と最高の魔法使い。


「“避けるなっ”、“なのっ”」


「―――。“風巻しまけ”。ふっ、はあっ」


 剣を出し、テレーズの魔法を弾く。


「あら、変わった魔法ね。ローズちゃんの独自オリジナルかしら?」


「ええっ、その通りっ」


 学園長の呑気な問い掛けに、追撃を弾きながら答える。

 下手に大事にされるよりはこれくらいの軽さは有難い。いや、ちょっとくらいは加勢して欲しいところではあるが。


「“嘘つき”、 “嘘つき”、“嘘つきっ”」


「つっ、くうっ、うげっ」


 発動がいつも以上に速い。

 剣を返すのが間に合わず、圧縮空気弾が一発腹に叩きこまれた。

 数歩後退る。ビキビキっと軋むような痛みは、制服の耐魔法術式を貫いて肋骨にひびでも入ったか。

 普段怒りに任せて魔法を暴発させているようで、テレーズなりにちゃんと加減してくれていたことがよく分かる。そして今は、そんな自制も聞かないほどに激昂していることも。


「テレーズ、やめなさいっ! 貴方、なんてことをするのっ!」


 そこで、呆然としていたルイーズが娘を叱りつけた。

 母親としては正しい行動だ。しかし今この瞬間においては、どうやら最悪に近い。


「~~~っっ!! もう、“知らないっ”」


 今度は圧縮空気の巨大なライフル弾が地面に叩きつけられた。

 強風が舞い上がり、ローズは思わず目を閉じた。そして再び目を開けた時には―――


「テレーズっ、待つんだ」


 少女の姿は上空にあった。

 赤々とした双眸は、瞳だけでなく白目までも真っ赤に充血させている。

 テレーズはこちらへ一瞥をくれるも、何も言わず飛び去ってしまった。


「くそっ。なんて間抜けなんだ、僕はっ」


 たかだかゲームで攻略したくらいで、彼女達のことを何でも知った気になって。

 以前にもそれで失敗して、学んだはずじゃないのか、ローズ・ド・ボーモン。


「―――っ!!」


 パァンと、両手で思いっ切り両頬を張った。


「よし、後悔はここまでっ」


 テレーズの飛んで行った空をきっと睨む。

 たぶん“昔”の自分ならグチグチと言い訳を繰り返して一丁前に自己正当化し、されど彼女と顔を合わせるのは怖くて気まずくて、そうして逃げ出してしまったことだろう。自分に自信の無いただのクソオタクなんてそんなものだ。


 ―――今は違う。僕はローズ・ド・ボーモンだ。


 下級生達が憧れるお兄さまでエリカのライバル、トリアの魔法の先生。そして神童テレーズの友人だ。はじめたからには最後まで演じ切れ。


「ええと、貴方、確かボーモン伯爵の御令嬢だったわよね?」


 奇行に走るローズに、ルイーズがおずおずと声を掛けた。


「おや、僕をご存知でしたか、ルイーズ様」


「ええ。毎年、貴方の首に銀のメダルを掛けてあげていたでしょう?」


「ああ、なるほど。今年はその栄誉はテレーズに奪われましたけどねっ」


 トーナメント二位の生徒に研究所所長がメダルを授与するのは例年のことだ。


「……もしかして、娘の友人なのかしら?」


「はい、テレーズとは仲良くさせてもらっています。ローズ・ド・ボーモンと申します」


 改めて名乗り、頭を下げる。


「そう、あの子にお友達が。……ごめんなさいね、お恥ずかしいところを見せてしまって」


 溜息交じりにルイーズは言う。

 彼女はまだ、あれをいつもの癇癪程度としか思っていない。

 当たり前だ。本来紆余曲折を経て丁寧に紡がれる物語が、このローズという異分子の手によって無遠慮で乱雑に片付けられようとしていたのだ。

 満を持してのテレーズのおねだりも、日々のちょっとした我が儘程度にしかルイーズの目には映らなかったのだろう。事情を知らない彼女に察しろと言うのが土台無理な話なのだ。


「ひょっとして、また例の如くお節介を焼いているのかしら、ローズちゃん?」


 学園長が言う。


「ええ。そしてまた、失敗しちゃいました」


「あら、以前の“あれ”は失敗などではなかったでしょう?」


「学園長先生がそう言ってくださるのなら、そうなんでしょうけど」


「ええ。断じて失敗などではなかったわ、百点満点とは言わないまでも、九十点は固い出来だったわね。ふふっ、万年次席の貴方らしい結果と言えるのかもしれないわね」


「ははっ、それだけ取れれば上等ですね」


 世の人間関係に百パーセントの正解などあるわけもない。ならば九十点は主人公足り得ないローズには十分な出来だ。


「今回も、まだ最初の問題につまづいただけなのでしょう?」


「ええ、ここから取り返しますよ。―――うん、万年次席の僕なら、九十点はまだ狙える」


 意味不明のやり取りにルイーズが戸惑いの表情を浮かべる。


 ―――さて、ここからどうする?


 この状況でテレーズは何をするか。いや、何をしていたか。

 ローズは性懲りもなく原作知識を紐解く。過信は禁物だが、間違いなくそれは自身しか持ちえないアドバンテージではあるのだ。

 状況は、シリアスパート中盤のシーンに酷似している。

 強さを示し続けたテレーズは、それでも自身に関心を向けない―――ように見える―――ルイーズにしびれを切らして暴走することになる。

 今回はその暴走の切っ掛けをローズが作ってしまったわけだが―――


「いけないいけない。後悔は今夜ベッドにでも潜ってから、好きなだけするさ」


 ぶんぶんと頭をふって思考を切り替える。今は冷静に対処を考える時だ。

 原作をなぞるのではなく、思考を一歩先へ進めろ。

 テレーズは今、たぶん“あそこ”にいるはずだ。子供らしい癇癪をぶつけ、その結果自身の出生の秘密に触れることになる。


「……そうだ。考えてみると、何であそこにあんなものが。―――ルイーズ様、一つお尋ねしたいことがあるのですが」


 光明を見出し、ローズは切り出した。


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