蜜薔薇裁判
「 厭わしき大罪負いし此がそうび、静粛にして受けよ、満場一致の判決なるぞ。
汝人は勤勉かつ純忠たる蜜蜂君を、その淫蕩かつ嬌艶なる芳香にて惑わしめ、芳醇な蜜を以って誘い込み、莟殻という監獄に陥れ、哀れ蜜蜂君は粘つく緋羂にそのたおやかな足首獲られ、ひきかえすこともならず、琥珀色の中で窒息してしまったのだ。
こうしてまたその蜜は艶を増し、香りを増し、透度を増し、新たなる生贄を求め、此が悪食のおぞましさ、まさに神に対する抗命であり、庭園に於ける秩序を著しく乱すものであるゆえに、我らはここに死刑を宣告する。
汝人はその麗しさの為に彼らを惑わせたのだから、またその為に滅びの瞬刻を迎える。
断頭台がもとにそっ首捧げよ、干乾びて、醜悪なる姿晒すまでが罰よ。
傾注! それでは刑を執行せよ。 」
紅潮した頬と同じ彩りのくちびるで、うっとりとした面貌で、恋人にするそれの如くに少女は囁く。
小さなてのひらにあえかに咲き横たわる受刑者に、彼女は厳格な裁判員であり、無慈悲な死刑執行人であり、そうして、はなびらを摘むあどけない指先が、撒いて散らして舞わして墜としてそれを弄ぶ。
しとやかに霧を含む真紅の天鵝絨を千切り捨て、踏みしだき、崩れてゆく様を悦びながら日の暮れるまで踊り、そうして、夕闇の頃には何もかもを忘れ、可憐の犠牲者を顧みることもなく、夢にも現れず。
刹那の快楽にあまねく奪い、塵を積もらせ怒濤のような紫の河の堰を切れ。
童のための、無垢なる残酷、なよびやかな戯び。