「完結」してないじゃん 留音と真凛編
「あれっ!あたしらの伝記、完結してないじゃん、いいのかこれ?せっかく投稿したのに……」
留音が一人でリビングの共用パソコンを使っていた時の事。自分の活躍の投稿作品がいい感じの最終部を迎えて、なお完結した扱いで投稿されていないことに気づいた。
「なー衣玖ー……衣玖ー?いないのか?」
留音が「おーい」と衣玖の部屋の方やトイレの方に向かって声をあげていると、その声を聞きつけた真凛がひょこっと顔をのぞかせた。
「どうしたんですか留音さん。衣玖さんなら今出かけてますよぉ?」
真凛はそのままテコテコ歩いて留音の開いているパソコンに近づいていく。すると留音は少し椅子を動かして画面を見やすくスペースを開けながらこう言った。
「あぁ真凛。いやさ、これ見てみろよ、完結してないんだよ、あたしたちのこれ」
これ、が何かはすぐにわかったようだ。つまりこのシリーズであることは説明する必要もないだろう。
「えっ?あららっ、いいんですか?完結ってしてなくて」
真凛もシリーズが「まだ続きます」になっていることに気がついたようだ。
「いやわかんない……それで衣玖に聞こうと思ったんだけど……どうしよ、早めに決めたほうがいいのかね?」
「どうなんでしょう……わたしこういうのわからなくて……」
「あたしもわかんないんだよ。でもあたしらの事だし、一番いい方法で行きたいじゃん?」
「それもそうですねぇ……え~、どうしたらいいんでしょう……終わらせることは得意ですけどこればかりは……」
人の息の根や害虫の短い命、それからこの惑星の歴史を終わらせることに定評のある真凛はそう言って悩んでいる。留音はそんな真凛でもわからないか、と少し肩を落としている。
「んー、あえて完結にしてないのか?完結のメリットってなんだ?なろうのトップページに完結済みとして一瞬表示されるだけで、その後は流されたらもうトップ画面に表示されることはないんだよな?」
「うんと……だったら何かしらあった時に更新できるように完結したことにしないで置いときますか……?」
「……まぁ、そうすれば目に止まった人からチェックされる機会が増えるかもしれないし……」
「でもそれってちょっとずっこくないでしょうか……」
「いやいや、でも完結済みにしなかったのはあたしらじゃないじゃん?見なかったことにすればいいだけだし……」
「いいのかなぁ……あ、でも最終部ってところで完結に変更も出来ないんですね」
「そうなんだよ。変更出来るならキレーにスパッと完結でもいいと思うんだけどさぁ……」
「うーん……あ、でもこの作品にはあの子も出てるんですよね……」
あっ、と留音がそれに気づいたように口をパと開けると真凛が少し暗めの表情で言った。
「あの子が出てくれた作品をちまっとした状態で終わらせちゃうのもアレですもんね……評価点は0だしユニークユーザーが100にも満たない状態なんて……もっとわたしたちが頑張れる余地を残しておくのもいいですよね……」
「確かに……あたしらの力不足であの子の素晴らしさが世に伝わらないまま完結にして、それでそのまま埋もれちまったらあたしらも死んでも死にきれないし……。やっぱ少しでもデカくする余地みたいなのを残すか……まぁそれも、あの子が決めてくれたらってところではあるんだけど。あたしら的にはあの子が決めたことなら快くついていけるし」
全くその通りであった。
「あっ、それいいですね!でも難しい判断にならないかな?悩ませちゃったら可哀想ですよぅ」
「まぁそうだけど……もし悩んで、それで決めないってなってもそれはそれであの子の判断ってことにして、とにかくあたしらが決めるには荷が勝ちすぎてる話になってくるし」
「そうですね……あの子にお願いしたらわたしたちもどんな結果でも納得ですもんね」
やっぱり完結済みにはならないらしい。
もう全員出すまで引き下がれない、みたいな感じになりました。




